外国出生者の結核が国内で急増 低まん延国としての課題
2023年の1年間に、新たに保健所で登録された結核を集計した「結核登録者情報調査年報」が先日更新されました。3年連続で結核の低まん延国の水準を下回りました。結核は「過去の病気」と思われがちですが、いまだに毎年約1万人が結核を発病しています。今後の日本の課題は何でしょうか。
罹患率は大阪府が最多
結核罹患率は、10万人あたりの人数で表記されます。ストレプトマイシンが国内製造されるようになった直後の1951年が、記録されている限りの過去最高値で、10万人あたり698人でした。
当時、死因の第1位は結核で、年間十数万人が命を落としたとされています。あまりに亡くなる人が多かったことから、「亡国病」と呼ばれました。
抗結核薬の普及と戦後復興で医療水準が改善し、2021年には日本もついに国際的に結核の「低まん延国」の仲間入りを果たしました。そして、今年の「結核登録者情報調査年報」で報告された2023年の結核罹患率は、人口10万人あたり8.1という結果でした(図1)。昭和初期までの大流行と比較すると、ケタ違いに低い数値です。
しかし、それでも年間約1万人が結核を発病しており、約1,600人が亡くなっています。これは、決して軽視できない数字です。
都道府県別にみると、今回もっとも結核罹患率が低かったのは、岩手県の3.6人です。最多の大阪府では13.1人、第2位の大分県では12.2人と、岩手県とは3倍以上の開きがついており、地域差が大きい現状があります。
外国出生者の結核が課題
さて、20歳以上30歳未満の年齢層では、前年比34%増となっています。若い年齢層に結核がまん延しているのでしょうか?
実は、外国出生者の結核が増加していることが主因です。今回の報告では、外国生まれの結核登録者数は1,619人と前年から405人も増加しています。新型コロナ流行以前の2019年の患者数を超える勢いとなっています。特に、入国して5年以内の外国出生者にしぼると、前年比+73.1%と急増しています。
結核の潜伏期間はとても長く、半年から2年とされています。そのため、外国で感染した人が、入国後に一定数結核を発病してしまう構図が見て取れます。
先進国では、すでに低まん延国の水準に達した国も多く、日本も世界保健機関が目指す「結核撲滅」を目指しています。しかし、東南アジアではまだ結核罹患率が3ケタ人を超える国も多いのです(表)。
高まん延国から入国して、その後日本で発病する人の絶対数が多いため、この対策を国全体ですすめていく必要があります。
その1つとして期待されているのが、「入国前結核スクリーニング」です(図2)。以前から具体案は提示されていますが、まだ2024年8月29日時点では実施されていません。
日本における外国出生者の結核のうち、多くを占めるフィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーの6か国が対象となっています。あくまで、日本への中長期在留希望者を対象にしています。
まとめ
新型コロナが5類感染症に移行し、円安も相まって、日本へ渡航する人が増えてきました。それに伴い、中長期の滞在者も増えてくる可能性があります。
日本が結核低まん延国を維持するためには、外国出生者の結核の早期発見・早期治療を今後の課題として認識していく必要があります。
(参考資料)
(1) 厚労省. 2023年 結核登録者情報調査年報集計結果について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001295037.pdf)
(2) 入国前結核スクリーニングの実施について Japan Pre-Entry Tuberculosis Screening(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index_00006.html)