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マライア・キャリー、リベンジ大晦日ライブを無難にこなす。視聴率は大幅アップ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ハプニングなく大晦日ライブを終えたが、反響はさまざま(写真:Splash/アフロ)

 マライア・キャリーが、1年間耐え続けた屈辱を晴らした。無難におさえ、準備をしっかりして挑んだ今年のタイムズスクエア大晦日ライブは、思い出に残るとまではいかないものの、とりあえず合格だったのだ。

 1年前の同じライブで、キャリーは、始まってまもなく口パクがばれ、バックダンサーが踊る中、所在なく舞台をうろつくという失態を見せている(マライア・キャリーがNY大晦日ライブで大失態。2016年の終わりにふさわしい?)。原因は、キャリーのイヤーピースと、歌詞を読むためのプロンプターが正しく作動しなかったこと。当時、彼女は、このライブ番組の制作会社が視聴率アップのためにわざとやったのだと、ディック・クラーク・プロダクションズ(DCP)を責めた。DCP は、もちろん否定している。

 しかし、この二度目のチャンスの話には、キャリー、DCPともに、乗り気だったという。キャリーにとってはリベンジの意味が、 DCPにとっては、それこそ視聴率狙いの意味があったのだ。キャリーは、1年前と同じく、年が変わる直前のパフォーマンスとなる午後11時40分ごろの枠を要求。さらに、カウントダウンの時には、司会のライアン・シークレストと並んでボールドロップを見守るプラットホームに立ちたいとの要求もつけた。ライブのステージとプラットホームは位置的に離れているため、限られた時間で彼女をどう移動させるか、関係者は頭を悩ませたらしい。

 キャリーの再挑戦が発表されて以来、ソーシャルメディアでは、「また何かやらかすのでは」「今年の大晦日はすごく寒いよ。失敗したら寒さのせいにするんじゃないの」など、好奇心に満ちたコメントの数々が飛び交った。実際、それらの人々がチャンネルを合わせたため、この時間の視聴率は、昨年に比べて50%もアップしている。

 昨年よりももっと多くの人が見守る中、キャリーは、少なくとも口パクではないとわかるパフォーマンスを披露してみせた。曲目は「Vision of Love」と「Hero」。昨年のようにバックダンサーはつけず、生バンドと数人のバックコーラスだけ。しかも、あえて音域を狭め、聴き慣れたレコーディングとは違う歌い方をしている。「Hero」のクライマックスには、7オクターブをもつと言われる彼女の音域を見せびらかすような部分があるが、そこも地味に、抑えめに歌った。1曲めと2曲めの間に、熱いお茶を口にするつもりだったのに用意されていなかったのが、唯一のハプニングだ。

 お茶をすすることなく2曲めを歌い終えたキャリーに、観客は大きな拍手を送った。 シークレストも、「マライア・キャリーでした。さすが、すばらしかったですね」と絶賛を送っている。そこでコマーシャルが入り、番組がまた始まると、彼女は予定されたとおりボールドロップのプラットホームにいた 。最後には双子の息子と娘も連れてきて、高い位置からアメリカ中に今回の主役は自分だと強調した形だ。

 このパフォーマンスに対して、ソーシャルメディアにはさまざまな意見が見受けられる。中には、「昔みたいな高い声は出ないんだね」「去年よりましだけど、大騒ぎするほどの価値はない」「ひどかったじゃないか。どこがリベンジなわけ?」といった否定的なものも多数。一方で、「見事な報復」と絶賛するものや、ニューヨークの気温がマイナス12℃で風も吹いていたことを指摘し、「あんなに寒いと、喉と胸に影響が出るんだよ」「もっと歌えたのかもしれないけれど、無難にとどめたんだろう。それは非難しない」「歳を取ると、昔できたのと同じようにできないというのは事実」と弁護する声も少なくない。

 少なくとも、本人は満足な様子だ。ライブの後に本人がツイートした、タイムズスクエアにいる写真や、「お茶、ありました」と部屋で熱いお茶を飲む様子の写真からも、それはうかがえる。華々しくはないにしろ、キャリーの2018年は、スムーズに始まった。大晦日ライブのほかにも誇らしくない出来事がいくつかあった昨年を忘れて前進する上では、文句のない出発点だ。彼女の1年は、ここからどんな方向に展開していくのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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