三重県で明日から"LGBT平等条例"が施行。LGBT差別やアウティング「してはいけない」認識共有へ
三重県で、性的指向や性自認に関する差別の禁止や、アウティングの禁止などを盛り込んだ”LGBT平等条例”が明日、施行される。
都道府県レベルで「LGBT」に関する課題のみでの独立の条例制定、さらにアウティング禁止を盛り込んだ条例は全国初。性的マイノリティに関する差別やアウティングを防止するために、「社会の共通認識を広げる」ことが狙い。
全会一致で可決
三重県議会で23日、「性の多様性を認め合い、誰もが安心して暮らせる三重県づくり条例」が自民党を含む全会一致で可決された。
条例では、性的指向や性自認に関する不当な差別的取り扱いを禁止し、カミングアウトの強制や禁止、そしてアウティング(本人の意に反して、正当な理由なく暴露すること)の禁止を規定した。
2013年の東京都多摩市や文京区を皮切りに、近年は自治体の「男女共同参画推進条例」の改正によって、性的指向や性自認に関する差別禁止などを盛り込む自治体が広がっている。
地方自治研究機構によると、全国32の自治体でこうした条例が制定されている。
都道府県レベルでは、2018年10月に東京都が「人権尊重条例」を制定。性的指向や性自認に関する差別禁止とヘイトスピーチ規制を盛り込んだ。2019年3月には、茨城県が男女共同参画条例を改正し、差別の禁止を規定した。
アウティングをめぐっては、2018年4月に国立市が全国で初めてアウティング禁止を盛り込んだ条例を施行。それ以降、岡山県総社市や東京都豊島区、港区、三重県いなべ市、沖縄県浦添市へと導入自治体は広がっている。
社会の共通認識広げる
今回の三重県の条例は、基本理念として性的指向や性自認に関する差別禁止やアウティングは「してはいけないこと」だという「社会の共通認識を広げる」ことが狙い。基本計画を策定し、相談窓口の設置や研修や啓発も広げていく。
都道府県レベルで「LGBT」に関する課題のみで独立した条例を制定し、さらに都道府県でアウティングの禁止を定めたものは全国で初めて。
独立の条例のため、基本計画では、性的マイノリティに関する幅広い課題について細やかに対応するための計画が今後策定されていくことになるだろう。
一方で、いくつかの課題も見受けられる。
今回の条例に対して、性的マイノリティのカップルを自治体が認証する「パートナーシップ制度」を盛り込むべきという声もあがっていた。
鈴木英敬知事は、昨年11月の議会でパートナーシップ制度導入の方針を表明しつつ、根強い反発の声などから条例には盛り込まなかった。しかし「要綱」により、今年9月からパートナーシップ制度を導入することを明らかにしている。
今回の条例では、差別的取り扱いやアウティングが起きてしまった際の罰則は規定されていない。しかし、実際に差別的取り扱いが起きてしまった場合の対応についても規定がされていない。
他の自治体では「苦情処理委員会」を設置することによって、差別を受けてしまった被害者が自治体に申し立てると、委員会が調査し、場合によっては加害者等へ適切な対応を促すことができる。
アウティング禁止を条例で定める東京都豊島区では、アウティングによって精神疾患になってしまったという男性が昨年6月、豊島区に対し申し立てを行った。その後、区の苦情処理委員会のあっせんにより、同年10月末に会社側が謝罪、解決金を支払うことで和解が成立した。
自治体が先行、今国会で法整備を
三重県の条例制定は画期的だが、国レベルでの法律がないことで、自治体ごとに差別の禁止などを規定せざるを得ない状況とも言える。
25日、 LGBT法連合会やヒューマン・ライツ・ウォッチなど4団体が、性的指向や性自認に関する差別の禁止を規定する「LGBT平等法」を求める要請と書簡を与野党に提出した。
同日の参議院予算委員会で、菅首相は「性的指向や性自認を理由とする不当な差別はあってはならない」と述べつつ、具体的な法整備については言及しなかった。
性的マイノリティの「平等」を担保する動きは、自治体が先行している現状。今国会での早急な「LGBT平等法」の制定が求められている。