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メイウェザーのラストファイト。宝くじを当てるのは誰だ!?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
対戦内定のニュースが流れたベルト(左)とメイウェザー

次戦で引退を公言

9月12日、ラスベガスのMGMグランドで次試合を予定するフロイド・メイウェザー(米)の対戦相手が今週中にも発表されるという。米国の有料ケーブルTVショータイムと6試合の契約を結んだメイウェザーは、今回が最終戦。本人も主張するように、そのままグローブを脱ぐ可能性が高い。他方で勝利を収めればヘビー級の名王者ロッキー・マルシアノと並ぶプロデビュー以来49勝無敗となる現役最強ボクサーは、来年もう一度リングに上がり、50連勝で有終の美を飾るという噂も根強い。

5月のマニー・パッキアオとの「世紀の一戦」で歴史に残る興行収益と報酬を記録した“マネー”メイウェザー。果たしてどんなモチベーションを持ってリングに登場するか興味深い。何しろパッキアオ戦のファイトマネーが日本円で270から280億円に達したというのだから常軌を逸している。この額は小国のGDP(国内総生産)を超えているとか、ブラジル・ワールドカップのスタジアム建設費と改修費の総額より多いとか比較対象が大き過ぎて呆れてしまう。相手が同じくスーパースターのパッキアオだったといえばそれまでだが、スポーツにしろショービジネスにしろ一度のイベントでこんな途方もない数字がマークされることは半永久的にあるまい。

莫大な報酬をもたらした最大の理由はPPV売り上げが4億3000万ドル(約530億円)にも達したことに尽きる。単価が90から100ドルと通常の値段より割高だったことも影響し、主役たちはもちろん、両陣営もビッグマネーが転がり込み、笑いが止まらなかった。具体的にはメイウェザー・プロモーション、パッキアオを擁するトップランク社、そして試合締結に尽力したといわれるメイウェザーの後ろ盾、アル・ヘイモン代理人がそれに相当する。

地上波CBSが放送する?

では9月のグランドフィナーレでもテレビ視聴者が別料金を支払って観戦するPPVシステムが採用されるかというと、どうも今回は事情が違うようだ。今月初旬のニュースではショータイムの親会社で米国4大ネットワークの一つCBSが全米へ放送すると報じられる。ファンは無料で稀代のボクサーのフィナーレの証人となれるのだ。“PPVキング”と呼ばれるメイウェザーの試合がPPV以外で放映されるのは06年のカルロス・バルドミール戦以来9年ぶりのことである。

果たして地上波(CBS)の放送でペイできるのか?という疑問は当然ある。だがパッキアオ戦で440万件のPPV契約件数を記録したメイウェザーだけに、料金がフリーとなれば、どれだけ数字が伸びるか想像もつかない。確実なのは440万という数字を超えること。早くも有名企業が我先にとスポンサーに名乗りを上げているという。アメフトのスーパーボウルでCMが流れるのは企業のステイタスシンボルにつながるといわれるが、同じ現象がボクシングで起こっているのだ。

パッキアオ戦で手を組んだトップランク社から1億ドル、オスカー・デラホーヤのゴールデンボーイ・プロモーションズから3億ドルもの損害賠償訴訟を起こされているヘイモン代理人は、こう反論した。「(我々の)プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)シリーズはボクシングのタイトルマッチを無料で見られるようにした。ボクシングは全盛期の輝きを取り戻している。彼らのナンセンスな訴えは退けられ、この成功は長らく続くだろう」

米国リングを席巻するPBC。ヘイモン氏の影響を強く受けるメイウェザーにすれば、CBS出場は「時流に乗った」というべきか。革命児、異端児と2つの顔を持つヘイモン氏だが、天下のメイウェザーをコントロールしてしまうところはさすがといわざるを得ない。

ではメイウェザーの対立コーナーに立つのは誰だろうか。

コラーゾに勝って防衛を果たしたサーマン
コラーゾに勝って防衛を果たしたサーマン

評価が高いサーマンはダークホース

パッキアオ戦後、本命視されていたアミール・カーン(英=31勝19KO3敗。28歳)はメイウェザーの持つベルトの一つWBCウェルター級王座の1位にランクされる。昨年2度もマルコス・マイダナ(アルゼンチン)にチャンスをさらわれただけに、メイウェザーを求める願望は誰よりも強い。だが現状では3番手ぐらいに後退した印象。元凶は5月末ニューヨークで行ったクリス・アルジェリ(米)戦。予想より試合は盛り上がったという声もあるが、軽打のアルジェリを相手に勝利は文句ないものの、やはりインパクトが乏しかった。これから挙げる選手たちの中ではインターナショナルな知名度で群を抜いているだけに、メイウェザーから指名を受ける可能性は無きにしも非ずだが・・・。

数日前までカーンを抜いて相手に有力視されていたのが前IBFウェルター級王者ショーン・ポーター(米=26勝16KO1敗1分。27歳)だ。PBCの一環で6月、エイドリアン・ブローナー(米)との元王者対決で快勝。ハングリーで運動能力が高く、メイウェザーとは好勝負を演じると期待される。タイプはマイダナ型で、馬力でやや劣る代わりにスキルとスピードでアルゼンチン人を上回る。

専門家たちの間で次回対戦者に推されるのが、メイウェザーが保持するWBAウェルター級“スーパー”王座の“レギュラー”バージョン王者に君臨するキース・サーマン(米=26勝22KO無敗。26歳)だ。ショータイムのライバル、HBOの名物スコアラーで解説者のハロルド・レターマンは「メイウェザーは誰を選ぶべきか?あなたがベストな男を捜しているなら、それはキース・サーマンが値する」と強調している。

