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【PC遠隔操作事件】ラストメッセージ全文(上)

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

■はじめに

お疲れ様でした。

冬山はいかがでしたか?

私は紅葉のはじめの頃に行ったので快適でしたが、雪が積もった山は大変だったと思います。

さて、これまでメールにてさまざまな質問が寄せられました。

関連報道で謎とされている部分もあります。

それらについてFAQ形式でお答えしたいと思います。

■なぜこうしたことをなさったのですか 警察・検察にどんな恨みがあったの?動機について詳しく教えて。

私もまた、間違った刑事司法システムの被害者です。

ある事件に巻き込まれたせいで、無実にもかかわらず人生の大幅な軌道修正をさせられた人間です。

それがどんな事件だったのかは詳しくは言えません。

サイバー関係ではありませんが、彼らが間違いを犯した原因の趣旨は、その事件も今度の事件も大して変わりは無いものです。

刑事司法の問題点として良く出てくるキーワード、「自白偏重」「代用監獄」「人質司法」「密室取調」「作文調書」...etc

私はそれらを実体験をもって知る人間です。

そして、そのとき私は負けてしまった。やってないのに認めてしまった。

起訴された。公判で「反省している」と発言した。

おかげで刑務所に行かずに済んだが、人生と精神に回復不能な大きな傷を残した。

一連の事件は、私が「負け犬」から復帰するためのリベンジと言えます。

『先に償いをさせられた人間はその分の犯罪を犯してもいい』という持論。

あなたは間違っている、たとえどんな理由があっても許されない、そういう突っ込みがあることを理解する程度の理性はあります。

でも、それが私だけの哲学であり、誰にも軌道修正されない行動原理です。

いつかのDigで誰かが「犯人は壊れている」と表現していました。

そう、壊れている。私を壊したのは奴らだから。

■警察・検察をナメてるの?

慇懃無礼な文面から「ナメている」「グリコ森永事件みたいだ」などと言われてますが、そんなことはありません。逆です。

警察・検察の怖さは思い知っています。

どれほど怖いか、どれほどしつこいかを。

それを知っているからこそ、ここまで神経症・偏執狂とも言えるまでに厳重な注意を払って動いてきました。

ほとんどの人は、それだけの体験をしたなら、「もう警察には逆らってはいけないのだ」「目をつけられないようコソコソ生きよう」そういう卑屈な人生を送るのでしょう。

しかし私はその気持ちのベクトルが逆に働きました。

恐ろしい警察・検察に挑戦し、乗り越えることこそが私の人生に課せられた試練であり、それ無くしては一生負け犬として生きていくしかないと思いました。

■自殺予告について。

・ミス

「ミス」は嘘です。ごめんなさい。自殺する気は全く無かったです。

11月10日前後に、どこかの記事で「犯人が致命的なミスか?」「Torを使わず直接書き込んだ箇所」というのが載ったのがきっかけです。

決定的なミスで警察も期待しているかのような報道だったゆえ、ちょっと乗せられてみました。

結論を言うとその書き込みもTorです。

Torに割り当てられる出口ノードによっては2ch書き込み可能なところもあります。

たまたまそのとき書けるところに当たったので、わざわざシベリアの依頼スレを使わなかったというだけの話です。

結局何だったのかというと、一部メディアが言っていた「観測気球」という表現が半分合っていて、あとの半分は「面白半分」です。

・新聞紙

「予告犯」という漫画を読んで、とても共感を覚えました。

特に、登場人物の犯人グループの一人である「ゲイツ」君の境遇には自分と重ね合わせできるものがありました。(11月に入ってからはじめて単行本で読んだので、このマンガに感化されて一連の事件を起こしたというわけではありません。念のため)

その作品に出てきた、新聞紙を使う手口をちょっとだけ真似てみたというわけです。

・写真の位置情報

恥ずかしいことに、これは本当にミスしました。

保土ヶ谷の適当な住宅地の緯度経度を入れたつもりが、10進数→60進数の変換を忘れてしまいました。

これは本当に私の無知であり、ラックの西本さんに「犯人は教養がない」と言われても仕方ありませんねw

結果的には、保土ヶ谷の団地が捜索され、意図どおりにはなりましたが。

■決して死を選ばす、生きてすべての真実を明らかにしてください。

死を選ぶつもりはありませんが、自首することもありません。

もし仮に捕まったとして、私が白旗を掲げて自白したとしたなら、動機について「逆恨み」と表現されることでしょう。

「前科者が前に捕まったことを逆恨みしてまた犯罪を犯した」と、報道各社は警察発表そのままに垂れ流すでしょう。

私が前に経験した事件の判決が覆ることも無いでしょう。

もっと掘り下げてくれるほどマスメディアの皆さんのジャーナリズムを信用していません。

記者クラブで警察とベッタリなのは分かっているから。

「真実を明らかに」という点ではこのドキュメントだけでも十分なのではないですか?

