就職が決まっているから卒業要件を甘くしろとでも?TOEIC点数不足で「卒業危機」報道の問題点
北海道教育大学函館校(道教大函館校)で、卒業要件に設定したTOEICの点数を4年生の約3割がクリアーできず、卒業の危機というニュース。北海道新聞は以下のようにリードで懸念を示し、12月に内定を得たという学生の「(留年したら)親にも迷惑がかかる」というコメントで記事を締めくくっています。普段は、日本の大学は簡単に卒業させすぎている、などと「大学パラダイス説」を唱えているマスメディアが、就職が決まっていたり、保護者に迷惑がかかったりするので、卒業要件をクリアーできない学生を「なんとかしろ」と言わんばかりの記事内容です。
- 3割がTOEIC得点足りず卒業危機 道教育大函館校の対象4年生(リンク先はヤフーへの配信記事です)
卒業の必須となっている論文が提出できない、単位を落としたことで卒業単位が不足した、にもかかわらず「なんとか卒業できないか」という要求は大学にいるとこれからの時期によくあります。
ほとんど出席していない授業の試験を不可にしたところ、「卒業できない」と泣き付かれたり、保護者から激しいクレームが入ったり、それでも不可の判定を変えなかったら、身に覚えがないセクハラやパワハラで訴えられたり、と思わぬ問題に発展したという話もあります。
この記事を見た時に「また、面倒なことが起きるぞ」と思った大学教員も多かったのではないでしょうか。このようなマスメディアの記事が、就職や家庭の事情が卒業要件に優先する、という学生や保護者の考えを助長しているのです。
しかしながら、いまの大学は、マスメディアや年配の企業経営者のイメージにより語られるような「パラダイス」ではありません。「出席なんてせずにバイトしていた」というのは過去の話。文部科学省の指導もあり、授業回数、出席などが厳しくなり、厳格に管理されるようになりつつあります。文部科学省のサイトには
というそのものズバリのページが存在しています。カテゴリーは「大学における教育内容・方法の改善等について」です。そこには
と、大学設置基準が抜粋されています。卒業要件に満たない学生が卒業できずに留年するのは、大学教育の質保証(出口保証)の観点からすれば望ましいことです。TOEICの得点を卒業要件にしているにもかかわらずそれを緩和すれば、社会への約束を守らずにウソをつくことになります。
一方、共同通信の記事は、就職のことは書かず、TOEICの得点が卒業要件となることは入学前から周知していたと記載し、カリキュラムの見直しを検討と入っています。この方向で、もう少し突っ込んだ記事を書くとすれば、卒業要件にしているTOEICの得点を獲得できるようなカリキュラムになっていたのか、という検証もあり得るでしょう。
- 得点足りず3割卒業ピンチ道教大、TOEICで(日本経済新聞に配信された共同通信の記事)
出口保証を進めていけば、これまでのように「出るのは簡単」が、「出るのは難しい」になっていくのは当然です。留年が多くなっても、学生の懸念や、気をもむ、という視点ではなく、卒業要件を適切に守った、という方向で記事にしてもらいたいものです。