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メディアとSNSが株価急落と危機感を煽ったけれど、焦って投資信託を売った人はほんの一部だった話

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
株価急落のニュース、実は個人はそれほど狼狽していなかった(写真:ロイター/アフロ)

メディアやSNS投稿が、この世の終わりのようにさんざん株価下落を煽りましたが株価はすぐに急回復

8月2日、5日と大暴落となった国内外の株式市場ですが、SNSやニュースメディアはこの世の終わりのように投資初心者を煽るような投稿・記事を大量生産しました。

今年からNISAで初めて投資をしたような投資初心者が、初めての急落にパニックになっているSNS投稿は経験の浅さゆえに仕方がないところです。しかし、短期的な下落が起きるとすぐこの世の終わりのように騒ぐメディアにはほどほどにしてほしいと思います。

結果論としていえば(結果論ですし、将来の下落可能性を否定するわけでもありませんが)、8月6日以降は株価の回復も見られており、15日終値では日経平均株価は3万8000円台まで回復をしています。

8月はスタートから転げ落ちるように年初来安値を記録したといっても、2週間もせずに1カ月前の水準とほぼ同じところまで戻ってきています。今回は回復が異常に早く、「数年かけてでも回復を待ちましょう」と言いたい立場からするとあっけなさもありますが、回復の早かったことは幸いです。

どんなに含み損を抱えても市場が回復するなら売らないで待てばいい

投資についての誤解として根強いのは「一瞬たりとも、マイナスになったら投資は失敗だ」という感覚です。けっこうな有識者であってもこういう発言をしているのには驚かされます。

こういう初心者の人たちは「プロの投資家は、何度も売り買いするなかで一度もマイナスにならずに売買するもの」とイメージしているのかもしれません。むしろ短期売買を行う人ほどマイナスでの売却もします(彼らは全体としてプラスになるためにリスクを取っており、損が生じる可能性があってもトレードを行わなければ、高いリターンのチャンスもないと知っているし、短期的に見切りをつけることは当然にある)。

年金運用のような長期投資家は、短期的な値下がりはほとんど気にしていません。全体としての投資割合の調整(リバランス)が必要かだけ考えていますが、むしろ値下がり時は投資割合を高め直します。

個人が投資をする場合は、ひんぱんな売買よりは、長期スタンスで投資を行ったほうが負担が軽くてすみます。長期投資家は、最終的にプラスであればいいわけですが、短期的に値下がりすることは投資をする限り避けられないことです。投資については「一時的なマイナスはありうるが、最終的に売却する時点でプラスであればよい」と考え、そのための最適な戦略を考えるものなのです。

ちなみに、100年に一度とさんざん言われたリーマンショックでも(ざっくり40%以上下落)、国内株価は5年かけて回復し、今はその2倍より上のところにいます。バブル時の最高値を30数年ぶりに回復したとよくいいますが、もしこの間ずっと積立投資をしていたとすれば、10年前にもうプラスになっていたというデータもあります

未来永劫、今の株価水準に戻ってくることはありえないと思うのでなければ(そういう人はすぐ売ればいい)、含み損を抱えても持ち続けていけばいいのです。

2013/11/25 日本経済新聞:日本株、バブル後の積み立て投資がついにプラス転換

投資信託に関して言えば、実はあまり動きがなかったといっていい

さて、日本の個人投資家、特に中長期で保有してほしい投資信託での投資は今月どのような動きだったのでしょうか。

いくつかのデータを見る限り、メディアが紹介するよりはおとなしく、賢い投資動向をとっているようです。

以下の報道やレポートによると、海外株投資信託の売買で、「6~8日の合計純流出額は1569億円」とされていますが、7月の投資信託への資金流入が1兆6240億円あったこと、7月末の公募型投資信託の残高規模は24.35兆円あることを思えば金額としてはそれほど大きなものではありません。マイナスになることは年に数回はあることで、今回の急落だけ特筆すべきほどの売りを招いてはいません。

傾向としては海外株で運用する投資信託が売られていた一方で、国内株式へ投資する投資信託については「8月5~9日に(略)資金純流入額(購入から解約などを除いた値)は1644億円」ともしていて、下落時期に投げ売りするのではなく、新規購入をする層も一定割合あったことが分かります。

なんとなくニュースやネットだけを見ていると、「個人はみなパニックになって、売りまくったことが値下がりの要因」のように見えますし、「何百万人もの個人投資家が大損をした(パニックで売って損失確定した)」という印象を受けますが、実際はそうではないのです。

2024/8/14 日本経済新聞:日本株投信、今年最大の資金流入1600億円 8月急落週
2024/8/13 QUICKマネーワールド:海外株ファンドから資金流出 新NISA開始後で初、前週の投信
2024/8/9 モーニングスター(イボットソン):市場急落をうけての投信市場動向、一部でパニック売りも逆張り投資家も存在
2024/8/8 QUICKマネーワールド:オルカンなど主要ファンドから資金が流出 7日の投信
2024/8/6 三菱アセットブレインズ 投信マーケット概況一覧
資料)投資信託協会 統計データ
資料)JPX 投資部門別売買状況

今回慌てて売った人は、その経験を将来に活かしたい

今回、慌てて売ってしまった人はあまり多くなかった、とはいえそれでも一定数はいたと思われます。特に購入時の価格より値下がりした状態(含み損)で売ってしまい、損失確定をしてしまった人は、その後の株価の回復を唖然として見送ったことでしょう。慌てて売らず、そのままにして様子を見ておけばよかった、という結果になりました。

株式市場はしばしばそういう値動きをするものです。ぜひ、今回の経験をこれからに活かしてください。今年NISAを始めたばかりであれば、損失があってもあまり大きくなかったはずです。あるいは、利益が減ったけれど、一応プラスで終わらせることができたかもしれません。

外国株で運用する投資信託については、為替と外国の株式市場の2要素が値動きに影響する、という基本を再認識するきっかけにもなったはずです(外国の株価が下がり、円高に振れるとダブルパンチで値下がりする)。

目の前が一方的に株価上昇傾向だったため、投資のリスクを過小評価していた人もいたはずです。そういう人たちは、自分が投資を続けられる金額、投資対象は何か、今一度考えて直し、また投資を続けてほしいと思います。

そしてもうひとつ「定期購入については中断せず、これからも続けること」をおすすめします。普通の人にとっては、定期的に少額を積立投資を続けることが現実的な資産形成手法ですが、これは市場が一時的に値下がりしたほうが、将来の回復時には大きくプラスになるチャンスです。

ところが、一時的に値下がりした時期に積立投資を中断しまうとそのチャンスも棒に振ってしまうことになります。

「一時的に値下がりしても焦って売らない」

「積立投資の設定はそのままにして続ける」

この2つを、8月の大嵐の教訓としてみてください。市場の急変動は、これから長く続くあなたの投資家人生において何度もやってくるはずで、そのとき焦らずにすむための「貴重な経験」として役立つはずです。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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