富岡八幡宮刺殺事件から考えるきょうだいトラブルの心理学
■富岡八幡宮刺殺事件
報道によると、宮司である姉を弟が日本刀を使って刺殺したと見られています。弟は、交際相手の女生徒共に姉を襲撃したとされていますが、犯行後に無理心中を図ったと思われ、女性と共に被疑者男性も死亡しています。
姉と弟は、富岡八幡宮の宮司職を巡る争いがあったようです。弟は「積年の恨み。地獄へ送る」とする文書を姉に送り、脅迫の疑いで以前逮捕もされています。
<宮司職をめぐり弟と確執 「生き地獄に落ちた人達」殺された女性宮司がブログに綴っていた差別とトラブル〈dot.〉12/8(金) AERA Y!>
■きょうだいトラブル
兄弟姉妹は、しばしば争います。
旧約聖書に登場するアダムとイブの二人の息子、つまり人類最初の兄弟間で、殺人事件が発生しています。この物語をもとに作られた小説、映画が、「エデンの東」です。
古代から、現代に至るまで。高貴な家庭、有名人家庭、貧困家庭、世界のどの家庭でも、きょうだいトラブルは頻発します。殺人はまれでも、大人になってから縁が切れるきょうだいはたくさんいます。親の介護や相続争いで、血肉の争いになることも、めずらしくありません。
きょうだいは、生まれて最初のライバルです。きょうだいは、親のひざの奪い合いで争い、相続問題で争います。純粋にお金や名誉の問題もあるでしょうが、多くはその背景に「愛」の問題があります。
きょうだいの争いは、実は愛の奪い合いの争いなのです。だから、あれほど激しくきょうだいは争うのです。
以前から不満がたまっているようなきょうだいが、それでも何とかトラブルを防いできても、介護や相続問題などの大きな問題が起こると、関係が破綻することもあります。
とても善良な人、有能でお金もある人たちでも、長年のきょうだいトラブルで悩んでいる人がたくさんいます。
■「積年の恨み。地獄へ送る」
今回も、親から受け継ぐはずの宮司職に関するトラブルがあったと報道されています。多くの犯罪者は、自分が得になることをしようとしますが、相手を殺して自分も死のうとする犯罪者は、怒りや絶望に心を押しつぶされてしまった人です。自分も不幸になっても良いから、それでも相手を不幸にしたいとする自暴自棄の状態です。
あるいは、そのような行為を通して、自分の気持ちをみんなにわかってもらいたいと考える人もいます。
「恨み」は、弱者の感情と言われています。何か被害を受けて、すぐに効果的な反撃ができる人は、恨みの感情を持ちません。仕返しができずにもんもんとしている人が、恨み感情を増幅させるのです。
「積年の恨み。地獄へ送る」という文書を送りつけて逮捕されているわけですが、本当は刑罰だけではなく、支援ができていたらと思います。ストーカー行為などもそうですが、刑罰だけではなかなか解決はしません。
愛の暴走による犯行、責任の恨みからの犯行、自分の人生を捨てた上での犯行などは、死刑ですら抑止力になりにくいでしょう。
だれかが、その人の話を聞き、その人が納得する必要、カウンセリング的アプローチも必要になってくると思います。
■きょうだいトラブルを防ぐために
アダムとイブの息子たち、カインとアベル。カインは、アベルに嫉妬し、アベルを殺害し、エデンの園の東に追放されます。きょうだいで能力の差がでることもあるでしょう。注目度合いがちがったり、収入がちがうこともあるでしょう。性格や特徴は、もちろんちがいます。
それでもどちらかに心の余裕があれば、問題を大きくしないで済むかもしれません。今回、宮司であった被害者女性は、女性差別に苦しみ、富岡八幡宮は神社本庁から離脱していたとも報道されています。被疑者男性も、人生全般、生活全般で、上手くいかない部分も多かったとも報道されています(AERA 12/8)。
人間間のトラブルは、二人共に心の余裕を失ったときに大きくなります。また、当事者だけで解決できないときには、他の家族や第三者の関わりが大切です。
夫婦仲が良いとか、良い祖父母がいるなどの環境で子どものころから適切に育ち、頼りになる叔父叔母がいたり、必要に応じて福祉サービスでも弁護士でも使えることができていれば、問題を悪化させないこともできるでしょう。
ただ、親や親戚の高齢化や死亡で力を失い、問題が複雑すぎて第三者も介入できないとなると、問題はこじれます。きょうだいは何もしないでも仲良しのはずだと思うのではなく、トラブルが生じるものなのだから、子どものころからの、そして日ごろの関係作りが大切だと考えたいと思います。
「きょうだいは、争いあいます。でも、親の愛と配慮で、不幸は幸福ににも変るのです」(きょうだいトラブルの防ぎ方:将来の問題を予防するための子育て方法:Yahoo!ニュース個人有料)。