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B2首位でも昇格できない!? Bリーグの甘い夢と厳しいハードル

大島和人スポーツライター
Bリーグの浜武恭生専務理事(左)と大河正明チェアマン(右):筆者撮影

B1昇格チームがゼロのケースも

今季のBリーグは、B1(Bリーグ1部)に昇格するクラブがゼロになるかもしれない。

3月12日、クラブライセンス(2019-20シーズン)の一次発表が行われた。B2(Bリーグ2部)中地区首位の信州ブレイブウォリアーズにはB1でなくB2のライセンスが交付されている。またB2東地区首位の群馬クレインサンダーズは、B2ライセンスさえ継続審議の状況だ。

B2からB1への昇格は最大で3枠。過去2シーズンは入れ替え戦でB2の3位クラブが敗れたものの、上位2チームが昇格している。しかし今季は4月末から開催されるプレーオフで信州と群馬が揃って3位以内に入ると、枠が「0」か「1」になる。

今季は信州が我々の予想をくつがえす快進撃を見せていた。2018年6月期の決算を見るとクラブの年間売上は約2億700万円。B2の中でも小規模な部類だし、B1なら最小でも規模がその2倍はある。

ただしコート上では絶好調で、39勝10敗とB2最高勝率を記録している。ホームゲームの観客数は1試合平均1677名で、こちらも現時点でB1の昇格要件を満たしている。(※勝敗、観客数は3月17日現在)

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ことぶきアリーナ千曲 写真=B.LEAGUE

信州のB1昇格運動は実らず

信州はB1昇格に向けてブースターやメディア、行政も巻き込んだ強い「風」を起こしていた。B1ライセンスの取得には5千人以上を収容するホームアリーナが必要となる。信州が使用している「ことぶきアリーナ千曲」はその規模を満たさない。

一方で千曲市に隣接する長野市は1998年の冬季五輪開催地という土地柄もあり、5千人以上の大箱を2つ持っていた。クラブは長野市の協力を得て来季から「ホワイトリング(長野市真島総合スポーツアリーナ)」にホームを移すことが決まっている。

にもかかわらず12日の2019-20シーズンのクラブライセンス一次発表で、信州は「B2ライセンス」と発表された。

大河正明チェアマンの説明は明快だった。

「2018年6月の決算の時点で、ライセンスを申請するクラブは債務超過であってはならないとなっています。B2のライセンスは2020年6月の決算まで、2年間の猶予措置を設けています。2018年6月の時点で債務超過クラブは7つありますが、成績要件がどのような状態だとしても、B1ライセンスの交付対象では最初からありません」

ハードルは債務超過と3期連続赤字

Bリーグはライセンスの交付に当たって競技、施設、人事・組織体制、法務、財務の5項目で判定を行っている。クラブがクリアに苦労するハードルが「施設」「財務」だ。

財務基準関連で大きな問題となるのが「債務超過」「3期連続赤字」というNG項目だ。今季(2018-19シーズン)が開幕する時点で、債務超過のクラブはB1ライセンスが交付されていない。しかしB2に関しては2021-22シーズンのライセンス判定(2020年4月)まで債務超過解消の猶予が与えられていた。

ただし3期連続赤字が見込まれるクラブは、来季(2019-20シーズン)のライセンスが交付されない。6クラブが既に2期連続赤字で「リーチ」をかけていた。

大河チェアマンはこう言明している。

「微妙で分からないケースは一旦ライセンスを交付せざるを得ないと思っているけれど、決算を締める8月9月の時点で、3期連続赤字と分かったらライセンス取り消しも含めて厳格に対応せざるを得ない。取り消されるとその次の期も含めてB2ライセンスを取れません。クラブからすると、相当なリスクを抱えてライセンスを交付されることになる」

Bリーグが債務超過を認めない理由

Bリーグが発足して3シーズン目を迎え、B1勢は自立しつつある。そんな中でリーグ側はB2のテコ入れに動いている。

B2は経営に未熟さを残すクラブがなお残り、6月期の決算を前に「大株主、大スポンサーが不足分を埋める」ケースも出るだろう。クラブをB3に落とせば、収支はさらに悪化する。4月9日のライセンス二次判定までぎりぎりの努力、調整が続くはずだ。

そもそもライセンス制度の導入には「リーグがクラブの経営状態をモニターし、手遅れとなる前に手当てできるようにする」という大目的がある。まず「債務超過や赤字が判明している」こと自体に意味があった。

信州は2期連続赤字ではないものの、2018年6月の時点で債務超過だった。債務超過は会計上の定義で、その状態でも資金繰りがつけば企業は存続できる。

しかしそのような自転車操業が当たり前になってしまえば、クラブの消滅やリーグ脱退を招きかねない。スポーツファンにとって「試合が無くなる」「応援しているチームが消える」以上の悲劇はない。

リーグが債務超過を認めないもう一つの理由として「ファイナンシャルフェアプレー」の問題がある。大河チェアマンは穏やかな口調ながら、信州の経営に対する率直な苦言を口にしていた。

「そもそも論で言うと債務超過は、選手の人件費に使いすぎということです。身の丈以上に人件費を使って、他のチームよりも相対的に強くなっている。債務超過でいいなら、もっと選手に投資して強くして、あとから『ルールを曲げてB1に上げてよ』と言えてしまう。競技上のフェアプレーは一番だけど、ファイナンシャルフェアプレーも守りましょうというのがクラブライセンスの趣旨。それは理解してくださいということです」

