パラカヌー代表内定・瀬立モニカ、東京パラ延期の心境「今できることを最大限やる」
昨年8月の世界選手権で5位に入賞し、東京パラリンピック出場が内定している瀬立モニカ(江東区カヌー協会)が9日、石川県小松市で開かれたカヌーのイベントに参加し、200M競漕で優勝した。
今回は、新型コロナウイルス対策をしたうえで、小中学生やシニアらのレースも開催。ドラゴンレースや体験会も開かれた。瀬立にとっては昨年9月以来となる今季初レースだったが、陸上からたくさんの声援が飛び、「緊張感もあったけれど、応援が聞こえて、楽しかったです。このイベントのように、みんなでカヌーを楽しめるのはすごくいいと思ったし、今日は刺激をもらいました」と、トレードマークのモニカスマイルを見せた。
東京オリンピック・パラリンピックの開催延期が決まり、スポーツ界は多くの問題に直面している。瀬立は当初、「前向きに捉えたい」と話していたが、一年後に向けて仕切り直しをするなかで複雑な想いもあったと振り返る。レース後の取材で、その胸中を率直に語ってくれた。
「パラリンピック延期の一報を受けてから2週間ほど経ったころ、自分がいまやっている練習が果たしてどこにつながっているのかと不安になりました。パラリンピック以外の国内外の大会も軒並み中止になったので、目標を置けない環境がつらかった」
東京パラリンピックは来年8月24日に開幕予定だが、さらなる感染拡大を受け、「本当に来年、開けるのか」と開催に難色を示す人たちの声は彼女の耳にも届いている。「選手としてはパラを開催してほしい。でも、いち国民として、いち都民としては、果たしてどうだろうというのが……やはりある」と言葉を詰まらせる。
自粛期間中は、自宅でウエイトトレーニングをこなし、昨年の映像をチェックして自分の漕ぎを徹底して見直した。それにより、「課題や試したいことが自分のなかで貯金できた」といい、トレーナーやメカニックらと会えなくても連携をしっかり取っていたことで、コックピット内のシート改良といった新たな挑戦にも取り組めたという。同時に、自身の気持ちに変化があったと話す。
「他の競技の人たちと接していて、改めてアスリートは自然と目標を立て、そこに向かっていくという作業が習慣化しているなと感じました。私もそうです。私の場合は何か特別なきっかけがあったわけじゃないけれど、一日、一週間、一カ月の目標を立てた時に視界がクリアになってきたと感じました。こうやって、前向きな気持ちのサイクルを作り出すことができたんじゃないかなと思います」
さらに、東京でパラリンピックを開く意味について、こう続ける。「状況が落ち着いて、みんながスポーツを楽しめる状況になった時に、(私たちが良いパフォーマンスを発揮して)人々に感動してもらったり、勇気を与えることが、アスリートの使命だと思っています。そこに向けて、私たちは準備をしていくだけです」
現在は、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点の木場潟カヌー競技場(石川県小松市)で合宿を行っている。コロナ対策として、手洗いとうがい、トレーニング器具等の触れる箇所の消毒の徹底などはもちろんのこと、屋外でもカヌーに乗り込むまでは選手もマスクを着用している。カヌーに乗り降りする際に介助が必要な選手も多いが、選手もスタッフも施設側も最大限の注意を払ってコロナ禍を乗り越えようとしている。
そして、瀬立はこう話す。「いまはもちろん、1年後を大切にしているんですが、コロナ禍における生活のなかで学んだことは、今できることを最大限やるということ。1年後を想像して、やるのかな、やらないのかな、と想像するよりは、今日できることを頑張って、それが東京パラが開催された時につながるということを信じて、これからもやっていきたいです」