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#わたしは伊藤詩織氏を支持します 」がツイッタートレンドに 「ポジティブな言葉」とメディアの責任

小川たまかライター
6月8日の記者会見(筆者撮影)

 ツイッター上で、「#わたしは伊藤詩織氏を支持します」とハッシュタグをつけたツイートが多く投稿されている。

 ジャーナリストの伊藤詩織さんは6月8日、ツイッター上で行われた投稿について損害賠償を求める民事訴訟を起こし、記者会見を行った。

 会見の中で印象的だったのは、彼女が何度かネット上でのポジティブな発信やアクションについて言及していたことだ。

「ネガティブな言葉に対してポジティブなもので埋めていくことが必要だと感じている。ポジティブに思っていること(略)、それを言語化していくことによって、誹謗中傷だったりネガティブな言葉に打ち勝てることもあると思うので、ポジティブな発信を自分でもしていけたらなと考えているところです」

「(ネット上の中傷によってSNSを使いづらくなることがあり)必要な声が届かなくなるのは残念ですけれども、metoo運動がソーシャルネットワークで広まったように、その反対のことも起きているので、私はこれでそういった(metooに関するような)発言が少なくなるのではなく、発言しやすい環境にしていくためにも、こういった問題に一つ一つ向き合っていって。発言しやすい環境にするためにも、被害を受けたときに申し出やすいようにアクションしやすい環境にしていけたらと」

「(ハラスメントを)受けている人もそうだが、周りが何ができるのか。被害者にも加害者にもならない、傍観者にならない。オンラインだと傍観してしまう、スルーしてしまうことがあると思うので、どうしたらこういった言葉がなくなるのか。おかしいと思ったら通報する、そういったアクションがあれば」

出典:記者会見での伊藤さんのコメントより

 ネットでの発信には良い面と悪い面がある。個人への誹謗中傷は人間の悪い面が出てしまった現象だが、一人ひとりのアクションでNoを示し、ネット上の環境を変えていくこともできる。伊藤さんが伝えたかったのは、そのようなことではないか。

6月9日夜のツイッタートレンド(筆者によるスクリーンショット)
6月9日夜のツイッタートレンド(筆者によるスクリーンショット)

 会見では情報開示請求のスピード化など法整備の必要性と同時に、個人を傷つける内容であっても法的な処罰の対象にならない書き込みも多くあることも触れられた。

 書き込みに対する民事訴訟はネット上の悪意に対抗する一つのアクションだが、訴訟のハードルはもちろん高く、誰でもできるわけではない。また、攻撃されている人を救うための方法がないと無力感を覚えることもある。しかし、伊藤さんの言うように、傍観者にならないことや、ポジティブな言葉を紡いでいくことは誰にでも今からできる。

 伊藤さんの会見での言葉を受けるように始まったのが「#わたしは伊藤詩織氏を支持します」あるいは「#わたしは伊藤詩織氏に連帯します」のアクションと感じた。

「社会のための一助となろうとして」

 訴訟の対象となった投稿はすでに多く報道が出ているので繰り返さないが、私の個人的な感覚としては伊藤さんに対する強い悪意を感じるものだ。訴状では、「二次被害(いわゆるセカンドレイプ)」という言葉を用い、次のように書かれている。

本件各ツイートは、性犯罪の被害者で、自らの苦しみを他の同様な境遇にある者の苦しみ、すなわち性犯罪の被害に遭いながら加害者や社会の偏見を恐れて被害を訴えることができない多くの被害者の苦しみとして捉え、多くの被害者が声をあげることができる社会のための一助になろうとして、想像を絶する精神的な重圧と闘いながら、顔と実名をあきらかにして社会に向けて被害を訴えた原告に対して、その訴えを精神障害からくる虚言、いわゆる「枕営業」の失敗から来る逆恨み、金銭目当ての虚偽と愚弄し、本件判決を偽りの涙を流して勝ち取ったと断じるもので、その内容は極めて悪質です。原告の被った社会的な評価の低下、名誉感情の毀損は、本件性被害に続く二次被害(いわゆるセカンドレイプ)というべきで、大変深刻です。

出典:訴状から

 伊藤さんの件に限らず、性被害には残念ながら二次被害がつきものだ。訴状でこの言葉が使われたことで、これまで同じ思いをしてきた被害者の中には、勇気づけられた人もいたかもしれない。

