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あまりに強すぎる藤井聡太棋聖(18)王位戦七番勝負、一気呵成の3連勝で王位獲得まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月4日・5日。兵庫県神戸市・中の坊瑞苑において王位戦七番勝負第3局▲藤井聡太棋聖(18歳)-△木村一基王位(47歳)戦がおこなわれました。

 4日9時に始まった対局は5日19時22分に終局。結果は149手で藤井挑戦者の勝ちとなりました。藤井挑戦者はこれで3連勝。あと1勝で王位のタイトル獲得となります。

 第4局は8月19日・20日、福岡市・大濠公園能楽堂でおこなわれます。

 藤井棋聖は王位獲得となれば史上最年少での二冠達成。そして史上最年少での八段昇段となります。

藤井挑戦者、崩れず踏みとどまる

 藤井挑戦者の寄せには、珍しく抜けがあったようです。そのミスを呼び込んだのはもちろん、耐え難きを耐え続けた、木村王位の不撓不屈の粘りがあればこそでしょう。

「悪手は悪手を呼ぶ」

 という言葉があります。将棋では一度悪手を指して形勢を損なうと、気落ちしてさらなる悪手を指し、ガタガタになることがあることがあります。

 勝勢から勝敗不明に巻き戻った最終盤。藤井挑戦者は立て直すことができるかどうか。将棋指しの真価は、こうした場面で問われるようです。

 はたして――。

 藤井挑戦者は崩れませんでした。再び冷静に、寄せの網を再構築していきます。

 おそらくは最終盤、木村王位にもチャンスがめぐってきたものと思われます。しかし時間が切迫する中、はっきりと逆転を果たすことはできませんでした。それもまた、藤井挑戦者が崩れなかったためでもあります。

 いつしか再び、木村玉は受けが困難となりました。

 持ち時間8時間のうち、7分を残していた木村王位。142手目を指すのにすべての時間を使い切り、あとは一分将棋です。

 残り2分の藤井挑戦者。時間が切迫しながらも、3分、あるいは2分と、わずかながら余裕を残しているのが、毎局共通して見られる、藤井流時間マネジメントのようです。

 147手目。藤井挑戦者は飛車を切って香を取ります。飛車を取り返されれば、手にした香を木村玉に打って詰みです。

 秒を読まれながら、木村王位は藤井玉の下から金を打ち、王手をかけます。

 藤井挑戦者は玉をかわしました。自玉に詰みはなく、相手玉は受けなしです。

 木村王位はグラスを手にして、冷たいお茶を口にしました。

「いやあ・・・」

 ABEMA解説の行方尚史九段は、そうため息をつきました。

「負けました」

 秒読みの声を待つことなく、木村王位はよく通る声で投了を告げました。藤井挑戦者も一礼を返して、149手の熱戦に終止符が打たれました。

 あまりに強い藤井挑戦者。一気呵成の3連勝で、王位獲得まであと1勝としました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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