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なぜフランスの調子は上がらないのか?エムバペの決定力とグリーズマンとの関係性。

森田泰史スポーツライター
フランス代表のエースであるエムバペ(写真:ロイター/アフロ)

近年の戦績を見れば、依然として優勝候補の筆頭なのは間違いない。

EURO2024決勝トーナメント1回戦で、フランス代表はベルギー代表と対戦。ヤン・フェルトンゲンのオウンゴールで、フランスが1−0の勝利を手にしている。

ベルギーに勝利したフランス
ベルギーに勝利したフランス写真:ムツ・カワモリ/アフロ

「我々は引いて守るチームとよく対戦するようになった。だからポゼッション率が高くなった。ベルギーは非常によく守っていた。攻撃的なチームという評判のあるベルギーだが、しっかりとディフェンスをしていた」とはディディエ・デシャン監督の弁だ。

「我々はゴールを奪うために、すべてを尽くした。また、ベルギーにスペースを与えないようにケアしていた。相手に守備を強いるように、ボールを保持しながらゲームを進めた」

■フランスの調子とポゼッション

フランスはベルギーを下してベスト8進出を決めた。だが、いまいち調子が上がっていない、という印象が拭えない。

苦戦を強いられているフランス
苦戦を強いられているフランス写真:ロイター/アフロ

フランスは2018年のロシア・ワールドカップ(W杯)で、世界の頂に立った。キリアン・エムバペ、アントワーヌ・グリーズマン、エンゴロ・カンテ、ポール・ポグバ、ラファエル・ヴァランらを中心にしたチームには穴が無く、怒涛の勢いでジュール・リメ杯獲得まで駆け抜けた。

ひとつ、刮目に値するのは、その大会のフランスのポゼッション率だ。フランスのそれ(48%)は、2014年に優勝したドイツ(60%)、2010年に優勝したスペイン(65%)と比べて、明らかに低かった。ポゼッション時代の終焉――。そのような説が、まことしやかに囁かれるようになった。

確かに、あの時のフランスは、カウンターのスタイルで頂点まで走り抜けた。ディフェンスラインにはバンジャミン・パヴァール、ヴァラン、サミュエル・ウンティティ、リュカ・エルナンデスと「CB型」の4人が並び、中盤にはポグバ&カンテとボール奪取力の高い選手がいた。そして、前線には驚異的なスピードをもつエムバペがいて、膨大なスペースと共に脅威のカウンターを喰らわせていた。

■スタイルの変化

しかしながら、強くなったフランスは、対戦相手からリスペクトされるようになった。

今大会のフランスのポゼッション率(56%)にフォーカスすれば、これは自明だ。冒頭のデシャン監督の言葉から、フランス代表チームにもその自覚はあるように見える。

一方で、フランスは、ゴールを思うように奪えていない。

得点力不足のフランス
得点力不足のフランス写真:Maurizio Borsari/アフロ

EURO2024で、フランスは4試合で3得点をマークしている。1試合平均得点数は「0.75」で、過去6回の主要大会においてワーストの数字だ。内訳としても、オーストリア戦のマクシミリアン・ウーバーのオウンゴール、ポーランド戦のエムバペのPK、ベルギー戦のフェルトンゲンのオウンゴールと、流れの中からのゴールが生まれていない。

そのような状況で、気掛かりなのはエムバペだ。

この夏、レアル・マドリーへの移籍が決定しているエムバペは、自身の去就を定めて万全な状態でEUROに臨んだ。だがグループステージ第1節のオーストリア戦で相手選手と激突して鼻骨を骨折。第3節ポーランド戦で復帰したが、フェイスマスクを付けてのプレーの影響もあってか、本来のパフォーマンスを披露できていない。

エムバペは、今大会、3試合1ゴールにとどまっている。2023−24シーズン、パリ・サンジェルマンで48試合44得点をマークした選手としては、物足りない数字だ。

■エムバペの嵌め方とポジション

デシャン監督は、EURO2024で、エムバペをCFあるいは左WGで起用してきた。

だが、現状、フランスの「エムバペ・システム」は嵌まっていない。

フェイスマスクをつけてプレーするエムバペ
フェイスマスクをつけてプレーするエムバペ写真:Maurizio Borsari/アフロ

近年、フランスが好調を維持していた際には、エムバペ、グリーズマン、オリヴィエ・ジルーの3選手がチームを機能させていた。ジルーが「潰れ役」を務め、グリーズマンが攻撃を操り、エムバペが仕留める。この3選手の活躍、そしてバランスが、フランス代表の強さの源だった。

しかし、いま、ジルーは控えの立場に回っている。代役として選ばれたマルクス・テュラム、ランダル・コロ・ムアニは、良い選手ではあるが、ジルーほどの“化学反応”をエムバペやグリーズマンと起こせていない。

控えの立場に回ったジルー
控えの立場に回ったジルー写真:ロイター/アフロ

「『ロースコアの試合』について、心配する必要はない。僕たちは準々決勝に勝ち進んだんだ」

「チームとして、素晴らしい守備ができていたと思う。良いディフェンスができなければ、大会での上位進出は見込めない。それに、僕たちはチャンスを多く作っていた。完璧なシュートシーンというところまでは、行かなかったけれどね。新しいシステムでのプレーだったし、僕たちは働き続けなければいけない」

これはベルギー戦後のグリーズマンのコメントだ。

ドリブルするグリーズマン
ドリブルするグリーズマン写真:ロイター/アフロ

フランスは強くなり、守備一辺倒ーー攻撃ではカウンターに頼るーーチームとしては勝てなくなってきたのは確かだ。

準々決勝では、ポルトガルと対戦する。この先、強豪国とのゲームしか残されていないが、デシャンはパズルのピースを嵌めなければいけない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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