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『アホの坂田』≒『メキシカンハットダンス』は、なぜ大リーグ球場で流れるのか。

谷口輝世子スポーツライター
アトランタブレーブスのオルガン奏者

『アホの坂田』≒『メキシカンハットダンス』は、なぜ大リーグ球場で流れるのか。

筆者はメジャーリーグ取材を始めたころ、球場内で『アホの坂田』という曲が演奏されていることに気づいた。

『アホの坂田』というのはコメディアンの坂田利夫さんをモチーフにした曲で、作曲はキダ・タロー。ずいぶん昔にあるテレビ番組で、キダ・タローさんが『アホの坂田』は『メキシカンハットダンス』という広く知られている曲から引用したものであると明かしていた。

この『メキシカンハットダンス』はメジャーリーグのいくつもの球場で演奏されていて、筆者はこの曲を耳にするたびに、心のなかで『アホの坂田』に置き換えて、頭の中で密かに歌ってきた。なぜ、『メキシカンハットダンス』はメジャーリーグ球場で演奏されているのか。この曲を演奏する球場のオルガン奏者に直撃取材した。

今もいくつかのメジャーリーグの球場では、試合前や試合中に心地よい音を奏でるオルガニストたちが活躍している。

カブスの本拠地リグレーフィールドには、記者席や放送席と同じ並びに演奏室がある。リグレーフィールドのオルガニスト、ゲーリー・プレシーさんは「メキシカンハットダンスをなぜ演奏するのか。それはお客さんが手拍子できる曲だから」とのこと。

ブレーブスの本拠地ターナーフィールドのオルガニストは記者席の最上段に電子オルガンを設置して演奏している。ブレーブスのオルガニスト、マシュー・カミンスキーさんも「メキシカンハットダンスは手拍子が欲しいときに演奏しますね。ブレーブス側を盛り上げるために、ブレーブスの攻撃時に演奏しますよ」という意見だ。

野球は他の球技に比べて間があり、その間を利用して音楽を入れて試合を盛り上げていく。本拠地チームの攻撃中、観客に手拍子を促すための曲のひとつが『メキシカンハットダンス』≒『アホの坂田』なのだ。

電子音楽との共生

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ブルージェイズの本拠地ロジャース・センターのオルガニストは、外野のテラス席に専用スペースを持っている。本拠地試合の週末だけの演奏だという。「私はメキシカンハットダンスも演奏できますが、主に試合前にお客さんにリラックスしてもらうような音楽を演奏しています。試合中は録音した別の音楽を使うことが多いので」。

このオルガニストはユニホームを着ていて、背番号「1」、名前は「オルガニスト」となっている。あらかじめ加工された電子音楽が流れることが多く、生音楽演奏時間は以前より短くなっているようだったが、耳だけでなく、ルックスでも楽しませる工夫をしていた。

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ブレーブスのオルガニストはツイッターのアカウントを持っていて、このアカウントを通じて観客からリクエスト曲を受け付けることにしている。ツイッターというテクノロジーを利用して生演奏する。

ブレーブスの選手が打席に入るときには、各選手ごとの曲を流しているが、相手選手が打席に入るときにはオルガンで曲を演奏。対戦相手のメンバーを確認し、その選手に関係のある選曲するという。例えばレッドソックス戦では昨年までジャイアンツでプレーしたパブロ・サンドバルが打席に入るときには『思い出のサンフランシスコ』を演奏し、観客に昨年までサンフランシスコジャイアンツでプレーしていたこととつなげてもらうようにするのだそうだ。

試合時間短縮ルールも技術でカバー

今年から大リーグでは試合時間短縮の新ルールが導入された。イニング間や投手交代までの時間がカウントダウンされ、掲示版に表示されるようになっている。

カミンスキーさんは「打席に入るまでは20秒の演奏です。それに今季からは試合時間短縮ルールで演奏時間が少し短くなっていますが」と話す。

古き時代の野球観戦ムードを醸し出すオルガンの生演奏。その音を奏でるオルガニストはカウントダウン表示を見ながら、うまく曲を入り込ませるように、新ルールの下でも演奏の腕を発揮している。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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