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一度死んでみる…「入棺」「模擬葬儀」で逝き方に向き合う

吉川美津子葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士
ゴスロリ系棺が並ぶ入棺体験イベント(左)、生前葬の様子(右) *筆者撮影

ファッションビルにゴスロリ系棺がズラリと並ぶ

「弔辞、あなたと出会ったのは小学生の頃でした……」

棺の中に入った私を囲んで、自分が書いた弔辞が代読される。

「旅行が好きでアクティブな人でした」

「多くの人に慕われていました」

周囲の人が”私”について語り、気恥ずかしくなるような誉め言葉でたたえてくれる。

3分経過。棺から出た私は笑顔で迎えられた。

これは横浜ビブレ3階のポップアップストア(7/7~7/23)内で開催された入棺体験の様子。エレベーター前のフロア一等地には、本物の棺が5つ並んでいる。

甘ロリ系の棺。布施さん(後方)のオリジナル作品 *筆者撮影
甘ロリ系の棺。布施さん(後方)のオリジナル作品 *筆者撮影

YOMI Internationalが取り扱っているこの棺をデザインしたのは、「スタジオみけら」デザイナーの布施美佳子さん。布施さんは葬儀に関するオリジナルブランド「GRAVE TOKYO」を立ち上げ、骨壺を中心としたオリジナルブランドを展開。2022年からはオリジナル棺の制作にリブランドし、自社アトリエで「入棺体験」などのワークショップを行っている。

「こちらがゴスロリ。こちらが甘ロリ」

とそれぞれの棺のコンセプトを説明してくれた。

同フロアの他店とコラボしたユニークな展示。 *筆者撮影
同フロアの他店とコラボしたユニークな展示。 *筆者撮影

ファッションビルへの出店は4月に開催された「ラフォーレ原宿」に次いで2度目だという。

「前回出店した時、ゴスロリ系ファッションの若い世代からの注目が高かった。今回はこのフロア(3階)で開催となったのも、その流れから」

たしかに同フロアには、ゴシック&ロリータ系のコンセプトを打ち出している店舗が多い。

それにしても、棺をファッションビルの目に付くところに展示してしまうという発想は、どこからくるのだろう。「入棺体験」は、実は葬儀会社主催のセミナーなどでは度々行われるのだが、不特定多数の人が集まる会場で実施されることはほとんどない。しかも、葬儀とは無関係、仏壇・仏具、喪服店などがテナントで入っているわけでもないファッションビルでなぜこのようなイベントの開催に至ったのだろうか。

ラフォーレ原宿ではバービー棺が大人気だったそう。 *筆者撮影
ラフォーレ原宿ではバービー棺が大人気だったそう。 *筆者撮影

ファッション系のデザイナーとして広く活動してきた布施さんが、アパレル業界でのパイプを持っていることも理由だが、

「デザインにこだわりをもった仕事をしているにもかかわからず、人生の最後に選べるデザインの選択肢が少ないことに疑問を持っていました。自分らしい、その人らしいオリジナルの棺をデザインしたいと思い活動を始めましたが、その思いに賛同してくれた人が出店に協力してくれました。友人・知人など、周囲に自殺者が多い環境で育ったせいか生と死に向き合う機会が多く、棺を通して死に対する思いを表出できる場になったらという思いもあります」と語る。

布施さんとの会話の中で、さまざまな思いをぶつけてくる若者も少なくないという。

今回の入棺体験でも、弔辞を聞いて思わず涙してしまう人の姿もあった。

*入棺体験ワークショップの詳細(7/12,7/21開催)はこちら

葬儀のプロが企画した自身の生前葬

会葬礼状は遺言動画など、さまざまな終活コンテンツを詰めた自身の生前葬 *筆者撮影
会葬礼状は遺言動画など、さまざまな終活コンテンツを詰めた自身の生前葬 *筆者撮影

「生前葬は終活そのもの」

と語るのは、増井葬儀社の増井康高さん。50歳の誕生日の記念イベントの一環として、自身で「増井康高の生前葬」を企画し、7月14日に羅漢会館(目黒区)で開催した。

司会進行は死装束を身に着けた増井さん本人。

「さまざまな終活コンテンツやサービスの中で取捨選択をし、自分なりに納得のいく生前葬を企画していたら結果的に終活の集大成となった」

半年ほど前には目黒区の銭湯「みどり湯」を借りて、模擬納棺式が行われている。仏衣に着替えて旅支度をし、整髪・メイクを施し、集まった人の手で棺に納められた時の増井さんの様子が正面のスクリーンに映し出される。その様子を笑顔で見つめている本人がいるのも奇妙な光景だ。

葬儀社だからこそ、自分の思いを凝縮した葬儀を実現  *筆者撮影
葬儀社だからこそ、自分の思いを凝縮した葬儀を実現  *筆者撮影

菩提寺による読経もあり、参列者の焼香もあり、式の流れは葬儀そのもの。あらかじめ受付で渡されたカードには、お別れの言葉ではなく誕生日メッセージを書いて、焼香台に設置された箱の中に入れるという演出もある。

生前葬の最後には、本人による遺影動画が映し出された。その中で増井さんは

「コミュニティの中の誰か1人がいなくなると、その温度や空気感がかわっていく。それを新たにどのように構築するかは残された人達がどう捉えるかにかかってくると思う。葬儀はひとつの区切りとして必要であることを伝えたい」

と生前葬に対する思いを語る。

「次は還暦の生前葬で会いましょう!」と力強く締めくくった。

こういった終活イベントに対しては肯定派がいる一方で、「死を軽んじている」「業者が不安をあおっている」など否定的な意見も少なからずある。正直、ゴスロリ系の棺も生前葬も「ブーム」になるとは思えない。しかしライフスタイルや価値観の多様化により、人生の締めくくりも自分で選択できる社会の実現が求められている潮流は感じている。

便宜とコストを重視する価値観だけではなく、社会価値やストーリーを大切に、自分らしく「生き」「活き」「逝き」たい……、そんな思いを表出する葬送儀礼があっても良いのではと思う2つのイベントだった。

葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士

きっかわみつこ。約25年前より死の周辺や人生のエンディング関連の仕事に携わる。葬祭業者、仏壇墓石業者勤務を経て独立。終活&葬儀ビジネス研究所主宰。駿台トラベル&ホテル専門学校葬祭ビジネス学科運営、上智社会福祉専門学校介護福祉科非常勤講師などを歴任。終活・葬儀・お墓のコンサルティングや講演・セミナー等を行いながら、現役で福祉職としても従事。生と死の制度の隙間、業界の狭間を埋めていきたいと模索中。著書は「葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」「お墓の大問題」「死後離婚」など。生き方、逝き方、活き方をテーマに現場目線を大切にした終活・葬儀情報を発信。メディア出演実績500本以上あり

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