ゆく年、くる年―2016年を振り返り、新年を迎えるー
2016年もあっという間に過ぎた。清水寺の年を表す漢字は「金」となったが、2016年を振り返って、金を連想する人はどれほどいるのだろうか。
12年に一度の申年となった2016年。年はじめ、猿が祀られている神社は大いに賑わった。「見ざる、言わざる、聞かざる」。三猿は、日本だけのものではない。古代エジプトでも確認されており、シルクロード経由で日本に入って来たと言われている。過去にサッカー場で、何度か猿真似を人種差別に使われることはあったが、ヒンズー寺院に行くと神様として崇められている文化圏で育った人間からすると差別と猿はまるでつながらない。
三猿の事を英語でthree wise monkeys、三匹の賢い猿と言われる。見ず、言わず、聞かずの三猿だが、それは「何を」かが日本で意外と知られていない。他でもない、それは「悪」である。つまり「悪を見ず、悪を言わず、悪を聞かず」、英語で言うと「see no evil, speak no evil、hear no evil」ということである。
「非暴力、不服従」の具現者と言えば真っ先に連想する人物はマハトマ・ガンジーであろう。彼が暗殺された場所に建つガンジー スムレティ 博物館(Gandi Smriti Museum)。そこに三猿が置いてある。実はガンジーは小さな賢い三猿の像を常時携帯して、自ら戒めると同時に、周りにも「悪を見ず、言わず、聞かず」を教えたと言われている。
平安京の鬼門を守る役目も兼ね、全国3800近くあるとされる猿を祀る日枝、日吉や山王などの神社の頂点に立つのは、比叡山の麓の坂本にある日吉大社である。坂本の日吉大社に行って見ると、誰もが知っている「3猿」にさらに一匹の賢い猿が加わる。
「見ず聞かず言わざる、三つのさるよりも思わざるこそまさるなりける」。比叡山中興の祖である良源は、「見ざる、言わざる、聞かざる」が大切ですが、それ以上に、いかり、うらみ、ごまかし、なやみ・なやませること、ものおしみ、だますこと、傷つけること、おごり、といった悪い心を持たない、「思わざる」ことが最も大切であると伝えている。
「悪」とは無縁の年として願った2016年の申年だったが、年の末になり英オクスフォード英語辞典の「今年の言葉」に選ばれたのは「POST TRUTH」(ポスト真実)である。客観的な事実よりも感情への訴えかけが影響力をもつことを指す形容詞である。ヘイトスピーチ、嘘や暴力と、申の願いとは真逆の「悪」に満ち、悪に付き合わされた一年であった。世界的な「内向き」が指摘される中、2016年日本の漢字を「金」にするこの国の感覚もまた「内向き」と言わずして何と言おう。
2017年は酉年である。酉と取りをかけて「取り込む」などの縁起担がれ、商売は繁盛する年と言われる。2017年に期待を寄せたい。武器商人の商売繁盛に取り込まれることなく、ぜひ2016年の「悪しき空気」を「取り払う」ことこそを期待したい。2017年が皆さんにとって心穏やかな良い年であることをお祈り致します。