これだけ詳細に書いたなら、あと残りの謎なんて、私の住所氏名年齢程度の些細なことでしょう。

そんなことで事件の全容が変化するわけでもないです。

■ご本人について・・・お名前、性別、年齢など可能な限り、ご本人様について教えてください。

ご想像にまかせます

■取材させてください

できません。

このドキュメントを持って、私から発信すべきことはもうありません。

余談になります。基本的に面会取材は一切受けるつもりは無かったのですが、英国のBBCの方から取材依頼のメールが来たとき、ちょっとだけ気持ちが動きました。

以前見た「ポチの告白」という映画を思い出したのです。

警察腐敗、刑事司法の問題、記者クラブ制度の病巣、そういう部分を明らかにした、社会派な内容です。

登場人物が警察腐敗を暴こうとするも、記者クラブ制度に漬かった国内メディアには全く相手にされず、普段記者クラブから締め出されている海外メディアを頼るシーンが出てきます。

そのシーンを思い出し、BBCの取材依頼なら受けてもいいかな?と傾きましたが、やっぱり止めました。

そこまで出しゃばり屋でもないし、「凄腕ハッカー」のような扱いで出されても困る。(そこまで誇れる技術力があるつもりもない。)

「刑事司法の問題」という部分で言いたいことはいくらでもあるとは言え、私程度が言えることは誰かもっと頭のいい専門家が既に言っています。

だからわざわざ出る必要も無いと思い、他のメディアと同じようにBBCのメールも無視しました。

落合洋司先生がBBCの取材を受けていたようなので、それで私が言いたいこと、世界に向けて言うべきことは言ってくれたと思います。多分。

■どんなことを考えていますか?世間の反応についてどう思いますか?

警察が誤認逮捕をやらかす、世間が騒ぐ、という意図どおりの結果になったとは言え、反響が予想以上に大きく戸惑っています。

同時に達成感も大きいものとなっています。

正直なところ、もともと犯行動機は私怨が主で、あまり政治的自己主張は考えていませんでした。

警察・検察・世間が騒いであたふたしたら嬉しいな、自分の溜飲が下がる、それだけでした。

「刑事司法の矛盾を暴く」というような高尚な目的意識も高くはありませんでした。

また、神保哲生さんが、「ダウンロード刑罰化・ACTA・サイバー犯罪条約・児童ポルノ単純所持処罰などのネット規制の動向に抗議する意図も犯人にはあったのではないか?」のように分析していましたが、そのあたりについても全く考えていませんでした。

それらについては、事後に専門家のコメントを見て深く考えるようになりました。

もともとネット規制は私もどちらかというと大反対です。

刑事司法の諸問題、ネット規制に関する諸問題、どちらについても国民の自由が奪われる方向に向かっていくことは防がないといけないと思っています。

後付けの動機となってしまいますが、今となって思えば、自分の行為がその一助になれたら本望です。

(もっともネット規制のほうは私のせいで逆に締め付けが強くなりそうですが)

余談です。

家電量販店のウイルス対策ソフトのコーナーでは、「遠隔操作ウイルスの脅威」のように煽るPOPを付けて売っていますね。

私はそういうところに立ち寄り、一連の事件の社会的影響を確認したりしています。

売り場に立っているソフトメーカーの販促スタッフに、ぱそこんしょしんしゃの振りをして神妙な顔で、「最近ニュースで話題の遠隔操作ウイルスがすっごく不安なんです(>_<)」のように話しかけてみました。

