大臣辞任級の大嘘、ついに明らかに―女性死亡の入管報告書に重大な虚偽
体重が20キロも激減、吐血と嘔吐を繰り返し、食事を取ることすらできない―名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(享年33歳)が、著しい体調の悪化にもかかわらず適切な治療も受けられないまま今年3月6日に死亡した事件*の中間報告書の核心部分に重大な虚偽があることが判明した。
○入院や点滴で虚偽の記述
今国会で入管法「改正」案が審議される中、この事件について、上川陽子法務大臣は出入国在留管理庁(入管)に調査を指示。今年4月9日に中間報告が公表された。この中間報告では、今年2月4日に行われた入管内非常勤の医師によるウィシュマさんの診察について、「点滴は必要ないと判断」「点滴の指示はしなかった」とある。また、翌2月5日に外部の総合病院でウィシュマさんが診察を受けた際について「A(筆者注:ウィシュマさんのこと)から乙病院の消化器内科医師に対し、点滴や入院の求めはなく、同医師から点滴や入院の指示がなされたこともなかった」と書かれている。
ところが、筆者が某筋から入手した入管内非常勤医師からの外部病院への診療情報提供書(今年2月5日付)には、
「(ランソプラゾール=胃酸を抑える薬を)内服できないのであれば、点滴、入院。(入院は状況的に無理でしょう)」
と書かれているのだ。つまり、入管の中間報告は非常勤医師の診察を捻じ曲げているのだ。また、同報告書に書かれているように、外部病院の医師が入院の指示をしなかったのだとしても、それは診療情報提供書に「入院は状況的に無理」と書かれていたからだろう。後述するように、名古屋入管はウィシュマさんが長時間、外部の病院にとどまることを阻んだからである。
なお、ウィシュマさんへの面会を行っていた支援団体「START」によれば、2月5日の外部病院での診察の際、担当した医師はウィシュマさんに点滴を行うことを提案したが、同行した入管の職員が「時間がかかる」と拒否したのだという(関連情報)。
また中間報告を見ると、嘔吐を繰り返すウィシュマさんへの対応として、胃酸を抑える薬「ランソプラゾール」を服用させていたとあるが、同報告の記録では2月9日と、同15日から24日まで、ウィシュマさんはランソプラゾールを服用できていない(中間報告には「服用拒否」と書かれているが、STARTによれば吐き気で薬を飲むことができなかったのだという)。いずれにせよ、ランソプラゾールを服用できていなかったのだから、入管内非常勤医師が診療情報提供書に書いた通り、ウィシュマさんを入院させるか、或いは、せめて点滴だけでも行うべきだったのではないか。
ウィシュマさん死亡事件の真相を明らかにすることは、現在行われている国会での入管法「改正」案の審議においても、極めて重要だ。入管法「改正」案は、難民認定申請者でも送還できるようにする、送還を拒否する場合には刑事罰を科す等、これまでにない権限を入管に与えるものだ。だからこそ、入管の運用がどのようなものとなるか、入管が人権に配慮するか否かが、文字通り、難民その他帰国できない事情を抱える外国人の人々の命運を左右することとなる。だが、ウィシュマさんへの入管側の対応の非人道ぶり、さらには、その調査(=中間報告)においても情報の隠蔽や虚偽が深刻だ。もはや、入管に自浄能力はないとみなすべきだろう。
○入管の言いなり、問われる上川法相の資質
診療情報提供書を入手するに先立ち、筆者は法務省へ、
1)ウィシュマさん死亡前後の監視カメラ映像を野党側に見せるべきでは?
2)ウィシュマさん死亡事件の最終報告はいつ公表されるのか?
と問い合わせた。これに対する法務省の回答は
というものだった。
むざむざとウィシュマさんを死なせておきながら、「故人の名誉・尊厳」などを口実にするなど、不謹慎にも程があるだろう。過去、入管内の映像は訴訟でも証拠として開示されているので「保安上の理由」も白々しい。本稿で指摘した通り、入管の調査が信頼できないからこそ、野党側に対しても、十分な情報開示を行うべきである。そして、入管の人権軽視・隠蔽体質こそがウィシュマさんの命を奪った疑いが極めて濃厚な中で、最終報告を待たずに入管法「改正」案を採決しようなど、不誠実も甚だしい。
ウィシュマさん死亡事件について、上川陽子法務大臣は「正確な事実関係を速やかに調査するよう指示した」と言ったが(今年3月9日会見)、その調査の酷さは既に述べた通りで、その上、上川法相は野党のビデオ閲覧を拒絶し、最終報告の前に法案を通そうとしている。入管の言いなりになり、人命が失われた事件での虚偽報告に加担するならば、法務大臣として著しく不適格であろう。
(了)
*ウィシュマさん死亡事件とは:
スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんは「日本の子ども達に英語を教えたい」という夢と共に、2017年に留学生として来日。だが、その後、学費を払えなくなり、通っていた日本語学校の学籍を失ったことで在留資格も失い、昨年8月、名古屋入管の収容施設に収容された。収容当時、コロナ禍で母国への定期便はなく、さらに、当時交際していた男性から帰国したら殺すとも脅迫を受けていた。そのためウィシュマさんは帰国できず収容は続いたが、今年1月以降、健康状態が著しく悪化。体重が20キロも激減、吐血と嘔吐を繰り返し、まともに食事を取ることすらできないウィシュマさんに、入管は点滴すらさせないなど、適切な治療行為を行わなかった。彼女との面会を行っていた支援団体は、ウィシュマさんを入院させるため、仮放免(就労しない等の一定条件の下、収容施設から解放されること)を入管側に求めていたが許可されず、今年3月6日にウィシュマさんは亡くなってしまった。
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