ジャニーズ出演チケットの転売で1億円稼いだ「転売ヤー」 詐欺罪で逮捕の訳は
ジャニーズ事務所のアイドルが出演する演劇のチケットを転売目的で購入したとして、無職の男らが逮捕された。重要なのは、チケット不正転売禁止法の不正仕入罪ではなく、より罪が重い刑法の詐欺罪が適用された点だ。
どのような事案?
捜査は愛知県警が2月に愛知県の男と仲間の女ら4人をチケット不正転売禁止法の不正転売罪で逮捕したことに始まる。昨年4月にアイドルグループ「Snow Man」のメンバーが出演する定価7千円の演劇のチケットを転売サイトに出品し、5万円で転売したとされる容疑だ。
その後、警察による捜査の結果、男らは当選確率を上げるため、男の自宅に34台の電話機を設置し、1分間に60回リダイヤルできるアプリを使って一斉に予約専用ダイヤルに電話をかけ、転売用チケットを大量に入手していた事実が判明した。
そこで警察は、昨年7月にアイドルグループ「SixTONES」のメンバーが出演する演劇のチケット14枚、合計5万7千円分を転売目的で購入したとして、主犯格の男女2人を詐欺の容疑で再逮捕したというわけだ。
男らは2013年ころから1500枚以上のチケットを定価の10倍程度で売りさばき、約1億1600万円を売り上げていたという。
なぜ詐欺罪で検挙?
ダフ屋の「ダフ」はチケットや乗車券などを意味する「札(ふだ)」を逆さにした隠語であり、都道府県の迷惑防止条例で規制されているが、ネット空間を舞台にした転売には適用できない。
そこで、東京五輪の開催を見据えて2018年にチケット不正転売禁止法が制定され、2019年の施行後、アイドルグループのコンサートチケットなどを転売した「転売ヤー」らが次々と不正転売罪で検挙されている。
不正転売といえるためには「業として」、すなわち「反復継続の意思をもって」という要件をみたす必要があるが、今回のように長期間、多数回にわたって大量の転売を行い、多額の利益を上げているケースであれば問題ない。
ただ、この法律は不正転売だけでなくその目的でチケットを譲り受ける不正仕入をも処罰の対象としているものの、いずれも最高で懲役1年、罰金でも100万円以下にとどまる。今回のように業務性が高い悪質なケースには軽すぎて釣り合わない。
そこで警察は、チケットの転売が販売規約に違反する不正な行為であることを踏まえ、転売目的を隠し、いわば嘘をついて興行主側から転売禁止のチケットをだまし取ったとして、果敢に詐欺罪を適用しようとしている。
「詐欺」という罪名のインパクトは大きいし、最高で懲役10年と重く、罰金刑もないので、罰金を払って終わりということにはならないからだ。現にコンサートチケットなどの「転売ヤー」が詐欺罪で起訴され、有罪となった例もある。
そればかりか、「転売ヤー」が興行主側からだまし取った転売禁止のチケットを、薄々であってもそうと分かりつつ購入したということであれば、購入者をも刑法の盗品等有償譲受罪に問うことが可能となる。
「盗品等」とは財産犯により得られたものという意味であり、窃盗に限らず、「転売ヤー」がだまし取ったチケットも含まれる。懲役10年以下及び罰金50万円以下と重い。
興行主側も対策の強化を
今後も、予約専用サイトへのアクセスの際に大量のアカウントを使って手続を繰り返す特別なプログラムを用いているとか、同一人物が別々の名義を使って同時に何十枚も購入し、当選直後に何倍もの利益を乗せて転売しているようなケースでは、詐欺罪が適用されることだろう。
とは言え、こうした刑罰法規には限界があるし、「転売ヤー」から高額で購入してでも良い席で見たい、転売チケットだとバレるはずがないと考える一部のファンもいる。
興行主側も、抽選販売直後に転売サイトなどで高額転売が行われているチケットを発見したら積極的に警察に被害を届け出るほか、公演当日は厳格な本人確認を行うなど、転売対策の強化に努めるべきだろう。(了)