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希少皮膚疾患「PRP」の謎に迫る!遺伝子解析から見えてきた新たな治療戦略

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【PRPとは?難治性の皮膚疾患の概要】

皆さん、「毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)」という病気をご存知でしょうか?略してPRP(Pityriasis Rubra Pilaris)と呼ばれるこの疾患は、とても珍しい炎症性の皮膚病です。

PRPは、サーモンピンク色の発疹や、手のひらや足の裏が厚くなる症状、毛穴を中心とした小さなできものなどが特徴的です。また、乾癬(かんせん)やアトピー性皮膚炎に似た症状も現れることがあります。

この病気の原因はよくわかっていませんでした。そのため、治療法も確立されておらず、患者さんは長期にわたって苦しむことが多いのです。

【最新の研究成果:IL-1βが鍵を握る】

今回、スイスの研究チームが画期的な発見をしました。PRPの患者さんの皮膚を詳しく調べたところ、「IL-1β(インターロイキン1ベータ)」というタンパク質が重要な役割を果たしていることがわかったのです。

IL-1βは、体の炎症反応に関わる物質で、PRPの患者さんの皮膚では、この物質が過剰に作られていました。また、IL-1βは「CCL20」という別の物質の産生も促進していることが明らかになりました。

研究チームは、この発見を基に、IL-1βの働きを抑える薬(IL-1阻害薬)でPRPを治療できるのではないかと考えました。

【新たな治療法の可能性:IL-1阻害薬の効果】

そこで、研究チームは3人のPRP患者さんにIL-1阻害薬を投与してみました。使用した薬は「アナキンラ」と「カナキヌマブ」という2種類です。

驚くべきことに、治療を始めてわずか2〜3週間で、患者さんの症状が50%も改善したのです。これは、従来の治療法と比べてとても速い反応です。

例えば、乾癬の治療で使われるIL-17阻害薬の場合、症状が75%改善するまでに24〜28週かかります。それに比べると、IL-1阻害薬の効果の速さは際立っています。

さらに、治療前後で皮膚の遺伝子発現を調べたところ、PRPに特徴的な遺伝子の異常が、治療によって正常化していることもわかりました。

この研究結果は、PRPの治療に大きな希望をもたらすものです。IL-1βを標的とした治療は、PRPの根本的な原因に迫る可能性があり、今後の臨床応用が期待されます。

ただし、この研究にはいくつかの限界もあります。対象となった患者さんの数が少なく、長期的な効果や安全性については、さらなる研究が必要です。また、すべてのPRP患者さんにこの治療法が有効かどうかも、今後の課題となるでしょう。

PRPは希少疾患ですが、日本でも患者さんがいらっしゃいます。今回の研究成果は、日本の患者さんにとっても大きな希望となるでしょう。

参考文献:

1. Schmauch E, et al. Targeting IL-1 controls refractory pityriasis rubra pilaris. Sci Adv. 2024;10(27):eado2365. doi: 10.1126/sciadv.ado2365

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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