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藤井聡太二冠、18連勝→1敗→18連勝で順位戦通算36勝1敗! B級2組8回戦で野月浩貴八段に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月16日。東京・将棋会館においてB級2組8回戦▲藤井聡太二冠(18歳)-△野月浩貴八段(47)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時16分に終局。結果は81手で藤井二冠の勝ちとなりました。リーグ戦成績はこれで藤井二冠7勝0敗、野月八段3勝5敗です。

 藤井二冠はB級2組7連勝。昇級に向けて大きく前進しました。

 また順位戦2度目の18連勝を達成。順位戦通算成績は36勝1敗(勝率0.973)となりました。

 藤井二冠の年内対局はこれで終了。年明け1月6日にはB級2組9回戦、昇級を争う中村修九段(6勝2敗)と対戦します。

藤井二冠、判断の難しい一局を制する

 順位戦の時には出身地である北海道のお菓子を持ってくるという野月八段。

野月「今日は『白い恋人』と『ノースマン』っていう北海道のお菓子だったんですけど」

 中継の映像には、そのお菓子がずっと映されていました。

 後手番と決まっていた野月八段の作戦は雁木。対して藤井二冠は玉形の整備をほとんど省略して速攻を仕掛けます。

野月「雁木自体は最近突き詰めている戦法なので、いろいろな対策を考えてはいたんですけれども。その中でもかなり自分から激しい展開で。微妙な形の違いをどうプラスにするか。マイナスにしないようにするかっていうのが非常に難しい将棋だったなと思いますね。受け止める指し方もあったと思うんですけど、自分の棋風からいって、積極的に動いていこうと。終始そういう感じで指したんですけれども。うーん、中盤が難しすぎましたね。なんか判断が、さっぱりわかんなかったです」

 昼食休憩後、野月八段は薄い藤井玉の近くで動きます。定跡形を大きくはずれ、一手のミスがそのまま勝敗に直結しそうな展開となりました。

藤井「けっこう見慣れない局面だったので、判断が難しいのかなと思って指していました。(32手目)△5二玉と立たれて、そこでこちらから動いていくと反動が厳しそうな気もしたので。そこから自玉に手を入れる方針で指してました」

野月「なにかこう、お互いバランスを取るのがけっこう難しい中、キズを抱えてる将棋なので、一歩間違えるとすぐに終わりそうな変化もいっぱいありますので。うーん、そのへんの自分の長所と短所、相手の長所と短所を比べるのが難しかったですね。こちらが(△5二玉と)玉をまっすぐ上がって手を渡したときに、受けに回られるのは少々予定とは違って。なにかありそうとは思ってはいたんですけど、なかなか難しい・・・。なんか選択肢が多すぎて、どれを選んでも難しそうで。その中で積極的な手を選んだんですけど」

 午後は互いに時間を使い合ってスローペース。39手目、藤井二冠が守りの銀を上がったところで夕食休憩に入りました。

 野月八段は再び休憩をはさんでの長考。中段に据えられている藤井二冠の角頭を攻めたあと、藤井陣に角を打ち込み、自陣に引き成って馬を作りました。

藤井「こちらが歩得ですけど、馬が手厚いので、常に難しいのかなという印象でした」

野月「ちょっと馬作ったあとの指し方が、うーん、いまいちだったかなと。馬作るまで相手の飛車とか銀を使わせてしまうので、そこらへんの判断がよくわからなかったですね」

 形勢判断は難しいところ。50手を過ぎたあたりでは、きわどいところで均衡が保たれています。ただし野月八段は歩損の上に歩切れで、そのあたりで苦労する進行となったようです。

 持ち時間は各6時間。両者ともに残り1時間を切っても、まだねじり合いの中盤戦が続きます。

 中段でのせめぎあいの中、藤井二冠は桂得の成果を得ました。形勢は次第に藤井ペースとなってきたようです。

 69手目。藤井二冠は相手陣に銀を成り込みます。この手を決断すると相手からの反撃も覚悟しなければなりません。残り時間は藤井10分、野月21分。藤井二冠は席を立ち、駆け足気味にトイレに向かいます。

 野月八段は間髪を入れず飛車を切り、角と刺し違えました。駒割は飛桂と角銀の交換でほぼイーブンに。いよいよ終盤戦です。

 時刻は23時を過ぎます。野月八段も時間を使い、両者ともに10分を切りました。

藤井「最後までわからなかったです」

 78手目。野月八段は藤井陣に銀、角を順に打ち込んで王手をかけて迫ります。

 81手目。藤井二冠は落ち着いて玉を逃げました。これで野月八段からの攻めはしのげています。残り時間は藤井5分、野月4分。

 野月八段は3分を使って、残り1分。そして次の手を指さず、投了しました。

 すさまじい勢いで順位戦を勝ち続ける藤井二冠。残り3戦のうち2戦で勝てば昇級が決まります。

 藤井「あまりこれまでのことは考えずに、残りの3局に、いままで通り臨めればと思います。今年は自分としては初めてタイトル戦に出ることができて、そういった大きな舞台で対局できたことはとてもいい経験になりましたし、また、結果も残せたので、いい一年になったのかなと思っています」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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