Yahoo!ニュース

児童の希望で実現! 小学生がクラブ活動でユニスポに挑戦

荒木美晴フリーランスライター
守備練習に臨む児童を指導する西村秀樹さん=守山市民交流センター(撮影/荒木美晴)

「こんにちは」「よろしくお願いします!」

体育館に子どもたちの元気なあいさつが響く。

彼らは、滋賀県守山市の吉身小学校で今年度発足した「ユニバーサルスポーツクラブ」の部員たちだ。実はいま、全国的にも珍しい、この公立小学校の取り組みに注目が集まっている。

吉身小のユニバーサルスポーツクラブは、6時間目に取り組むいわゆる部活動のひとつだ。4年生から6年生の部員25人が、年齢や障がいの有無を問わず、みんなが一緒に取り組めるスポーツに挑戦していく。

1学期の活動テーマは「ゴールボール」。視覚障害者の選手が行う対戦型のスポーツで、アイシェード(目隠し)をして音源の入ったボールを転がし合うパラリンピック競技。国内の大会には晴眼者も出場することができ、近年はユニバーサルスポーツの代表格として全国的にも人気が高い。守山市では5年前から有志による「守山ゴールボール」が活動を続けており、そのメンバーがこの活動に指導協力する。

守山市は、東京2020オリンピック・パラリンピックのトルコ共和国のホストタウンに選ばれている。すでに視覚障害者柔道のトルコ代表の合宿受け入れなどを行っており、パラスポーツとはゆかりがある。ただし、特筆すべき点は、行政や学校側が先導したのではなく、この競技に関心を持っていた6年生の児童自身が「ゴールボールをやりたい」と強く希望して発足に至ったことだ。

学校側から相談を受けた守山ゴールボールは快諾。チームの代表で、競技の普及活動にも力を入れる日本ゴールボール協会顧問の西村秀樹さんは、「子どもたちから自発的に希望が出たと聞いているし、断る理由がない」と言い切る。また、「単発の体験会はたくさん実施されているけれど、小学生のクラブ活動として継続して競技に取り組むのは全国でも初めてではないか。練習の最後に『機会があったら次も来てね』ではなく、『また来週な!』と言えるのは本当に嬉しい」と笑顔を見せる。

練習環境が整っていることも大きかった。本来なら、体育館にゴールボールのコート用のラインテープ(見えない状態でも触ってラインがわかるよう、テープの下に紐が通されている)を貼る準備から始めなければならないが、使用する体育館は普段から守山ゴールボールが練習拠点にしており、施設側の好意で常にラインが貼られた状態だ。徒歩5分の場所にある学校から移動してきた児童たちがすぐに練習に取り組むことができる。

ボールに入った音源や相手の足音などを頼りに動くゴールボール。実践練習で児童たちは西村さんらの「見えていない動き」を注意深く観察していた
ボールに入った音源や相手の足音などを頼りに動くゴールボール。実践練習で児童たちは西村さんらの「見えていない動き」を注意深く観察していた

1学期2度目の練習日となった6月17日は、西村さんらが講師役となって、守備のフォームや、実際にボールを投げる練習に取り組んだ。練習後に感想を聞くと、6年生の男子児童は「オリエンテーションでボールを触って面白そうだと思っていたけれど、実際にやってみると意外と難しかった。西村さんは実は見えてるのかな? と思うくらいすごかった」と額に汗を光らせながら答えてくれた。

児童たちを見守っていた布施明朗教諭は、「子どもたちから『パラスポーツの選手を尊敬する』という声を聞くようになった。障害があってもいろんな高みに挑戦できることに気づくきっかけになれば」と、活動の狙いについて話す。

また、西村さんも「子どもたちの自主性を学校側が吸い上げ、地元のチームが協力する。こういう前例が全国に、そしていろんなパラスポーツに広がれば」と期待を寄せている。

布施教諭によると、2学期以降の活動テーマはこれから決めていくとのこと。ゴールボールとの出会いをきっかけに、子どもたちがどう成長していくか、西村さんたちは最後まで見届けるつもりだ。

フリーランスライター

1998年長野パラリンピックでアイススレッジホッケーを観戦。その迫力とパワーに圧倒され、スポーツとしての障がい者スポーツのトリコに。この世界の魅力を伝えるべく、OLからライターへ転身し、障がい者スポーツの現場に通う日々を送る。国内外における障がい者スポーツの認知度向上と発展を願い、2008年に障がい者スポーツ専門サイト「MA SPORTS」を設立。『Sportsnavi』『web Sportiva』などスポーツ系メディアにも寄稿している。パラリンピックは2000年のシドニー、ソルトレークシティ、アテネ、トリノ、北京、バンクーバー、ロンドン、ソチ、リオ大会を取材。MA SPORTS代表。

荒木美晴の最近の記事