すると「この製品が一番最初にiesysに対応したんですよ!」と、とても嬉しそうにアピールされました。

何だかおかしかったです。

今まさに目の前に真犯人がいるとはこの人は微塵も思ってないんだろうな・・・と内心考えながら、説明をしっかり聞いてあげました。

■目的通りに誤認逮捕を招き、警察・検察が謝罪しているが、今どのように感じているか

警察官や検察官はもっと人並みに、人の話をちゃんと聞く姿勢があれば1件も誤認逮捕など起こさなかったのでは?と。

あの人たちはコミュニケーション能力以前の問題、日本語というか地球語が通じない宇宙人です。

彼らにそういう能力が無いことを分かっていて試した私も私ですが。

結合試験のテストパターンを作って流したら再現性のあるバグの結果が得られた、そんな感想です。

テスト結果を全国に、全世界に提示できたことは大変有意義だと思います。

■警察の技術レベルについてどう思われたか

CSRFについては見破られると思っていました。

後述のようにいろいろ工夫したとは言え、「2秒で送信」問題は消せなかったので。

私の知っている警察のしつこさは、被疑者をシロにする方向には働かなかったのだなと再確認。

iesysについては見つけられなくても仕方が無いです。

投入前に、主要なウイルス対策ソフトの体験版をいくつか試用し、検知に引っかからないことを確認しました。

完全自作プログラムだったので定義ファイルにパターンマッチすることは無いですが、ヒューリスティック検知に引っかかるかも?と興味を持ちテストしました。

特にキーロガー機能でOSのキーボード・マウス入力命令をフックしているあたり、「怪しいプログラム」アラートぐらい出てもおかしくないと推測。

結果的にはどの製品でも引っかかることはありませんでした。

あの手の「ヒューリスティック検知搭載」と謳って売っている製品が、それをどのような基準で行っているのか興味深いところですね。

警察の技術レベルが高いか低いかですが、今回の失態の趣旨は、デジタルとは関係ない部分での捜査手法の欠陥のほうが、原因の多くを占めていると思います。

技術レベルは高いところもあれば低いところもあるのでしょう。少なくともサイバー課をナメてはいないし油断してもいません。

140人の捜査体制だ、FBIに協力要請だ、そういうのを見て正直プレッシャーを感じてもいます。

最近の動向として、「犯人がアクセスした可能性のある90億ログを解析している」という。

これについては、直接関連するサイトへのアクセスは下見閲覧段階も含めて完全にTorを使っています。

たとえば横浜市のサイトやJALのサイトなど、一度も生IPでアクセスしたことはありません。

この時点で9割5分、捜査線上に挙がることすら無いと思っています。

しかし全てのアクセスでTorを使ったわけではない。

間接的に関連するようなサイトは、普通に閲覧したところもあります。

ビッグデータ解析のようなことをして、「こいつはこのサイトとこのサイトを見ているので怪しい」という、

100人か200人かの「犯人候補」の中に絞り込まれることも無いとは言えないです。

全国津々浦々、それら犯人候補のところに一人ずつ家庭訪問すれば、どこかで私に突き当たるかもしれない。

その可能性も予測しているため、油断は一切していません。

前に述べたようなオンラインでのアクティビティだけではなく、自分しか触らないローカルPCの中身までも偏執的なまでに注意を払っています。

つまり、私のPCを調べたところで証拠は何も出ません。他の100人200人の犯人候補者と同様に。

犯行に使った罠Javascriptやトロイのソースファイルそのものから、細かいメモに至るまで、ファイルを置く場所については厳重に管理していました。

そしてそれらが存在した記憶媒体、およびそれらを開いたことのあるシステムの記憶媒体は全部、とっくに完全消去の後、スクラップにして燃えないゴミに出してしまいました。

現在うちにあるシステムや外部記憶媒体全部、どんな高度な復元やフォレンジックを行おうと関係ありそうなものは何も出ません。

令状なしで来ても「どうぞどうぞ」と見せてあげますよ。

エロ画像の10枚や20枚は普通にあるので、それだけ鑑賞してお帰り下さい(笑)

それとも、犯人候補の中からあてずっぽうに選んでお得意の自白強要しますか?

「真犯人」を追求したつもりが、「新犯人」を作ることにならないといいですね。

私は根っからのカタギであり、ヤクザや過激派セクトの人のような海千山千な犯罪者ではないですが、経験者であるだけに、否認なり黙秘なり適切に対応する自信はありますよ。

「テメエコノヤロウ」とか、「お前の関係先にガサ入ってガチャガチャにしてやるからな!」(原文ママ)とか同じようなセリフを言われても今度は負けませんよ。

■一体、このゲームをどこまで続けるおつもりですか?どのように決着をつけるつもりでしょうか。

もうやめます。

私の気が済むまでやって捕まらなければ勝利、という条件を設定していましたが、ここまで反響が大きいと、私の溜飲は下がりました。もう負け犬ではないです。

私が巻き込まれた事件のことも、私が起こした事件のことも、全部忘れて再出発します。

■誤認逮捕された4人の男性への謝罪の気持ちはありませんか。

こうでもしないと警察・検察を自省させることはできなかった、仕方の無いこととは言え、大変申し訳ないと思っています。無関係の4人を巻き込んだこと、軽く考えてはいません。

自分は悪くないなどと言う気はないです。償わなければならない罪を犯したことは分かっています。

でもそれ相当の罰は先に受けている。だからこれ以上責任を負うつもりはないです。

罪と罰の因果の逆転。そういうことが起こっていることを分かってください。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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