なんちゃってイクメン宮崎議員の「不倫」騒動 それでも男性国会議員の「育休」は必要だ
「週刊文春」のスクープ
男性国会議員初の「育休」宣言で注目を集めた宮崎謙介・自民党衆院議員(35)が妻の金子恵美・自民党衆院議員(37)の出産6日前に、地元・京都の自宅で女性タレントと密会していたと週刊誌「週刊文春」に報じられました。またまた「週刊文春」のスクープです。オトコの下半身に人格やモラルを求めるのは無理なのでしょうか。
「政界は性界」と言われるように、どこの国でも政治に不倫スキャンダルはつきものです。産後の金子議員には気の毒としか言いようがありません。宮崎議員の「育休」で男性の「育児休業」取得が当たり前になることを期待していた日本のイクメンや関係者は本当にがっかりしたと思います。
筆者もその1人なので、宮崎議員の行いにはア然としましたが、それでも男性国会議員の「育休」宣言は正しいと信じています。
ヒラリーのブレインに褒められた安倍首相
先日、米国務省政策企画本部長としてヒラリー・クリントン国務長官(当時)を支えた公共政策の第一人者アン・マリー・スローター女史がロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で講演しました。
その中でスローター女史が安倍晋三首相のウーマノミクスについて「彼は女性の活用がいかに重要かを理解している」とたたえました。筆者は8年半にわたってロンドンで開かれたさまざまな討論会や講演会に顔を出していますが、日本がほめられるのをあまり聞いたことがなかったので、非常に驚きました。
特に日本はジェンダー・ギャップが大きいことで知られています。なのに、米誌に「なぜ女性はすべてを手に入れられないのか」という記事を書いて、世界中から注目されたスローター女史に安倍首相は評価されたのです。下の折れ線グラフをご覧ください。
女性の就業率は日米逆転
経済協力開発機構(OECD)データをもとに日本と米国の女性の就業率を比較したものです。米国では女性の就業率が下がり、日本では上昇しているため、2010年に逆転しています。米国の女性就業率は1950年代から80年代にかけて右肩上がりに上昇しますが、2000年の69.7%をピークにゆっくりと下がっています。
米国ではベビーシッターやチャイルドマインダー、託児所の費用が高くなりすぎて、家庭に入る女性が増えているからだとスローター女史は指摘しました。実はスローター女史はヒラリーの下、昇進してさらに大きな仕事をしようという時期に仕事を辞めて家庭に入る決断をします。
約2年間、ワシントンと夫と10代の息子2人が暮らすニュージャージー州プリンストンを往復(車なら3時間半足らず)したことで、家庭が行き詰ってしまったからです。家庭に戻り、夫や子供と過ごすうちに、ジェンダー・ギャップの問題が実は「仕事」と「家庭」に置き換えられることに気づきます。
「仕事」と「家庭」はどっちも大事
仕事が筋肉のパワーを必要としていた時代、男性が「仕事」を引き受け、女性が「家庭」を守るのが当たり前でした。しかし産業構造が第1次産業から第2次産業、そして第3次産業へと変わり、男性のパワーは不可欠ではなくなりました。
今はインターネットにつながっていれば、スマートフォンで仕事ができる時代です。ひと昔前まで男性=「仕事(お金)」、女性=「家庭(愛)」という役割分担がはっきりしていました。しかし、今は男性と女性の区別よりも、「仕事」と「家庭」のバランスがより重要になってきたのです。
「道路」だけでなく「家庭」にも公共投資を
道路や橋、鉄道、空港に公共投資して経済(仕事)を刺激するのと同様に、託児所やチャイルドマインダーなど「家庭」を助ける公共政策が大切になってきました。これにいち早く気づいた北欧諸国は家庭に投資して出生率を回復させ、少ない労働時間で高い労働生産性を実現しています。
日本は「世界第2の経済大国」という古い看板に縛られ、「仕事」と「家庭」のバランスを見失います。日本経済のエンジンは企業です。だからサービス残業、長時間労働、単身赴任は当たり前。男性の育児休業は制度としては整備されているのに取得率は2.3%。出生率は下がり、労働生産性も低くなっています。
日本の労働者は低賃金で長時間いやいや働いているのです。
国会議員だからこそ
宮崎議員は昨年12月、「男性の育児参加推進のため、世の中に一石を投じたい」と約1カ月間の「育休」取得を宣言します。国会議員の産休については橋本聖子参院議員が出産したことをきっかけに認められるようになり、衆参計9人の女性議員が取得しています。しかし育休については規定がありません。
1月8日のエントリー「自民党・宮崎謙介衆院議員の『育児休暇』はいけないことか」で、宮崎議員の「育休」宣言を支持したところ、厳しい意見をいただきました。
「国会議員は民間に比べて融通がきく。育児の時間はつくることができる」「公務は週2回の本会議と委員会出席。本会議は数十分で終わるものがほとんどで、委員会は代理出席が認められている」「議員会館には保育所もある」
「目立ちたいがための売名行為だ」「日本は通年国会ではない」「臨時国会が開かれなかったので昨年9月から3カ月半、公務がなかった」「国会議員なら、育休を取るより男性の育休取得率○%以下の企業は法人税を上げるなどの提案をしてはどうか」
橋本龍太郎首相の次男、橋本岳・自民党衆院議員は自らのブログで「国会議員の仕事は、義務ではなく権利である」「国会議員の歳費は、『労働の対償として支払われる』ものではないので、賃金ではありません」として、「本会議への出席は義務ではなくて権利なので、本人は欠席届を提出して休めばよい」と指摘しています。
英国では首相やウィリアム王子が率先して「育休」
国会議員なんだから、自分でやりくりしろという意見が圧倒的に多い印象を受けました。英国のマシュー・ハンコック現・内閣府担当閣外相が2年半前に2週間の育休をとると宣言した時も、「下院議員には長い夏休みが認められており、不必要」「議員が育休を取ると民間人より長く休める」という辛辣な批判を受けました。
しかし、英国では首相もウィリアム王子も事実上の「育休」をとっています。ウィリアム王子は、第2子を出産するキャサリン妃をサポートしようと、昨年4月中旬から育児のための休暇を計6週間取得したと報じられました。ブレア首相(当時)も第4子誕生の際に公務を減らし、育児のための休暇を取っています。
社会の悪習を打ち破るためには、世間の注目を集める人や社会的地位の高い人が率先して新しい制度を利用する必要があります。
「育休」をスローター流に「仕事」と「家庭」の問題ととらえるなら、宮崎議員の密会は「仕事」と「家庭」のどっちもダメにする最低の振る舞いでした。しかし、それでも男性の国会議員は率先して「育休」を実践すべきだと筆者は考えます。国権の最高機関である国会で「仕事」と「家庭」が両立されないなら、日本社会は企業優先、経済優先の旧態依然から永遠に抜け出せないでしょう。
皆さんもスローター女史の明快なプレゼンに耳を傾けて、この問題をもう一度考え直してみてください。
(おわり)