信州が甘く見たライセンスの規定

信州は1年遅れだが、2019年6月期決算で、債務超過を解消するメドをつけていた。ただしそこに「認識のずれ」が生じていた。2019-20シーズンのB1ライセンス交付に必要なのは「2018年6月期」の資産超過だが、時期の重要性をクラブは軽く見ていた節がある。片貝雅彦社長はリーグ側とのやり取りで、厳しい運用を認識したはずだが、軌道修正をしなかった。

筆者は「3期連続赤字」の解釈について以前、金沢武士団を念頭に「B3時代の赤字も含めて考えるのか?」と大河チェアマンに質問したことがある。

一方で「B1ライセンス取得のために、債務超過をいつまでに解消することが必要か」というポイントは、私も含めてメディアが詰めていなかった。恥ずかしい話ではあるが、信州がB1昇格を目標と公言する以上、ライセンス取得のメドは立っているのだろうと思い込んでいた。

信州は水面下で「特例」によるライセンス取得を目指していた。無理な要求をしていたともいえるが、そのような努力自体は否定するべきでない。クラブは債務超過解消のメドを立て、長野市との関係構築にも成功。5千人収容の大型アリーナを確保するところまで準備を整えていて、そこも評価していい。

自分がスポーツ業界の関係者と接した経験則として、「ノーと言われても諦めない」「成功を信じて疑わない」メンタリティは強みにもなる。片貝社長は地縁の無い長野に乗り込み、30代前半でクラブの立ち上げを成功させた。

夢を巧みに語るタイプの人材は、得てしてマイナス面の言及が得意でない。人間は完全でないのだから「目の前の課題に全力を注ぐあまり、全体が見えなくなる」という罠にハマることはある。

Bリーグに必要な透明性と安定性

Bリーグ発足前のbjリーグ、NBLを振り返ると「まず結果を出す」「先行投資でインパクトを残す」という経営戦略を採ったクラブが多い。一度いい目を見れば離れられなくなるファン心理もあるだろう。当然そのような方法論にはリスクがあり、過大な投資で経営を傾けた例もあった。

ただプロバスケが確立しておらずベンチャー的な業界だったことを考えると、それくらいの思い切りが必要だったのかもしれない。

一方でBリーグが目指すものはプロ野球、Jリーグに次ぐ第3のプロスポーツ。パブリックな存在として地域のステイクホルダーを広範に取り込もうとしている。オーナー企業に過度な依存をせず、行政や地域住民と中長期的な信頼関係を築いていく「農耕民族型」のアプローチを採っている。

経営が不透明ならばファンはともかく、説明責任が問われる自治体や企業はコミットできない。リーグがフォローするにしても、経営不振のクラブが多ければ面倒を見切れない。そこで安定性が求められることになる。

確かにスポーツビジネスは運、他力といった風に頼る部分が小さくない。しかしBリーグという船が沈まず進み続けるためには、自前の動力と舵が必要になる。

大河チェアマンはライセンス制度の意義を「クラブを取り締まる、B1に来ないよう排除することでなく、安定した成長への寄与がポイント」と説明していた。

ライセンスに裁量、特例はあっていい

Bリーグが無慈悲に、杓子定規に規定を運用しているという批判は正しくない。例えばアリーナの収容人員に関しても、仮設席はもちろん立ち見や見込みを含めて「5000人」と数えている現状があり、それを甘いと考えるファンもいるはずだ。

「最大多数の最大幸福」が高確率で達成されるなら、裁量はあっていい。例えば信州に10億円規模の新規投資が見込まれるのならば、むしろB1ライセンスを付与するべきだ。中身の濃い経営改善策を示し、その上で早くから説得に動けていれば、特例の可能性は高まった。各クラブと向き合うリーグの担当者に話を聞いても、クラブの粗探しでなく「何とか良い知恵はないか」という発想で動いている。

もっとも信州はライセンス事務局や諮問会、リーグの理事たちにそれを認めさせるほどのアクションを取れなかった。特例は「焼け石に水」のアクションで認められるほど軽い話でもない。

信州の重大な失態はキャンペーンが軟着陸できるタイミングを逃し、メディアや市民を結果的に騙してしまったことだ。信濃毎日新聞を筆頭とする地元メディアにそっぽを向かれたら、クラブは存続さえ難しくなる。思い切ったシュートを狙うのはいいが「リバウンド」を考えていなかった。

中長期的な発展に必要なソロバン勘定

エンターテイメントの世界ではときに強引な盛り上げが奏功し、虚実の怪しい「ハッタリ」さえスパイスになる。しかし会社の意思決定や、資金的な裏付けが無ければ、盛り上がりは長続きしない。経営者と情報を共有しつつ、違う視点で意思決定に関わる幹部がいないとガバナンスは機能しない。どこかでシュートは落ちるのだから、リバウンドや守備も念頭に置く必要がある。

ライセンス制度はエンターテイメントとしての夢を、短期的には損なっているのかもしれない。それでもファンが夢をより長く見続けるために、一定のハードルは必要だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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