 訴状には「多くの被害者が声をあげることができる社会のための一助になろうとして」とある。昨年12月の民事訴訟判決でも、伊藤さんの発信は「性犯罪の被害者を取り巻く法的または社会的状況の改善につながる」「公共の利益や公益を図る目的で表現された」と認められている。

 彼女の姿勢を見たままに捉えるのであれば、自分のためだけではなく他者や未来のために行動を起こしている。

 会見の後半で彼女が言った「(自分が経験したようなことを)他の人には経験してほしくない。次の世代に引き継いでほしくない。私たちの世代で終わりにしたい」という言葉からもそれは明らかだ。

ネット上で繰り返される嫌がらせ

 しかし、今回の訴訟で訴えられたはすみとしこさんは、今も攻撃的なツイートを繰り返している。

 会見では確かに伊藤さんの口から5月に死去したプロレスラー木村花さんの名前も挙がったが、これ以上ツラい思いをする人がいないように、早く対策を進めなければという思いを込めての言葉だったと私は受け取った。

 木村さんの報道が出てから訴訟準備が始まったわけではなく、代理人となった山口元一弁護士が受任したのは今年2月。5月14日付ではすみさんに内容証明が送られている。記者会見を開くことも以前から検討されており、むしろ新型コロナウイルス感染症の影響で遅れたという話も聞いた。

 また、伊藤さんは木村さんの死について会見で「本当にショックでした」「木村さんの話を聞いてからご飯が喉を通らなくなってしまって」と語ったが、「自分も同じ思いだった」とは語ってはいないはずだ。

 会見場でその言葉を聞いた記憶はないし、動画を何度か見返しても確認できない(見落としがあるかもしれないので、その場合はご指摘いただきたい)。

 はすみさんのこれまでのイラストに比べれば些細なことかもしれないが、「木村花さんの死を引き合いに」出したというストーリーにつなげやすいようにコメントを作成したように思える。

メディアが個人の誹謗中傷を喚起してしまう側面

 伊藤さんに対して、嫌味や嫌がらせに当たるような発言をする著名人は、はすみさん以外にもいる。どう報じるかをメディア関係者と話す中で、「中傷を取り上げれば二次被害を広げることにつながったり、彼らの売名行為に乗ることになってしまうのでは」という懸念が語られることもある。

 真っ向から取り上げることで、その発言に「検討する意味がある」というお墨付きを与えてしまうことにもなりかねない。けれど、だからといって無視するだけでは当事者を孤立させてしまう。

 山口元一弁護士は、「(誹謗中傷が書き込まれる場となっている)それぞれのプラットフォームにも対策を考えてほしい」と語っていたが、誹謗中傷から個人をどのように守るかはメディアにも突きつけられている課題だ。

 会見の終わり頃に東洋経済記者が行った質問はすべてのメディア関係者が考えなければいけない内容だと感じた。

東洋経済・辻記者:今回は個人による誹謗中傷への訴訟ですが、メディアとして個人の誹謗中傷を喚起してしまうような側面もあるのかなと思っておりまして、伊藤さんがジャーナリストとしてメディアに対してどういう姿勢が必要かお考えのところがあれば。

伊藤詩織さん:今までメディアからも、私にとっては被害と感じられるものがありました。最初の会見の時(2017年5月)も、話したかった論点、法改正、サポート面の整備よりは、センセーショナルに捉えられてしまった部分もありました。

伝える側はジャッジする側ではないので、どういった情報を伝えるかといったところで、伝える側として責任を考えていただきたいですし、誹謗中傷に加担してしまうような流れを作らないようにするためにも、メディア一つ一つが考えなければならない課題だと思います。

 メディアでの取り上げ方、切り取り方一つで印象が大きく変わる。たとえ悪意がなくても、読者に間違った印象を与えてしまうこともある。

 また、伊藤詩織さんや木村花さんについてセンセーショナルに報じることは容易いし、実際にその方がPVを取りやすいのは事実だと思う。しかしわかりやすいアイコンをメディアが作ることで生じる個人への負担について、私自身も考え続けなければいけないと思っている。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

トナカイさんへ伝える話

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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