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なぜエムバペは移籍を考えているのか?レアルとパリSGの事情…ベンゼマの退団と一変した状況。

森田泰史スポーツライター
移籍の噂があるエムバペ(写真:ロイター/アフロ)

終わらない物語を見ているかのようだ。

キリアン・エムバペに、移籍の可能性が浮上している。エムバペはパリ・サンジェルマンと2024年夏まで契約を結んでいる。1年の延長オプションが付けられているが、それを行使しない旨をすでにクラブに伝えている。

パリSGで一緒にプレーしたメッシとエムバペ
パリSGで一緒にプレーしたメッシとエムバペ写真:ロイター/アフロ

「我々の立場は明確だ。エムバペがパリに残りたければ、契約延長を行う。我々はベストプレーヤーを移籍金ゼロで放出することはできない」とはナセル・アル・ケライフィ会長の弁だ。

「我々はフランスのクラブだ。それはエムバペも知っている。移籍金ゼロでの移籍はない。どの選手に対しても、同じように言っている。そこは非常に明瞭だ」

「エムバペは1週間から2週間の間に決断をしなければいけない。契約延長をしないのなら、扉は開かれている」

■エムバペとパリSGの関係

エムバペとパリSGの関係は現状、良好とは言えない。

エムバペは去る6月12日に契約延長オプションを行使しないことを書類でクラブに伝えた。加えて、6月23日に、理由を詳細に記した書類を再び渡している。一方、パリSG側は7月3日に返答。そこにはエムバペの不誠実さ、クラブへの損害を訴える“攻撃的な”内容が記されていたという。

ボールを追うエムバペ
ボールを追うエムバペ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

ただ、先述のように、エムバペは契約期間をあと一年残している。2023−24シーズンの年俸(7000万ユーロ/約105億円)と未払いのボーナス分(1億7000万ユーロ/約255億円)で、現行契約において2億4000万ユーロ(約360億円)の受け取りが残されている。これを放棄するかどうかが、この度の移籍のひとつのポイントになる。

■掲げられたスポーツプロジェクト

では、なぜエムバペが移籍を考えているのか。要因としては、パリSGのスポーツプロジェクトへの不満が挙げられる。

パリSGは昨年夏にエムバペと契約延長を行った際に、チーム強化とフロントのテコ入れを“約束”していた。

実際、クラブはレオナルドSD(スポーツディレクター)とマウリシオ・ポチェッティーノ監督に別れを告げ、代わりにルイス・カンポス氏の入閣とクリストファー・ガルティエ監督の就任を決めた。

得点を喜ぶパリSGの選手たち
得点を喜ぶパリSGの選手たち写真:ロイター/アフロ

だが2022年夏の補強で到着したのは、ヴィティーニャ、ファビアン・ルイス、カルロス・ソレール、ノルディ・ムキエレ、レナト・サンチェスといった選手だった。堅実な補強ではあったが、大物選手の加入はなかった。

この夏には、リオネル・メッシ、セルヒオ・ラモスがクラブを去っている。ルイス・エンリケ監督の就任、ミラン・シュクリニアルやマルコ・アセンシオの獲得が決まっているとはいえ、エムバペが納得していないのは確かだろう。

■レアル・マドリーとの繋がり

エムバペの頭に、移籍の二文字がちらついている。そのような中、移籍先筆頭候補と目されているのが、レアル・マドリーだ。

マドリーは、これまで幾度となくエムバペの獲得にトライしてきた。2017年夏には、モナコと合意に達していたものの、エムバペがBBC(ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド)との競争を考慮してパリ行きを選んだと言われている。

CLでマドリーと対戦
CLでマドリーと対戦写真:なかしまだいすけ/アフロ

2021年夏には、マドリーが移籍金2億ユーロ(約300億円)を準備してエムバペを獲得しようとした。本気度で言えば、この時がマドリーの“最大値”だったかもしれない。しかしながら、パリSGが最後までエムバペの売却を考えず、取引成立には至らなかった。

2022年夏においては、フリーになる予定だったエムバペを狙っていたマドリーだが、一転、エムバペとパリSGの契約延長が決定した。「私の知っているエムバペではなくなった」とは当時のフロレンティーノ・ペレス会長の言葉だが、彼のコメントはフラストレーションを溜めたマドリディスタのそれを代弁するものだった。

■主力の退団

しかしながら、状況は変わった。

マドリーは2022−23シーズン終了時にカリム・ベンゼマが退団した。サウジアラビアからビッグオファーが届き、アル・イテハドへの移籍が電撃的に決まった。

マドリーを退団したベンゼマ
マドリーを退団したベンゼマ写真:ロイター/アフロ

そう、これまでとシチュエーションは異なっている。

2017年の段階では、“BBC”の存在が大きかった。だが現在のマドリーでは、ヴィニシウス ・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエスが台頭してきている一方で、エース級の選手が不在となっている。「枠」は空いていると言えば、空いているのだ。

2021年に遡ると、パリSGに売却の意思がなかった。しかし、この夏、パリSGにはエムバペを売却するプランがある。

去就に注目が集まるエムバペ
去就に注目が集まるエムバペ写真:ロイター/アフロ

「エムバペがレアル・マドリーに移籍してくれたら、僕は嬉しい。彼は素晴らしい選手だからね。自分のチームに、エムバペがいてくれたら、と誰もが考えると思う」とはフランス代表でチームメートのエドゥアルド・カマヴィンガの言葉だ。

「エムバペの未来については、彼自身が、話した通りだと思う。彼は決断を下す。それをリスペクトするべきだ」

競り合うギュンドアンとカマヴィンガ
競り合うギュンドアンとカマヴィンガ写真:ロイター/アフロ

先日、ホセル(エスパニョール/スペイン代表)をレンタルで獲得したマドリーだが、彼に与えられた背番号は14番だった。ベンゼマが残した9番は空白のままだ。

移籍か、契約延長かーー。二つの選択肢が提示されるなか、タイムリミットが近づいている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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