酒はドラッグだ!!そう語る世界一のバーマン、チャールズ・シューマンのドキュメンタリー映画に注目
世界中のバーを巡ってバーマン(バーテンダー)の極意をさらに極めようとしている人物がいる。地元ミュンヘンで35年以上も不動の人気を誇るバー、"シューマンズ・バー"のオーナーであり、1991年に出版した500種類にも及ぶカクテルのレシピ本、"シューマンズ バー ブック"が革命的と絶賛され、同時に、ファッションモデルとしても活躍するチャールズ・シューマン(76歳)だ。
そんな伝説のバーマンが世界各地に散らばる極上のバー10店に足を運び、まるで気紛れに立ち寄った旅人のようにカウンター席に座り、各々こだわりの強いバーマンたちと語り合い、当然、自慢のカクテルを味わい、バー文化の伝道師として旅する姿をとらえた夢のようなドキュメンタリー、それが「シューマンズ バー ブック」だ。
今やバーと言えばホテルのラウンジか、コアなカクテル・マニアか、ある程度年齢を重ねたリッチな酒好きが集う特別な場所というイメージが強いが、果たして、それに対して世界一のバーマンはどう答えるのか?去る3月6日、作品のキャンペーンで来日したチャールズ・シューマン本人に話を聞いた。
バーマンに必要なのは見た目と内面の輝き
ーーー映画を観るとあなたは常にどこかを旅しているような感じです。今は東京にいるし。"シューマンズ・バー"を頻繁に留守にしてもいいんですか?
C.シューマン 基本的には今もきっちり週7日、カウンターに入っていますよ。日本人と同じく、僕は働き者ですから。でもね、一年中店にいると、さすがに退屈する。だから時々、このように海外へ出かけるんですよ。
ーーー"シューマンズ・バー"のセールスポイントは何ですか?
C.シューマン 今申し上げたように、いつも僕がいること。長くやっていること(1982年創業)、そして、バーマンとして色んな国の言語を喋れるというのも重要です。まず英語は必須。加えて、英語圏以外の言葉も話せた方が、色んなお客に対応できるでしょうね。
ーーー後は見た目ですね!?
C.シューマン それはバーマンだけではない。人生の色んな局面で外見は大事です。身だしなみがきちんとしていた方が仕事がし易いでしょう?でも、外見も大事ですが、内部からいい輝きを放つことも重要です。なぜかと言うと、人はすぐに退屈するから。輝きがないと飽きられてしまうんですよ。
ーーー輝きは経験値から来るものですよね?
C.シューマン 経験値とその人の特性にも因ります。自分の場合はこれまでの人生がラッキーだったことも大きいと思います。
本当は人嫌いだけど、人に関心はある
ーーーなぜ、ラッキーだと思われますか?
C.シューマン 自分のような職業を長くやっていると、どうしても人嫌いになってしまうものなのです。でも、幸運にも僕は人に関心がある。本当を言うと、人嫌いなんですが。バーというのは人がいないと成立しない商売です。そして、自分はやりたいことをやっていたい。だから、あくまで職業意識として、人に関心がある、と言えばいいでしょうか。偏屈というのとは少々違うと思うけれど、要は、自分の仕事を全うするためには、自分自身に責任を持たなければいけない。つまり、そういうことなんです。
ーーー映画でも語られますが、お客との距離を保つことがバーマンの極意なんですよね?
C.シューマン あくまでも"聞く姿勢"が大事なんです。決して自分の意見は言わないで、かと言って、何も話さないわけではない。この微妙な対処法を会得するのは結構難しいと思います。まずは、絶対に扱ってはいけないテーマがあります。それは政治です。これにはやはり、人生経験が大切でしょうね。20歳のバーマンよりベテランの方が、例えばアルコールを飲んだ時に付随してくる諸問題(酔っぱらいを指しているらしい)に巧く対処できるでしょうね。
ーーーでは、いいバーはバーマンで決まる?
C.シューマン まず、いい経営者がいるバーは絶対に信頼できます。そこには必ずいいバーマンがいるし、ちゃんとした飲み物を出してくれるはずだから。
ーーーレシピ本の"シューマンズ バー ブック"はカクテルのすべてを分かり易く解説していますね。
C.シューマン カクテルがとても明確に分類されている点が画期的だと思いますよ。まずは、古典的なカクテルのレシピと、それを今風にアレンジしたカクテルのレシピが併記されていて、別のチャプターではローアルコール・カクテルを紹介している。酒が弱い人のためにね。それが、今ブームのノンアルコール・カクテルの先駆けになったんです。
ドイツでは将来的に酒が禁止されるかも知れない!!
ーーー今、日本では缶入りのハイボールが愛飲されています。特に若い人たちをバーに呼び込む秘策はありますか?
C.シューマン それは世界中どこでも同じでしょう。みんなTVのグルメ料理に熱中する一方で、実際にはリーズナブルな店に行って安い料理と酒をオーダーしている。それは誰にも止められない。とにかく、自分の目の黒いうちは町からいいバーが消えないように頑張りますよ。
ーーーやはり危機感を感じられているんですね。
C.シューマン ドイツでは今、飲食店内でタバコを吸ってはいけないんですが、そのうちアルコールもダメになるんじゃないと思っているんです。
ーーーそれはあり得ないでしょう!?
C.シューマン さあどうでしょうか?アルコールときちんと付き合えない人がこんなに多いのにもかかわらず、依然として提供され続けているのは、まだ酒造メーカーが儲かっているからで、ビジネスとして立ちゆかなくなると、政府がアルコール禁止令を発令する可能性は大いにあると思いますよ。
アルコールはドラッグと同じです!!
ーーーとにかく、いいバーがあれば大丈夫ですよ。
C.シューマン だからこそ、お酒を提供するのは凄く責任感を伴う行為なんです。お酒を出すのは毒、またはドラッグを出すのと同じなので。そう、酒は理性を保ちながら付き合うべきドラッグなのですよ。
ーーーあなた自身はとても健康的な生活を送ってらっしゃるんですよね。
C.シューマン 毎日夜が仕事ですから、昼間はボクシングで心身共にリフレッシュしています。それが僕の健康法です!
そう語る彼のボディラインは、上質なスーツの上から見ても、とてもしなやかだった。1990年代にはヨウジヤマモトやコム・デ・ギャルソンのイメージモデルに起用されたこともあるシューマン。インタビュー中には、モデルとして関わったギャルソンのフォトブックを自慢げに見せてくれ、また、インタビュー終了後には自らが経営するミュンヘンの"シューマンズ・バー"の名刺を差し出すことも忘れなかった。そんな見た目と、経験値と、話術と、知識を誇る彼には、やはり世界一のバーマンという形容詞が相応しい。それを確かめたい人、そしてカクテル好きは勿論、ドキュメンタリー映画「シューマンズ バー ブック」は必見だ。
- チャールズ・シューマン:プロフィール
1941年9月15日、ドイツ・バイエルン州生まれ。1959年からドイツ国境警備隊に6年間勤務した後、1968年から2年間はフランス・モンペリエで外交官事務所に勤務。その後、イタリアに移ってフェラーラでビアガーデンを経営。これを機にフランス、スペイン等でレストランやバー経営を経験し、31歳でミュンヘンに戻ってミュンヘン大学で政治とジャーナリズムを学んだ後、1982年に"シューマンズ・バー"をオープン。1991年には画期的なカクテル・レシピ本"シューマンズ バー ブック"を刊行する。
シューマンズ バー ブック
4月21日(土)、 シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://crest-inter.co.jp/schumanns/
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