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万引きされたiPhoneを文鎮化するアップルの特許

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
米国特許10223553号公報

#特許の内容なので有料記事にしようと思いましたが、あまりたいした特許ではなかったので通常記事として公開することにしました。

iPhone(というよりもハイエンドスマホ全般)が高額化する中で(特に米国における)盗難のリスクが増しています。これに対抗できるアイデアをアップルが特許化していました。2019年3月5日に登録された米国特許10223553号です。発明の名称は、"Wireless device security system"(無線デバイスのセキュリティ・システム)です。

この特許の話、元々はPatently Appleの記事で知ったのですが、なぜか当該記事に載っている番号は上記特許の分割出願の公開番号(未登録)になっています。本記事で上に書いた番号が正しいです。

この発明のアイデアはシンプルで、電子デバイスの位置を測定し、セキュリティ・エリア(典型的はApple Store店内)から持ち出されそうになると警告メッセージを出して、それでも、セキュリティ・エリア外に持ち出された場合にはユーザーの入力を禁止し、利用不可能にするというものです。いわゆる文鎮化(英語で言うと"brick"(煉瓦化))です。

クレーム1は以下のようになっています。

1. A device, comprising:

at least one processor configured to:

determine a location of the device with respect to a security area;

provide an alert output when the determined location of the device is proximate to a boundary of the security area, wherein the alert output comprises at least one of a first notification message displayed on the device, a first audio alert output by the device, or a first vibration of the device;

prevent the device from responding to at least some user input when the determined location of the device is outside of the security area;

provide a disturbance output when the determined location of the device is outside of the security area; and

power off a display of the device after providing the disturbance output.

大雑把に訳すと、

1. デバイスのセキュリティ・エリアとの位置関係を取得する。

2. デバイスの位置が、セキュリティ・エリアの境界と近い場合には警告メッセージ(表示、音声、または、振動)を発する。

3.デバイスの位置が、前記セキュリティ・エリア外になった場合にはユーザー入力を受け付けなくする。

4.デバイスの位置が、前記セキュリティ・エリア外になった場合には盗難品である旨の警告メッセージを表示する。

5.上記メッセージ表示後にデバイスの電源を切る。

ということになります。

結構限定が多い(すなわち、範囲が狭い)特許です。クレームに記載されたすべての要素を実施しないと特許権侵害にはなりませんので、一つでも実施しなければ侵害を回避できます。たとえば、警告メッセージは出すが電源断は行なわないという実装であれば、この特許権を侵害することはありません。

出願時点のクレームは「エリア外に出そうになったら警告を発し、エリア外に出たら入力を禁止する」というものだったのですが、さすがにNFCやWiFiを使った盗難防止・警告システムなどの類似アイデアは昔からありますので、新規性・進歩性欠如による拒絶を回避するために苦肉の策でいろいろ限定を加えて、とりあえず特許化しましたという感じです。

なお、実際のシステムを特許のとおりに実装しなければならないということはありませんので、Apple Storeでこのようなアイデアの簡易版が使用される(あるいは既に使用されている)可能性はあります。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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