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オレオレ詐欺やロマンス詐欺…米国でも年間数兆円の被害額。被害届を出さない人がいるのはなぜ?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

日本でオレオレ詐欺、投資詐欺、ロマンス詐欺などさまざまな詐欺事件が起こり日々ニュースになっている。そしてここアメリカでも同様にそのような詐欺が蔓延している。

詐欺は昔からあるが、インターネットの誕生以来、さらに巧妙な詐欺が蔓延るようになった。

筆者がアメリカに移住した2000年代初頭にすでによく被害を耳にしていたのはアパート契約詐欺だ。これはネットに超素敵な(架空の)物件が破格の家賃で掲示され(もしくは特別ディールとして一般公開前の情報が送られ)、遠方に住み内見できない人がまんまと騙され、前金や前家賃を振り込んでしまうというもの。この詐欺は以前(筆者が知る限り20年以上前)から存在している。移住後7年間で6回の引越し経験がある筆者は、住居を探す際は必ず現地に足を運び自分の目で確認したものだ。

いつの頃からか(スマホが一般的になった頃?)、詐欺電話や詐欺メールも常態化。日々、電話(ロボコール含む)、テキスト、メールが届く。内容は驚くほど良いディールが「当選した」または「不在で荷物が届けられない」などの口実で、入金させたり個人情報を盗んだりするもの(フィッシング)。たまに日本の国税庁に相当する(偽の)IRSから税金関係で留守電があり驚くが、冷静になるとそもそもIRSからの通知は郵便物が基本だ。筆者は知らない番号の電話にはいっさい出ず、メールもテキストもスルーしている。

テレマーケティングであれば登録して電話を受けない方法もあるが、詐欺については次から次へと新たな詐欺師が出現しイタチごっこなのが現状だ。

写真:イメージマート

アメリカでFacebookが一般利用されるようになったのは2007、08年頃と記憶しているが、そのようなSNSの浸透と共にロマンス詐欺に関連した怪しいメッセージや友達申請もたまに届く。歯が浮くようなことが書かれ、(架空の)送信元はたいてい金持ちそうな白人やアジア系だ。彼らは医者や、中東に派遣された軍人で妻を亡くした不幸な男やもめを名乗る。投稿されている写真を面白半分で覗いてみると同じ日に連続投稿されていたりする。日本人を名乗る富豪らしき(架空の)人物は高級外車の前に立つ写真を投稿し、グーグル翻訳のような違和感満載の日本語メッセージを送ってくる。このような写真を悪用されないよう、ネットに日常の写真を投稿しないことも重要。

詐欺と言えば、筆者はアメリカのクレジットカードを数回悪用されたことがある。お金はその都度戻ってきたが、今でも悔しいのは2017年、日本のクレカ情報が盗まれキャッシング詐欺(クレジットカード・スキミング詐欺)に遭ったことだ。ある日、見覚えのない1000ドル弱(当時の為替相場で9万7341円)の請求がクレカ会社から届いた。調べると筆者が立ち寄ったこともないATMでキャッシングされていた。そしてその金額を取り返すことはできなかった。以来クレカの暗証番号を店頭で打ち込む際は誰にも見られないように細心の注意を払っている。

この詐欺被害については以前ブログで書いたので、興味があれば参考にしてほしい。

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米での年間被害額は数兆円規模。そして増加中...

筆者がアメリカで詐欺被害に遭ったのはこの2017年が最後だが、アメリカでは相変わらず詐欺が蔓延っているという。

7日付APは、アメリカでもネットや電話を使ったロマンス詐欺や高齢者を狙ったオレオレ詐欺など特殊詐欺の件数が著しく増加中で、海外からの詐欺被害に遭うアメリカ人の被害額について、年間数百億ドル(数兆円)規模に上ると報じた。

記事によると、容易に詐欺師になれ大金を稼ぐことができることから、詐欺は後を絶たないという。被害者側の高齢化とAI技術の進化によって詐欺を働くこと、そして逃走がさらに容易になっており、今後も詐欺被害が拡大するだろうとの予測だ。

一方で犯人の検挙に至るケースは少なく、被害額が戻ってくることもめったにないという。

そしてこれはアメリカならではだが、重罪が日常的に起こっているこの国の警察は特殊詐欺罪をほかの重罪ほど深刻に受け止めず、連邦検察も詐欺被害が一定額に達しない限り介入することはないという。よって被害者が諦めて被害を報告しないケースもあるというのだ。

この情報には筆者もうなづける。というのも前述したキャッシング詐欺被害に遭った際、筆者は(在ニューヨーク日本国領事館に相談し良いアドバイスを受けたが)結局は日本のカード会社との話し合いで、被害額が戻ってくることはないとカード会社に説明され、落胆して警察に届け出ることをしなかった(その考えに及ばなかった)。いま冷静に考えると、届け出ることで公式な記録として残るので届け出た方が良かったのだが、人というのはパニック状態でかつ希望が持てないとなると、適切な判断ができないものだ。それを身を以て体験したのだった。

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米国でも高齢者が詐欺の標的になりやすい

詐欺グループの格好の標的になりやすいのは、若い層より多くの資産を持つ高齢者だという。APが載せた最新のレポートによると、FBIのインターネット犯罪苦情センターに寄せられた高齢者の詐欺被害件数は昨年14%増加したという。また被害額は11%上昇し34億ドル(約5460億円)に達した。

米高齢者団体のAARPによる別の調査ではそれらの数字はさらに上回り、60歳以上の被害者の損失額は年間で283億ドル(約4兆5500億円)に上るという。連邦取引委員会による被害届が出されていない被害額の見立てでは、2022年が1370億ドル(約22兆円)。うち480億ドル(7兆7200億円)は高齢者の被害額だと見られている。

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被害者が被害を届け出ない理由の一つは前述の通りだが、騙された自分を恥じるようなある男性のコメントが記事に掲載されている。70万ドル(約1億円)の被害に遭った80歳男性はこのように話した。「実際に被害に遭った今ならわかる。振り返ってみるといかに自分が愚かだったか」。それをまざまざと思わされ絶望したのだろう。

別のFBIの資料には、アメリカでもっとも一般的な詐欺は養子縁組詐欺、ビジネスおよび投資詐欺、ビジネスメール詐欺、チャリティと災害に便乗した詐欺、ロマンス詐欺、ホリデーシーズンの詐欺、高齢者詐欺(オレオレ詐欺、ロマンス詐欺、宝くじ詐欺など)、暗号通貨詐欺などという。そして、それぞれの詐欺から身を守る方法が解説されている(高齢者詐欺であれば「すぐに行動しなければならないというプレッシャーに抵抗すること」、ロマンス詐欺であれば「数ヵ月経っても直接会えないのは疑う十分な要素になる」など)。そしてさまざまな資料では一貫してこのように喚起されている。

「何事もうますぎる話には注意が必要」

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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