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桐山清澄九段(71)は通算1000勝を達成できるか? 叡王戦九段予選では久保利明九段(44)に惜敗

松本博文将棋ライター
2005年、桐山清澄九段(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 8月29日。関西将棋会館において、叡王戦九段予選▲久保利明九段(44歳)-△桐山清澄九段(71歳)戦がおこなわれました。

 久保九段の中飛車に対して、桐山九段は三間飛車に振ります。相振り飛車になるかとも思われましたが、久保九段が玉を左側に移動させる方針を取り、居飛車と振り飛車の対抗形のようになりました。

 久保九段は堅い穴熊に囲いました。序盤は桐山九段側が模様がよく、作戦勝ちを収めたようです。

 「さばきのアーティスト」とは、振り飛車の華麗な駒さばきで知られる久保九段の通称です。本局では、桐山九段が中盤でみごとなさばきを見せて、優位に立ちました。

 「桐山先生が、さばきのアーチストみたいになっています。はっきり後手(の桐山九段)がいい」

 解説の森内俊之九段がそう感嘆していました。

 久保九段は、現在A級に所属するトップクラスの棋士。藤井聡太七段には銀河戦、NHK杯と立て続けに勝ち、その実力を見せつけたところでもあります。

 久保九段も地力を発揮して、終盤は難解な形勢となりました。

 そして最終盤。森内九段が何度も感嘆の声をあげる強気の指し回しで、桐山九段に、ついに勝機が訪れます。そこで強気を貫いて攻め合えば、あるいは桐山九段の名局となったかもしえません。

 しかし、一歩退いた手が、惜しくもチャンスを逃したか。そこからの久保九段の反撃が見事で、形勢は逆転しました。

 総手数は177手。現役A級の久保九段が、最後は勝利を収めました。

桐山九段、通算1000勝なるか?

 桐山九段は近年、豊島将之名人・王位(29歳)の師匠としても、大きくクローズアップされるようになりました。愛弟子が名人位に就いた際には、以下のようにコメントしています。

「棋士として私を超えたか? それは聞くまでもないでしょう。私も挑戦し、届かなかった名人のタイトルを弟子が獲った。こんなに嬉しいことはない」

出典:『週刊文春』2019年5月30日号

 弟子を思う、優しい師匠の人柄が伝わってくるような言葉です。

 とはいえ、桐山九段もまた、将棋史に名を残す、名棋士であることに変わりはありません。豊島名人の現在のタイトル通算獲得数は3期。桐山九段は棋聖3期、棋王1期の合計4期です。

 現在71歳の桐山九段は、現役棋士では最高齢。九段の筆頭で、現役棋士の序列では上から10位にあたります。

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 通算勝数は993勝。これは歴代の棋士も含めて10位に入る偉大な記録です。

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 順位戦では、過去にA級に12期在籍した桐山九段。現在はC級2組で、あと1回、降級点を取ってしまうと、引退となります。

 もし今期で引退が決まってしまえば、通算1000勝は難しいのかもしれません。

 しかし、現役A級の久保九段を土俵際まで追い込んだ指し回しは、名棋士健在を思わせるものでした。ぜひとも通算1000勝を達成してもらいたい。それが多くの将棋ファンの望むところでしょう。

2005年、桐山清澄九段
2005年、桐山清澄九段
将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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