竜王戦の勝敗を分けた要因はなにか――勝負所をAIで解析
第31期竜王戦(読売新聞社主催)七番勝負最終第7局は12月20、21日に山口県下関市「春帆楼」で行われ、挑戦者の広瀬章人八段(31)が羽生善治竜王(48)に勝ち4勝3敗のスコアで竜王位を奪取した。
敗れた羽生前竜王は27年ぶりの無冠となった。
シリーズの勝敗を分けたのは何か、将棋AIを用いて解析してみた。
転機の第4局、羽生竜王終盤の失速
本シリーズの流れを変えたのはズバリ第4局だろう。羽生竜王は第3局の先手番を失ったものの2勝1敗とリード、再度後手番の角換わりを受けて立った。
羽生竜王の指しまわしはさえ、互角の中盤から相手の攻めをいなしつつ、じわじわリードを拡大していった。
分析に使ったソフトはApery(平岡拓也氏ら開発)。棒グラフの上が先手有利(評価値プラス)の数値、下が後手有利(評価値マイナス)を示す。
2日目夕方、100手を超えたあたりでは明らかに羽生竜王の勝勢、ソフトの評価値も後手のプラス1000点以上だった。ところがここから20手の間に失着がいくつも出て、広瀬八段の大逆転勝利となった。
原因は疲労の蓄積から読みの精度が落ちたことであろう。30年近く過密スケジュールの中、トップで戦い続けて48歳という年齢を迎えたことによる体力の衰えも影響していたはずだ。
第7局も中盤までは羽生竜王十分だった
3勝3敗で迎えた最終第7局は改めて振り駒で先後が決められる。
両者なんとしても期待勝率の高い(公式戦平均52~53%)先手がほしかったはずだが、広瀬八段が先手を得て本シリーズ5度目の角換わりに進んだ。
第4局の時と同じく、中盤まで羽生竜王はうまく指し、後手番ながら微差のリードを奪う場面もあった。だが2日目の夕方、110手目を超えたあたりから急に指し手に精彩を欠き、あっという間に広瀬八段に差をつけられ土俵を割った。
原因は技術的なものではなく第4局と同じであろう。
広瀬新竜王の勝因は、今年度春からの好調をシリーズ中も維持したこと。また七番勝負で連敗スタートのあとも落ち着いて自分の将棋を貫いた精神力が後押しした。
羽生前竜王のタイトル100期はいつ
無冠になった羽生前竜王だが、佐藤天彦名人への挑戦権を争うA級順位戦では5勝1敗の星で、6勝0敗の豊島将之二冠(王位、棋聖)を追っている。最短なら来年初夏に名人復位でタイトル獲得100期の大記録達成可能だ。
故・大山康晴十五世名人が1973年49歳で無冠になってから、50代で復活し11期(十段1、棋聖7、王将3)のタイトルを獲得したように、羽生前竜王も遠からずタイトル戦の大舞台に戻ってくるだろう。その時を筆者は一将棋ファンとして楽しみに待っている。