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非結核性抗酸菌症に要注意!美容整形を受ける前に知っておくべきこと

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【美容整形後の非結核性抗酸菌症とは】

非結核性抗酸菌症(NTM)とは、結核菌以外の抗酸菌による感染症のことです。近年、美容整形手術を受けた後にNTM感染症を発症するケースが増加傾向にあります。

中国の研究者によると、2012年1月から2023年7月までに報告された美容整形に関連したNTM感染症の症例は115例に上ります。なかでも、乳房手術後の感染が35.65%、タトゥー後の感染が22.61%を占めていました。

原因菌としては、Mycobacterium abscessusやMycobacterium fortuitumなどが多く見られます。これらの菌は、7日以内にコロニーを形成する速い増殖速度を持つのが特徴です。適切な滅菌処理や術後ケアが行われなければ、感染リスクは高まると言えるでしょう。

日本でも、美容整形手術の需要は年々高まっています。2022年の統計では、乳房手術が最も多く行われ、続いて脂肪吸引、二重まぶた手術、腹部形成術、鼻形成術の順となっています。海外と同様、これらの手術後のNTM感染症には十分な注意が必要です。

【感染症の症状と診断】

NTM感染症の症状は、手術部位の発赤、腫れ、硬結、膿瘍形成など多岐にわたります。特にタトゥー後の持続的な発赤や発熱には要注意です。感染が美容整形の仕上がりに悪影響を及ぼす可能性があるためです。

脂肪吸引後の感染症は、通常ブドウ球菌や連鎖球菌が原因となりますが、NTMが関与するケースも報告されています。最小侵襲の美容注射でも、ヒアルロン酸注入後の肉芽腫反応にNTM感染症が疑われる場合があります。

NTM感染症が疑われる際は、感染部位のマッサージは避け、ステロイド注射も控えるべきとされます。確定診断には、病変部の生検や細菌培養検査が必要となります。

【治療と予防のポイント】

NTM感染症の治療には、感受性試験に基づいた抗菌薬の投与が行われます。外科的なドレナージやデブリードマン、感染部位の縫合糸除去なども症例に応じて検討されます。

予防としては、手術室の徹底した滅菌管理、適切な術後ケア、早期の感染兆候の発見が重要です。特に発展途上国や熱帯地域での手術では、多剤耐性菌のリスクも考慮する必要があります。美容機器の共有使用にも注意が必要です。自宅でのマイクロダーマブレーション器具の使用によるM. abscessus感染症の報告もあります。

皮膚科専門医の立場から、美容整形を検討されている方には、施術の安全性だけでなく、術後合併症のリスクについても十分理解していただきたいと思います。もし感染症の兆候があれば、早期に医療機関を受診することをおすすめします。適切な治療により、美容面でのダメージを最小限に抑えることが可能です。

参考文献:

Ren H, Xiao Y, Tang B, et al. The price of beauty: a literature review on non-tuberculous mycobacteria infection after cosmetic procedures. Aesthet Surg. Published online April 9, 2024. doi: 10.1093/asj/sjae076

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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