内閣支持率が下がった原因は?意外としたたかな岸田政権
支持率急落
岸田内閣の支持率が下がっている。テレビ東京と日経新聞社が1月28日から30日までに行った定例電話世論調査では、内閣支持率は前月比6ポイント減の59%で、不支持率は4ポイント増の30%だった。また日本テレビと讀賣新聞社の2月定例世論調査でも内閣支持率は8ポイント減の58%で、不支持率は28%で6ポイント増加した。さらにJNNが2月5日と6日に行った世論調査ではも内閣支持率は6.5ポイント減の60.2%で、不支持率は7.2ポイント増の36.2%。昨年10月に発足以来、予想外に堅調さを見せてきた岸田政権に暗雲が立ち込め始めている。
理由は岸田文雄首相に決断力がないように見える点だ。岸田首相は仕事納めの12月28日、慎重さを期した口ぶりで記者団に次のように述べている。
「新型コロナウイルスの感染拡大の状況、予断は許されない」
「年末年始も状況をしっかり注視し、そして先手先手で対応していくよう、私の方から指示を出させていただいた」
後手後手のコロナ対策
しかしこれらの言葉とは裏腹に、新型コロナウイルス感染症は爆発的な拡大を見せている。1月9日からは広島県、山口県、沖縄県の3県、1月21日からは東京都他12県、1月27日からは大阪府他1府15県、そして2月5日からは和歌山県でまん延防止等重点措置が実施されているが、収束する様子はなく、期限延長が余儀なくされている。当初は1月末までだった広島など3県では2月20日まで延長され、2月13日に期限を迎える東京都他12県も、大きく延長される予定。また高知県についても、政府は重点措置を適用する方針だ。
こうした事態の原因は、政府が主流のオミクロン株を甘く見ていたせいではないか。オミクロン株は重症化率と死亡率が低いとされる一方で、感染力が強い。よって濃厚接触者を隔離する現行の方針では、リスクの高い医療従事者が不足し、最も懸念されている医療崩壊を招く恐れもあると指摘されている。
またその強い感染力により、アメリカではデルタ株より1日の平均死亡者数が上回ったことも判明。ジョンズホプキンズ大学の調査では7日平均で、1月25日の死亡者数は2258名にも上ったのだ。
国民の命より派閥内事情を優先?
危機管理の原則は最悪の事態を想定し、その対処方針を立てることだが、昨年末に「先手先手」と述べていた岸田首相がその自覚があったかどうかは疑わしい。そもそも国民への広報役となるべくワクチン担当大臣に、なぜ堀内詔子氏を任命したのか。堀内氏は昨年12月の臨時国会で、野党の質問に対して要領の得ない答弁を行い、批判を浴びた。しかし堀内氏は宏池会の重鎮で自民党総務会長や通産大臣などを務めた故・堀内光雄氏の長男の妻で、2020年と2021年の総裁選では岸田首相のために山梨県内の党員票をまとめあげ、県連票の3票を勝ち取った。特命担当大臣とはいえ当選4回の堀内氏の抜擢は、こうした縁故と論功行賞ゆえだろう。しかし国民の命より派閥の都合を優先した人事である印象が否めない。
会見を軽視
こうした事情が新型コロナウイルス感染症の拡大とともに、岸田政権への不信につながったのではないか。また今年に入ってから、官邸会見室での首相会見が開かれていない点も重要だ(1月4日の年初会見は伊勢神宮参拝に際して行われた)。
官邸の会見室で開かれる首相会見は、テレビやネットで中継され、国民の知る権利に十分にこたえる機能がある。一方で官邸内で「ぶら下がり」という記者とのやり取りもあるが、これは官邸に常駐する特定の記者に対してのみ短時間で行われるやり取りで、官邸の記録には残されるものの、重要事項以外は報道されることはほとんどない。すなわち正式の会見ほど、国民の目に付きにくいのだ。
政治家の「聞く力」は「聞かせる力」を伴わなければ意味がない。人の話を聞いてそれを実現していく力こそ、政治家に求められるものだ。さらにそれらは国民の目に見えなくてはいけない。国民が納得できる結果を出してこそ、政治家の「聞く力」は発揮されたといえるのだ。
そういう意味ではワクチン接種は有効かもしれない。重症化を防止するため、国民の不安を和らげるからだ。岸田首相は3回目のワクチン接種を1か月前倒しし、2月7日の衆議院予算委員会で1日のワクチン接種の目標を100万回と宣言した。だが菅政権時では菅義偉首相(当時)の強力なリーダーシップの下で最高で1日170万回接種したこともあり、それに比べると今回のアナウンス効果はいまいちだ。
ハネムーン期間を終えて
昨年10月4日に岸田政権が成立し、今年1月11日で“ハネムーン期間”と言われる100日目を終えている。だが1月の内閣支持率は下がっておらず、このまま高水準を維持するようにも思えた。
しかし高支持率を維持する積極的な理由は、実際のところ見当たらない。岸田首相は2020年の総裁選で、「石破憎し」で操作された議員票がなければ、最下位だった可能性が高い。2021年の総裁選ではいち早く立候補を表明し、準備をし尽くした中での出馬だったが、実際にはダークホースだった高市早苗政調会長の猛追を受けるなど楽勝ではなかった。そして事実上幹事長を更迭された二階俊博氏の恨みはまだ残っており、キングメーカーとして采配を振るいたい安倍晋三元首相とのわだかまりも解消されていないと聞く。
さらに次期参議院選で公明党との相互推薦がとりやめとなった責任も深刻だ。原因は3年前の参議院選の際、広島選挙区で河井案里氏を当選させるために公明党と票をバーターし、他の自民党候補にしわ寄せしたことだが、公明党内には選挙の強い岸田首相や茂木敏充幹事長が公明票の有難みを理解していないことを問題視する声もある。
そもそも岸田政権の支持層の多くは、安倍・菅政権の「強い政治」や新自由主義経済に疲弊した国民だ。彼らの多くはこれまで自民党内で中道左派として存在した“宏池会なるもの”に救いを求め、岸田首相が提唱する「新しい資本主義」に漠然と期待した。「新しい資本主義」の中身については、そろそろ具体的内容が見えてもいい頃だ。
こうした期待が裏切られるようなら、内閣支持率はさらに下がるだろう。それでもなんとなくあやふやなまま、岸田政権は続く可能性もある。岸田首相が高校時代に所属していた野球部でのポジションは「8番、セカンド」。目立つことはなく、地盤固めする役割だ。「この危機を乗り越えることこそ岸田政権の役割だ」と岸田首相が腹をくくり、「聞く力」のみならず「聞かせる力」を発揮するなら、長期政権もあながち夢ではないかもしれないが、果たしてどうだろうか。