コロナ禍の自粛葬に「正直ホッとした」 しかし「故人と向き合う余裕も時間もなかった」と吐露する妻の本音
葬儀の縮小に違和感を持つ人が減った
葬儀の形は宗教観の変化、地域コミュニティの変化、葬儀に対する意識の変化、超高齢社会を背景に参列者の減少や老後資金の枯渇等といった理由で、簡素化、小型化している。ここ10年くらいの間には、近親者やごく親しい友人・知人が集う「家族葬」や、火葬のみの「直葬」が注目されるようになった。
そうはいっても、全国的に一律同じように葬儀の簡素化、小型化が進んだわけではない。都市部を中心に語られていたことが、あたかもそれが「標準」かのようにメディアで取り上げられていた点も少なからずあった。
しかし、新型コロナの影響により事情は変わった。これまで「さすがに火葬のみというわけにはいかない」「私が住んでいるエリアは、まだ地域のつながりがあるので、ある程度の形式は大切」といった人でも、コロナ禍ですべてのイベントの縮小化を余儀なくされた今、「直葬」に違和感を持つ人が少なくなった。
「何もないのは寂しい」
そんな中、位牌については新型コロナ前後で大きな変化はなかったという。
複数の仏具店に問い合わせたところ、「位牌の受注件数に関しては、新型コロナの影響をさほど受けていないような気がする」という(とはいえ、位牌の単価は10年前と比べて下がっているというが)。
位牌には故人の戒名等が刻まれ、仏壇に安置される。夫婦連名で一基という形や、繰り出し位牌という複数の板片で構成され、多数の死者をまつる位牌もあるが、一般的には1人(一柱)に対して一基が基本。仏壇・仏具が揃っているという家庭でも、位牌は新仏用に新しく購入するので、受注件数にさほど影響はないのだろう。
「菩提寺もないし、特に信仰心もない。だから葬儀は無宗教で行った」というケースでも、後に位牌をつくる人はこれまでも一定数存在した。
「無宗教葬だったけど、何もないのは寂しい」と仏壇・仏具を用意し、毎日お線香をあげているという人も多い。最近は、洋風インテリアに合う仏壇・仏具が多く出回っていて、仏間がなくても、正座をしなくても、気軽に手を合わせられる環境を整えることができる。特定の宗教に対する信仰心はなくても、毎日お線香をあげたり、お花を供えたりすることで故人に対する思いを形に表したいという人は多い。
お盆を前に改めて故人を思う
東京は7月、全国的には8月にお盆を迎える。東京では6月半ばあたりから、スーパーなどで盆棚(精霊棚)に置くお盆用の飾りが棚に並ぶようになった。地域によっては、位牌を仏壇から盆棚に移し、供物をあげて先祖をお迎えするところもある。
今年4月に夫を亡くした良子さん(69歳・仮名)も折り畳みの簡易テーブルに仏壇店で購入したお盆飾りをセットした。
「夫は交友関係が広かったので、終末期に入ったとき葬儀のことを考えるのが正直苦痛だった。しかしコロナ禍で葬儀は縮小、『自粛葬だね』と嫌味をいう親戚もいたが、世界中が自粛ムードの中で文句を言う人はいない。その点はホッとしたのだが、四十九日法要も縮小、夫の死について話題にする機会がなかったためか、周囲の人は何もなかったかのように自分に接してくるし、私も夫の死を実感できない。『ご主人の具合はどう?』と聞かれて、その都度『亡くなりました』というのも辛い。」
未曽有の事態に、死を目の前に故人と向き合う余裕も時間もなかったことが悔やまれるという。
現在、夫と良子さんが入るお墓はない。もう少し自宅で弔いたいという気持ちもあるので、新型コロナが落ち着いてきたところでゆっくり探したいと考えている。今は、故人をお迎えする新盆用の白紋天(白い提灯)に、13日の盆入りに火を入れることを心待ちにしている。