“無差別殺人事件”と“爆買い”…中国人観光客の増加で揺れる韓国社会は日本の近未来か
日本では来る10月17日から中国人に対するビザ発給の要件を緩和するという。日本政府観光局の統計データを見ると、訪日中国人は2014年241万人、2015年499万人、そして2016年は8月までで448万人と右肩上がり。今後、その勢いがさらに加速すると考えられている。
同じように中国人観光客が増加し続けているのがお隣・韓国だ。訪韓する中国人は2014年に600万人を突破。中東呼吸器症候群(MERS)の大流行で観光客が減少した2015年も598万人を記録。今年に入っても7月までで473万人以上と、2014年を上回るペースとなっている。
少し前までソウルの明洞(ミョンドン)には日本の観光客があふれかえっていたが、今ではすっかり中国人観光客のための街になった印象だ。ただ、日本以上に中国人があふれている韓国では、残念ながら事件や犯罪が増えてしまっている。
最も象徴的なのは、189カ国の人がノービザで入国できる済州島だ。済州島を訪れる中国人観光客は2013年181万2000人、2014年285万9000人と増加傾向にあり、2015年こそMERSの影響で223万7000人と減少したものの、今年8月までで295万人となっている。
こうした島内の中国人増加は、犯罪率にも直結。外国人犯罪者は2011年121人から2015年393人に増加し、今年も7月までで347人に。そのうち240人が中国人で、全体の69.2%にも及ぶ。
9月9日には、中国人観光客8人が居酒屋で暴れる事件が発生。店主や韓国客が暴行され、脳挫傷などの重傷を負った。日本の感覚ではありえないマナー違反を注意されたことがきっかけだというのだから驚く。
そのわずか一週間後には、さらなる大問題も起こった。済州島で9月17日に起きた“聖堂殺人事件”だ。教会で祈祷していた罪なき韓国人女性が突然、中国人観光客の男に殺害されてしまったのだ。
殺人を犯した中国人観光客の男の支離滅裂な陳述も相まって、韓国社会に大きな波紋を広げている。
(参考記事:「頭にチップを埋め込まれた…」中国人観光客が起こした惨劇“聖堂殺人事件”とは)
当然の流れだが、済州島の住民からは“ノービザ制度”の廃止が求められている。とある掲示板に制度廃止を訴えた書き込みがあがると、2日間で1万人を超える賛同が集まったらしい。警察や出入国管理事務所などは合同対策会議を開き、外国人犯罪の再発防止対策を論議したという。
だが、ことはそう単純ではなさそうだ。
エンタメ業界を見渡せば、韓国のアイドルグループにもかかわらず、中国人が所属しているグループもある。つい先日も、「宇宙少女」に所属するソンソが「ストリートファイター」の春麗のコスプレで始球式をして大きな話題となった。さまざまなトップアイドルが登場する韓国の始球式で中国人アイドルが存在感を示したことは、人気の高さを証明しているだろう。
(参考記事:韓国野球“セクシー始球式”ベスト10を一挙紹介!!)
そして何よりも、中国人観光客にはチャイナマネーの魅力がある。
大手デパートの新世界免税店、ロッテ免税店などは中国の関係団体や会社と多国間業務協約(MOU)を締結しているし、大邱(テグ)広域市も中国の旅行会社と“大邱誘致業務協約”などを交わしている。
LG経済研究所によると、昨年韓国国内で中国人観光客の名目生産誘発効果は、27兆6647億ウォン(約2兆7600億円)と推算されており、これは2011年の3.2倍もの数字だ。
そして韓国では最近、中国人観光客を大別する動きも。団体観光客“遊客(ユーカー=韓国製中国語)”よりも、購買力の高い個別旅行客を“散客(サンカー)”などと呼び、彼らをターゲットにした販売戦略を立てているのだ。韓国メディアの取材を受けた専門家によると、「韓国を訪れる“散客”の1人あたりの支出経費は2483ドル(約25万円)。中国の団体観光客に比べて19.4%、すべての外国人観光客に比べて31%も高い」という。
急増する事件やトラブルの一方で、強烈な魅力を持つ経済効果。なんとも複雑な存在といえる中国人観光客に対して、韓国人の対中感情も錯乱しているらしい。
(参考記事:友好か敵対か、中国に対して錯乱する韓国人の“感情”とそのワケ)
いずれにせよ、中国人観光客が急増したことでメリットとデメリットがはっきりと表面化している韓国。そんな韓国の現状は、中国人観光客のさらなる増加が想定されている日本にとっても、ひとつの参考になるのではないだろうか。