私もレターマンの発言に賛成したい。メイウェザーの相手を務めるにはまだ未熟だ――という声もあるが、逆にまだ荒削りさが残る今の方がチャンスがあるかもしれない。同時にすでにサーマンは攻守に洗練されたボクサーだ――と言い切るエキスパートも多い。カーン、ポーター同様アル・ヘイモン傘下のパンチャーは今年3月のPBCの船出ファイトでメインエベントに抜擢された(ロバート・ゲレロにダウンを奪い判定勝利)ことでもその将来性が計り知れる。最新試合(7月11日)では元WBAウェルター級王者ルイス・コラーゾ(米)に7回TKO勝ち。メイウェザー争奪戦のスタートラインに並んだ。

武器は左フックと右強打。性格は有言実行型で、涙もろい。コラーゾ戦前のテレビインタビューで2年前に死去した、子供の時からボクシングの手ほどきを受けたトレーナーを回想して、おいおい泣いた。「メイウェザーとは心底、対戦したいね。私が求める男だ。彼が引退するまでにぜひ戦いたい。私はレジェンドになりたい。レジェンドになる最良の方法はレジェンドに勝つことだ」

この発言に反応したメイウェザーはサーマンに対し、ロンドン・オリンピック代表選手からプロ入りし、PBCシリーズで躍進中の大型プロスペクト、エロール・スペンスJr(米=17勝14KO無敗。25歳)と対戦すべきだとリクエスト。サーマンが9月の試合の相手になることを遠巻きに否定した。それだけサーマンを警戒していると取れるのだが、まだランキングは低いものの、スペンスはネクスト・メイウェザーと呼ばれる逸材である。もしサーマンとの対決が実現すれば、ファン垂涎の顔合わせになる。この選手に関してはぜひ別の機会に触れてみたい。

もう一人、最強ボクサーとの対戦が見たい選手にポーターからベルトを奪った現IBFウェルター王者ケル・ブルック(英=35勝24KO無敗。29歳)がいる。ポーター戦の後バカンスで訪れたスペインのカナリア諸島で暴漢に襲われ、脚に重傷を負う不運に遭ったが、今年に入り意欲的に2度防衛に成功。いずれも印象的なストップ勝ちで、実力と存在感をアピールしている。

ただ、以前米国リングで試合をこなしているとはいえ、本場での知名度で大きく他のライバルに遅れをとるのが痛い。どうしても自国のライバル、カーンとの対決の方が話題に上る。

元王者と伏兵が急浮上

たとえばポーターvsサーマン、カーンvsブルックの勝者がメイウェザーの相手をめぐり対戦する――といったトーナメント形式がもっとも公正でファンの支持を得るだろう。しかし、そんな時間はないし、それを実行に移すプロモーターは存在しない。そして、ここに来てメイウェザー争奪戦は急展開を見せてきた。意外な本命が現れたのである。

カーンと同じくテクニックとディフェンススキルの指導に定評があるバージル・ハンター・トレーナーにコーチされる元WBCウェルター級王者アンドレ・ベルト(米=30勝23KO3敗。31歳)だ。同僚カーンをして「私の直感ではフロイドは私を避けてベルトを選ぶ気がする」と悔しがらせている。

WBC王座を5度防衛した実績を持つベルトだが、ビクトル・オルティス(米=メイウェザーに4回KO負け)との壮絶な倒し合いで無冠になった後、ロバート・ゲレロと中堅どころのヘスス・ソト・カラス(メキシコ)に惨敗。カムバック後2連勝しているが、“過去の人”とも思われるだけに、もし相手に抜擢されれば、サプライズとなろう。ハイチ移民の息子で父は格闘家。同国が大地震で壊滅的な被害を受けた時、率先して現地へ渡りボランティア活動に身を投じ、各方面からリスペクトされたエピソードがある。20日現在(日本時間21日)すでに内定の報も聞かれる。

最新戦でホセシート・ロペス(左)をストップしたベルト
最新戦でホセシート・ロペス(左)をストップしたベルト

ベルトよりももっと意外なのは元ランカー、カリム・メイフィールド(米=19勝11KO2敗1分。34歳)の名前が聞かれること。サンフランシスコが地元で、これまでそこそこの相手に勝っているが、昨年トーマス・ドゥローメ(プエルトリコ)らとのサバイバルマッチで連敗。そもそもスーパーライト級の選手。メイウェザーは自身の相手に選ばれる選手を「宝くじに当たるようなものだ」と吹聴しているが、このメイフィールドのケースはまさにその典型といえる。

ドラマはまだ終わらない?

米国メディアの論調はベルトやメイフィールドが選ばれれば、9月の試合は絶対にPPVでは流れないというもの。まだ決定事項ではないが、CBS放映説を促進する裏づけと映る。同時にパッキアオ戦に代表されるビッグマッチのステイタスが低下する印象は否めない。

それでも世界のセレブリティー・ナンバーワンの長者となったメイウェザーのラストファイトにファンが関心を寄せないわけはない。相手が誰であろうと、大きな盛り上がりとニュース・バリューを提供するに違いない。そしてメイウェザーのレコードはきっと49勝26KOか27KO無敗へと伸びるはず。もし大台50勝目を目指すなら、11月に予定されるミゲール・コットvsカネロ・アルバレス戦の勝者と来年5月対戦(再戦)というプランも現実味を帯びるだろう。

おそらくそこで満足するであろうメイウェザーだが、もし欲が出て軽量級のカリスマ、リカルド・ロペス(メキシコ)の51勝(1ドロー)へ色気を見せることもあるかもしれない。推測の域を出ない話だが、その時反対コーナーに位置するのはパッキアオかミドル級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)ではないかと思っている。壮大なドラマの完結を我々は見届けることができるかもしれない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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