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日本語教師の約59%がボランティアの限界―在留外国人の日本語教育担い手不足懸念

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
日本語教師は、日本語で日本語を教えることができる専門性を持った貴重な人材

「日本語を学ぶ場所」は日本語学校に限らない

日本で暮らす外国人が増えています。2017年の6月末の時点では、その数247万人。これに伴って日本国内で「日本語を学ぶ人」も増加していて、文化庁が毎年取りまとめている調査報告書「国内の日本語教育の概要」(平成28年度版)によると、約21万8,000人の日本語学習者が日本語学校や大学、その他日本語教育実施機関等で学んでいます。平成24年度の日本語学習者は約14万人でしたので、5年間で78,000人も増えています。

「日本語を学ぶ」というと、日本語学校を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、いわゆる日本語学校である、「法務省告示機関」で学んでいる人は全体の約40%で、そのほかにも大学等機関26%をはじめ、国際交流協会、NPOや任意団体の開催する日本語教室などで学習する方も少なくありません。

日本語学習者がどこで日本語を学んでいるかを表した。(文化庁「国内の日本語教育の概要(平成28年度)」より筆者作成
日本語学習者がどこで日本語を学んでいるかを表した。(文化庁「国内の日本語教育の概要(平成28年度)」より筆者作成

「日本語教師」の6割がボランティア頼みで、常勤職1割、非常勤3割に過ぎず…

今回注目したいのが、「日本語教師」と呼ばれる人々の活動先の内訳です。平成28年度の文化庁によるこの調査報告書によると、日本語学校や大学、国際交流協会やNPOなど、日本語教育を実施している機関や施設等は全国に2,100以上あります。そしてそこで活躍する日本語教師の内、報酬をもらって「仕事」として日本語教育に携わっている割合は約41%に留まっており、残る59%は無報酬(交通費等の実費支給は報酬とみなさない)のボランティアが担っています。

特に「日本語学校」または「大学等機関」以外の日本語教育機関等ではボランティア日本語教師の依存度が極端に高く、教育委員会(主に、子どもの日本語教育支援等)で66.8%。NPOや任意団体(地域日本語教室など)で約80%、国際交流協会や地方公共団体に至っては、日本語教師の90%以上をボランティアに頼って運営されています。

お給料をもらって日本語を教えている人たちのほとんどが日本語学校や大学に雇用をされていますが、こうした日本語教育実施機関で学ぶのは主に留学生たちで、日本に在留している外国人の内「留学生」の資格を持つ方々は全体の11.8%に過ぎません。全ての外国人が日本語学習の必要性があるわけではありませんが、留学生以外の大半の方々が日本語を学ぼうとするとき、ボランティアによる日本語教室くらいしか手段がないのが現状です。

日本語教育実施機関ごとの日本語教師の雇用状況内訳(文化庁「国内の日本語教育の概要(平成28年度)」より筆者作成
日本語教育実施機関ごとの日本語教師の雇用状況内訳(文化庁「国内の日本語教育の概要(平成28年度)」より筆者作成

「ボランティア頼み」の限界近付く

現時点で日本には、外国人が日本語を学ぶ公的な学習制度はありません。ボランティアは日本語教育の有資格者が担う場合もありますが、そうでない方々のみで構成されたグループも少なくなく、学習機会の量と質にバラつきが見られます。

一方、ドイツやフランス、オーストラリア、カナダなどの移民受入国には公的な言語学習制度が設けられており、講師を担当する人材にも要件や資格を設け、質の高い教育機会を確保しています。また、それぞれボランティアの役割は補足的なものと位置づけられています。(参照:「自治体国際化フォーラム Jun.2012, 特集 海外における在住外国人の言語学習制度」

もちろん、ボランティアの方々による熱い想いや草の根の支援は、多文化共生を推進して行く上で必要不可欠なものです。現在でも、地域在住のボランティアが支援の担い手となることで、孤立しがちな外国人住民と地域との接点や参画のきっかけを作ったり、地域で外国人が直面する困難にきめ細やかに対応するなど、重要な役割を担っています。

しかし、日本に中長期的に在留する外国人が250万人に到達しそうという現在において、留学生ではない生活者や子ども等に対する日本語教育機会の多くをボランティアの善意に依存している状況は、そろそろ限界に近づいてきています。

特に重要な課題となりつつあるのが、「ボランティア自身の高齢化と担い手不足」です。以前、ある地方の日本語学習支援者がこう教えてくれました。

「この30年近く、地域の多文化共生を担ってきたのは比較的裕福な主婦層。20年、30年前に子育てがひと段落した、いわゆる”有閑マダム”たちが、時間ができて社会貢献として始めた国際交流が原点になっている。でも、今の若い人たちにそんな余裕はなくて、ボランティアを募集してもなかなか集まらない。ボランティアの多くが60代後半や70代にさしかかってきて、そろそろ体力的にもきつくてね」

他にも、この1~2年の間に高齢化と(無報酬の)担い手不足でボランティア活動自体を縮小したり、止めたりするつもりだというグループや支援者個人の話しを聞くことが増えています。特に、ボランティアベースでしっかり、丁寧に、時間を割いて活動をしてきたグループほど、新たな若い担い手確保に悩んでいるようです。

日本語教育に対する国の動きが加速化

2018年3月2日、文化庁が「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」という報告書を公開しました。多様化する日本語学習のニーズを反映し、日本語教師の役割を

(1) 日本語教師 : 日本語学習者に直接日本語を指導する者

(2) 日本語教育コーディネーター : 日本語教育プログラムの策定・教室運営・改善,日本語教師等に対する指導・助言を行うほか、多様な機関との連携・協力を担う者

(3)日本語学習支援者: 日本語教師や日本語教育コーディネーターと共に日本語学習者の日本語学習を支援し,促進する者

出典:文化庁『「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」について』より抜粋

の3つに分類。それぞれの人材において求められる資質や能力を整理し、提示したものです。これに基づき、各レベルにおける養成講座を実施することで、日本語教育の質を一定程度底上げして行こうとしています。

2016年には超党派の国会議員による「日本語教育推進議員連盟」が発足し、「日本語教育振興基本法」(仮称)を議員立法で制定することを目指すなど、日本語教育に対する国の関与が強まっています。政府がイニシアティブを取る事で、今後、ボランティア頼みの現状から脱却できるかどうか、資格を持つ日本語教師の待遇改善や雇用の裾野の拡大などと併せて注目したいところです。

*タイトル画像は筆者撮影

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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