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追悼「グリー」ナヤ・リヴェラ。完璧に見えた彼女が語っていた「どこにも属せなかった」孤独な十代

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

残念ながら死亡が確定した。「glee/グリー」などで知られる俳優のナヤ・リヴェラが、行方不明になっていた湖で遺体で発見された。4歳の息子を残し、まだ33歳の若さという、あまりに早すぎる死だ。

ナヤの遺体が発見された7月13日は、「glee」で共演したコーリー・モンティスの命日(2013年)でもある。

ナヤが「glee」で演じたサンタナ・ロペスは、チアリーディング部では目立つ存在で、グリークラブにも入団。嫌がらせをしたり、悪口を言ったりする悪役的な存在ながら、じつは弱い一面もあったりする、ちょっと憎めなく、意外にも共感を誘うキャラ。同性を好きになるエピソードもあり、「glee」のテーマである多様性を体現していた。

見るからにイケイケな美女で、ダンスもうまいサンタナ。演じたナヤ・リヴェラも、ぱっと見はサンタナそのもので、輝くオーラを発していたが、インタビューでは繊細な面も吐露したことが、今も記憶に残っている。

チアリーディング部「チェリオス」でのダンス、グリークラブでの歌について聞くと……。

「歌に関しては小さい頃からずっと経験を積んできたので、私が得意とするド真ん中のようなもの。だからやっていて、とてもうれしいの。でもダンスは、カーブを投げるような感覚だった。チェリオスって、プロのダンサーで構成されたグループで、私みたいにダンス経験のない人間にとって、振付がかなり高度だったのよ。とにかくみんなについていくだけで精一杯。ただ私は人のマネをするのがうまいみたい。どんどん上達し、何とかごまかしながら踊れるようになったわ(笑)」

高校時代の自分と、演じたサンタナ。その共通点については、次のように語った。

「私はレズビアンじゃないので、そこは違う。あと、高校時代、サンタナみたいに意地悪じゃなかったと思う。でも、じつは昨晩、友達と話していて、彼女は私の記憶を蘇らせてくれたんだけど、高校時代の私は『サンタナそのもの』だと言ってた。私は当時の思い出を自分で遮断していたのかも。でも少なくとも今は、意地悪な性格じゃないわよ」

演じたサンタナのように明るく軽快な口調でそう答えるナヤだったが、十代の自分についての告白になると、ちょっと真剣な表情に変わった。

「私は高校時代、ずっと自分がアウトサイダーだと感じていた。人種が入り混じっている事実に、つねに対処しなければならなかったの。私はヒスパニックであり、黒人であり、白人でもあった。特に高校では、特定のグループと意気投合して、そこに受け容れてもらうという経験がなかったのよ。完全に黒人ではないから、黒人の子たちとつきあえない。ヒスパニックでも同じ。『いったい私はどこへ行けばいいの?』って感じ。そのことで苦労したのは確かだし、そのせいで友達もできなかった。サンタナは人気者だから、そこが私にとって理解できない部分かもしれない……」

ナヤ・リヴェラの父はプエルトリコ系のヒスパニックで、母はアフリカ系アメリカ人とドイツ系の血を受け継いでいた。まさに今のアメリカが必要とする「多様性」を体現するような俳優であったと感じる。子供時代、十代に限らず、「自分とは少しでも違う」ことに、人間は無意識に差別の感情がめばえる。しかしその「悪しき常識」を、ちょっとずつでも修正していくことが今こそ必要だと、ナヤの言葉から実感できるのだ。

「glee」の後もTVシリーズ「ステップ・アップ:ハイ・ウォーター」(2018〜2019)のメインキャラの一人、コレット役などで地道に活動していただけに、ナヤ・リヴェラのその早すぎる死は悔やまれてならない。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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