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安倍元首相「国葬」、今後も追及されるべき―憲法、イラク戦争検証の視点から

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
安倍元首相の国葬会場近くでの抗議活動 筆者撮影

 各メディアの世論調査で「反対」が「賛成」を大きく上回る中、27日に強行された、安倍晋三元首相の国葬。来月3日から招集される臨時国会では、国葬の法的根拠や経費等を野党側が追及するとのことだが、検証は当然必要だろう。また、安倍元首相が国葬に値する政治家であったのかも検証されるべきだ。数々の疑惑に加え、憲法や法制度を蔑ろにする「安倍政治」の問題点や、それを反省することなく、むしろ引き継ごうとする岸田政権のあり方も問われるべきだろう。本稿では、特に安保法制やイラク戦争に関連した安倍元首相の振る舞いを振り返る。

〇安倍元首相の違憲行為

「安倍政権以前は、自民党の政治家達も、『それは憲法上できません』と言われると、『そうか、残念』と引き下がった。ところが、安倍政権は憲法の解釈を変えてやろうとする。だが、それは違憲行為。憲法に縛られる人々が、憲法の意味を変えることは一番いけないこと」―26日に衆議院第一議員会館で行われた国葬反対の集会で、憲法学者の小林節・慶應義塾大学名誉教授は、そう批判した。安倍政権の憲法軽視の最たるものが、2015年9月に「採決」を強行した、安保法制だ。

26日に衆議院第一議員会館で行われた国葬反対の集会
26日に衆議院第一議員会館で行われた国葬反対の集会

 それまで、日本政府の憲法解釈では、外国から侵略を受けた際に応戦する個別的自衛権は認められても、日本自体が攻撃を受けていなくても米国等の同盟関係にある国が攻撃された際に共に応戦する集団的自衛権は認められないというものが、一貫としてあった。ところが、安保法制では、限定的であるにせよ、集団的自衛権の行使を認めるもので、当時の国会での参考人招致では、自公推薦の一人を含め、憲法学者3人がそろって「違憲」だと指摘していた。だが、安倍政権は、閣議決定したとして安保法制を取り下げず、強引に「採決」に踏み切ったのだった。

 しかも、2015年9月17日の参院特別委員会では、安保法制をめぐる国会質疑を締めくくる総括質疑を行わなかった。総括質疑とは、国会の委員会で、全閣僚出席のもとに、審議案件全般についてなされる質問だ。当初は安倍首相(当時)も参院特別委での総括質疑に出席、野党議員達とやり取りするはずだったのである。それまで、ことあるごとに「丁寧に説明していく」と繰り返し発言してきた安倍氏だったが、ふたを開けてみれば、「敵前逃亡」したのである。

 また、この参院特別委員会では、参議院則に定められた手順も、記録も無しに「採決」したとされたのだ。参議院規則では、「議長は、表決を採ろうとするときは、表決に付する問題を宣告する」(第136条)、「議長は、表決を採ろうとするときは、問題を可とする者を起立させ、その起立者の多少を認定して、その可否の結果を宣告する」(第137条)と定められている。ところが、「採決」の直前、自民党の佐藤正久筆頭理事が「記録を止めて下さい」と委員会の進行を一旦ストップさせ、そのままの状態で、委員会のメンバーではない自民党議員や秘書までが鴻池祥肇委員長をスクラム状に囲み、その中で「安保関連法案等の5 件の採決が行われ、賛成多数で可決された」とするが、無理のある主張だ。委員会室にいた特別委の委員達も、「委員長が何を言ったかわからない。いつ動議を出したのか、採決されたのかわからない」(福山哲郎委員)、「いったい何がおきたのか、そもそも動議が出たのかどうかも、委員長が何を発言したのかも誰もわからない」(井上哲士委員)と語っている。これらの発言を裏付けるように、委員会の速記録でも「議場騒然 、聴取不能 」と記されるのみで、議事の進行を記す委員長の発言も質疑打ち切り動議の提案も記されていなかった。同日、国会前で行われた抗議集会で、憲法学者の樋口陽一東京大学名誉教授は安保法制をめぐる政府与党の動きについて「違憲とか違法とかそれだけでなく、社会の骨組みが崩されようとしている」と批判したが、正にその通りであろう。

安保法制反対のデモ(2015年) 筆者撮影
安保法制反対のデモ(2015年) 筆者撮影

〇イラク戦争をめぐる安倍元首相の言動

 安保法制をめぐる安倍氏の言動も、虚偽や不誠実さが目立った。開戦当初からイラク戦争を取材してきた筆者として、捨てておけないのは、イラク戦争関連の安倍元首相の言動だ。2015年5月28日の衆院特別委員会では、「米国が先制攻撃の戦争を行った場合でも、集団的自衛権を発動するのか?」と問いただした共産党の志位和夫委員長に、安倍氏は「国連憲章に反する行為に対して、わが国が武力をもって協力することはない」と答弁している。だが、志位委員長にイラク戦争について、「米英とも、当事者たちは、戦争を開始したことが間違ったとは認めていないものの、(戦争の口実とされたイラクの)大量破壊兵器の保有という情報が誤っていた、認識の誤りがあった、これは明確に認めているんです。日本政府としても誤りをきっぱり認めるべきじゃありませんか」と追及されると、安倍氏は開き直った。

「イラク戦争に対する我が国の立場については岸田大臣から答弁させていただいたとおりでありまして、当時、(イラクの)フセイン大統領は大量破壊兵器を所有していないことを証明できる立場にあったにもかかわらず、それを行わなかった。そして、累次の、三次にわたる国連決議に違反し続けたということでありまして、それがまさに核心であったというのが検証の結果でもあったわけでございます」(安倍氏)

 この、当時首相であった安倍氏の答弁は、著しく不誠実で事実と異なる。当時、イラクのフセイン政権が生物兵器や核兵器等の大量破壊兵器を秘密裏に開発しているのではないかとの疑惑については、UNMOVIC(国連監視検証査察委員会)がイラク現地に入り、査察を行っていた。その当時UNMOVICの委員長であったハンス・ブリクス氏の講演を、筆者も関わる「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」が2010年に都内で企画したが、その場でブリクス氏は以下のようにふり返っていた。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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