ラグビー日本代表・李承信が“5回”も口にした司令塔「10番の役割」とは?
ラグビー日本代表の強化合宿は19日から第2クールがスタートした。報道陣に向けて約30分間、練習を公開したあと、選手たちが囲み取材に応じた。
注目はスタンドオフ(SO)としてチームの司令塔で「10番」候補の22歳・李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)だ。先月はテレビで「情熱大陸」やNHKの「スポーツ×ヒューマン」で取り上げられ、フランスW杯を前に知名度は全国区となった。
その反響も大きく「多くの方から応援していただいていますし、番組を見て自分の存在やラグビーをした方もいると聞きました。多方面から『見たよ』という声はいただいています」と照れ笑い。
ただ、1週間前に始まった合宿では、新たに気が引き締まった感じを受けた。「ハードなスケジュールでしたが、チームメイトといいバトルができた、個人的にもしっかり成長できている実感があります」と笑顔を見せる。また、第1クールでのタックルセッションにはかなり驚いていたようすだったが、「あれだけ時間を割いてハードにタックル練習したことがなかったので、本当にコンタクトの部分、タックルのテクニックや体も当てれている」と成長を実感していた。
今回の合宿で李が狙うのはもちろんフランスW杯のメンバー入り、さらにはチームの司令塔として「10番」を背負うこと。昨年6月のウルグアイ戦での代表デビューを飾り、その後のフランス戦でもランやパス、精度の高いキックで新たな司令塔として名乗りを上げた。チーム内でのポジション争いも激化するなか、同じSO候補には松田力也(埼玉ワイルドナイツ)や李とチームメイトの山中亮平(神戸)もいる。
「10番」には何が求められているのか?
李は期待値が高い分、プレッシャーもあるがそこはこれまでも経験してきたことでもある。
「去年のテストマッチを経験できているのは、すごくポジティブなことなので、ジャパンのラグビーをするうえで“10番”が何を求められているのかは自分でも理解している部分です。その中でどんどん自分の強みも出していきたい。経験値でいうと明らかに2人が上回っていると思うので、学びながらも自分の強みを出していきたい」
実は取材中、李は「10番」を何度も口にしていた。その数を数えると実に5回。そして求められる役割についても、明確な答えを持っていた。
「今も取り組んでいるタックルやフィジカルコンタクトの部分で1対1で受けることなく勝負できるのかが大事だと思います。ジャパンのラグビーをする上で10番が本当に大事な役割になってくると思います」
リーグワン期間中は所属チームで司令塔としてプレーしたことでも“10番”の意識は高まっていた。
「代表のスタッフとも定期的にズームなどでフィードバックをもらいながら、去年の秋のテストマッチで出たタックルの課題だったり、難しいプレッシャーの中で10番としての役割を果たせるか。チームとしても難しいシーズンでしたが、その分、10番として問われる責任やプレッシャーも味わえたので、そこは成長できたと思います」
武器でもあるキックの精度は常に意識
それほど、日本代表の司令塔としての立場や役割を強く意識しているということだが、彼は「10番の役割」や求められていることをどのように捉えているのだろうか。
「特にアタックの部分で、ジャパンのシェイプ(攻撃の形、選手の立つ位置)やどういうところにスペースがあるのかなど、ゲームをどんどん予測しながら、常に高いスキルで代表のプレースタイルをリードしているところが求められていると思います」
そして彼の武器でもある精度の高いキック、そして求められるのはゴールでもあるが、そこはこれまで通りに突き詰めていく部分だ。そして「10番として」という言葉がまた最後に出てきた。
「今の世界ラグビーを見ても、キックの使い方や数はすごく大事になってきています。今日の午前のミーティングの話なんですけれども、まずは10番としていい精度のキックとしっかり空いているスペースにどれだけ正確に蹴るかで、チームが敵陣に入れるか、FWが前に出られるかが変わってくるので、常にそこは意識してやっています」
在日の子どもたちへの道筋として
そして在日コリアンで朝鮮学校出身者として初の日本代表選手でもあることで、李は注目されるが、W杯出場を待ち望む後輩たちのことも忘れていなかった。
「自分がW杯に出ることによって、(在日の)未来の子どもたち、特にこのステージを目指す子どもたちには夢を抱いたり、その道筋が見えると思うので、自分が出ることによっていろいろな人に可能性を示したいなと思います」
いずれにしても合宿はまだ始まったばかりで、このあとはテストマッチが続き、9月のW杯へとつながっていく。子どもの頃からの夢でもある舞台に立つまであと一歩と迫っている。
「ラグビーを始めた小さなころからの夢でもありますし、その夢が叶う一歩のところまでチャンスが来ている。一日一日を大事にして、自分のラグビーを信じて、絶対にW杯メンバーに選ばれるようにがんばりたい」
ラグビーW杯開幕まで残り3カ月を切った。質問に一字一句丁寧に答える22歳の日本代表・在日ラガーマンの瞳は、少年のようにキラキラしていた。