自民党・宮崎謙介衆院議員の「育児休暇」はいけないことか
国会会期中に育児休暇を取りたいと話していた宮崎謙介衆院議員(34)=当選2回=が所属する自民党の国会対策委員会幹部から「国会議員全体の評判を落としている」と注意されたそうです。朝日新聞デジタルが報じています。
宮崎議員は2月中旬、妻の金子恵美衆院議員(37)=同=との間に第1子が生まれる予定です。昨年から、自身のブログなどを通じて、誕生後に2カ月程度の育児休暇を取得する考えを表明していました。
宮崎議員(1月7日、自身のブログ)
「女性の社会進出を推進している日本において出生率を上げるためには男性の育児参加が必須です。そして、その第一歩は男性の育児休暇取得なのです。経済協力開発機構(OECD)の調べでは日本の制度は諸外国のそれと比較をしても整っているのですが、取得率は極めて低い2.3%です。それを政府は2020年までに男性の育児休暇取得を13%にするという目標を掲げています。その風土、雰囲気を一新させるために今回、私は一石を投じたかったのです」
これに対して、テレビ朝日の「報道ステーション」で報じられた自民党内の声には非常に驚かされます。
自民党内の声
「40年ずっとプライベートもなしに一生懸命働いてきた我々からしたらとんでもない」
「取得するくらいなら夫婦どちらかが議員を辞めればいい」
「こんなことで名前を売ってもダメだ。生まれたばかりの赤ちゃんなんて誰が面倒みているかわからない。お手伝いさんとか使えばいいんだ」
自民党の谷垣禎一幹事長も昨年12月の記者会見で否定的な見方を示しています。
自民党の谷垣幹事長
「議員の仕事の実態に即した議論を積み重ねる必要があるのではないか」「(国会議員と一般的な雇用者とでは)身分関係が違う。非常に緊迫した局面で1票によって違ってくるときにどう扱うかという問題はある」
朝日デジタルによると、宮崎議員は6日2回にわたり、国対幹部に呼び出され、「週刊誌にまで書かれている。生まれてくる子供を使って名前を売っている」と批判されたそうです。
国会議員の出産休暇については2000年に橋本聖子参院議員が出産したことをきっかけに認められるようになり、これまでに衆参計9人の女性議員が取得しています。しかし育児休暇については規定がありません。宮崎議員が育児を理由に国会を休めば初めてのケースとなるはずでした。
宮崎議員は育児休暇を取れるよう衆議院規則を見直す提言書を衆院議長に手渡す予定でしたが、結局、できませんでした。「1億総活躍」を看板政策に掲げる安倍政権は自民党幹事長や国対幹部と違って、宮崎議員の育児休暇取得を奨励しています。
安倍晋三首相(1月4日、宮崎議員を激励)
「(国会議員として初めて育児休暇を取得することについて)これでいいんだ。賛否あるけど、俺も反対半分、賛成半分でやっているんだし、それでこそ政治家だ」
菅義偉官房長官(昨年12月、宮崎、金子両議員の結婚披露宴)
「(国会議員が)育休を取るための議員立法を超党派でつくったらいい」
塩崎恭久厚生労働相(同)
「国民から負託を受けて、最低限やるべきことをしっかり押さえながら、イクメンをやってもらわないと。前向きに頑張っていただきたい」
英国では首相もウィリアム王子も「育児休暇」をとっている
ウィリアム王子は、第2子を出産するキャサリン妃をサポートしようと、昨年4月中旬から育児のための休暇を計6週間取得したと報じられました。翌5月、無事シャーロット王女が誕生しました。英国では2000年にブレア首相(当時)が第4子誕生の際に公務を減らし、育児のための休暇を取っています。
社会の旧習を打ち破るためには、世間の注目を集める人や社会的地位の高い人が率先して新制度を利用する必要があります。ウィリアム王子もブレア首相も法定の育児休暇を取ったわけではありませんが、大きな啓蒙効果がありました。
英国では昨年4月以降の出産を対象に、新たな「共有育児休暇」制度が導入されました。男性による育児の分担を増やして、出産した女性の早期社会復帰を促そうというのが狙いです。新制度では父親が2週間の育児休暇を取得した後、50週間の出産休暇(3~39週は有給)は母親、父親のどちらが取得しても良いことになりました。
夫婦が協力して出産・育児の負担が少しでも軽くなるようフレキシブルに対応しようというわけです。
日本の法整備が遅れているわけではない
日本はどうでしょう。宮崎議員が指摘しているように法整備の面でそれほど遅れているわけではありません。2014年のOECD調査を見てみると、日本では父親の育児休暇は有給で52週間も認められ、平均で58.4%の給与が支給されます。しかし、取得率が2.3%では話になりません。
仏作って魂入れずとはこのことです。どこの職場にも自民党の幹事長や国対幹部のような時代遅れのオヤジどもがたくさんいて、育児休暇どころか、有給休暇も取らず、土日返上で働かされているのが実態ではないでしょうか。
デジタル化で仕事の効率化が進みました。売り上げが伸びず、賃上げができないのなら、せめて労働時間を短縮すれば良いのではないかと思います。高度成長期と同じ感覚で「働け、働け。それが男だ」とオヤジどもが言い続けるから、日本ではデフレとともに少子高齢化が加速してしまったのではないでしょうか。
パパ・クォーター制
北欧のノルウェーでは1970年代から父親も有給の育児休暇を取得できるようになりましたが、実際に取る人は皆無に近い状態でした。そこで1993年に、父親への割当分である4週間の育児休暇を取らないと権利が消滅してしまう「パパ・クォーター制」を導入したところ、取得率が急上昇しました。
日本だけが特別ではありません。北欧諸国も一昔前までは日本と同じように「育児休暇を取るのは男らしくない」という風潮があったそうです。それでは出生率が下がって自分たちの社会を持続できないことに気づいて、制度を改めたのです。
スウェーデンでも1995年に30日間の「パパ・クォーター制」が導入され、2002年に60日間となり、今年1月から90日間に延長されました。今では育児休暇を取得している父親が交流するフェイスブックのアカウントもあるそうです。
6歳未満の子供を持つ夫の家事関連時間を見ると、日本の1時間7分はスウェーデンの3時間21分の3分の1です。労働生産性ではスウェーデンは逆に日本より30%近く高くなっています。女性の社会参加が進むスウェーデンでは働き方の効率性を追い求め、労働時間をできるだけ短縮しようとしています。
そちらの方が男女とも労働意欲が湧いてくるのではないでしょうか。
(おわり)