過去のアメリカ海軍の認識「高度180m距離500m程度の接近飛行をされても全く脅威ではない」
12月20日に発生した韓国駆逐艦レーダー照射事件で、韓国側は火器管制レーダー照射の事実を認めなかった上で「海上自衛隊P-1哨戒機が高度150m距離500mの挑発的な接近飛行を行っていた」と逆に非難しています。日本側は「国際法や国内関連法令で規定されている高度および距離以上で飛行」としています。
そこで他国の過去の事例からこの条件に近いケースを参考にしてみましょう。2015年5月31日に黒海でアメリカ海軍のイージス艦「ロス」がロシア軍のSu-24攻撃機に高度180m距離500mで接近飛行されたケースです。
距離500mの接近でも通常飛行なら抗議せず
この2015年5月31日の黒海でのケースではアメリカ政府はロシア軍の行動を問題とせず、ロシアのメディアに対して抗議しました。「我がロシア軍のSu-24攻撃機がアメリカのイージス艦に肉薄しクリミアに向かう進路を変えさせた」と報道したことに対して事実ではないと否定する目的です。その説明の中で高度180m距離500mまで接近して飛行したことは敵対的なものではないとしています。つまりアメリカはこの程度の飛行なら「付近を通過しただけ」と全く問題にしない態度を取ったのです。なおこの反応に怒ったロシアは接近飛行をエスカレートさせていき、翌年にはSu-24攻撃機がイージス艦にわずか9mまで異常接近を行っています。
距離900mの接近でも襲撃飛行なら抗議する
ただしアメリカはこの他の事例では、2014年4月12日黒海でのイージス艦「ドナルド・クック」に対するSu-24攻撃機の接近飛行について、距離900m(1000ヤード)の接近であっても攻撃機が模擬的な襲撃飛行パターンを12回も繰り返した敵対的な行為として抗議しています。レーダーに見付かりにくいよう海面すれすれを低空飛行して接近してから急上昇する飛行パターンです。敵対的な行為として判断される材料は高度と距離だけでなく、武装の有無や飛行の意図も含まれることが分かります。友軍との訓練ではない意思疎通が出来ていない相手からの模擬襲撃飛行が危険なのは、本当の襲撃飛行と見分けにくいからです。本当の襲撃だと勘違いして迎撃ミサイルを発射してしまう誤射を誘発しかねません。
P-1哨戒機は襲撃飛行ではなく観測飛行
では12月20日に発生した韓国駆逐艦レーダー照射事件での海上自衛隊P-1哨戒機の飛行の意図はどう見做されるでしょうか。まず観測目的で飛んで来たことは明白で、実際に観測行動しか取っていません。けっして模擬襲撃飛行は行っていないことは日本側が公開した動画を見れば分かります。
そもそもP-1哨戒機は武装することも可能ですがエンジン4発の大型機であり、小型の戦闘機と比べると速度と運動性は低い機体です。駆逐艦クラスの水上艦相手に距離500m~5000mまで接近してから交戦した場合はとても生き残ることが出来ません。P-1哨戒機で対艦攻撃する場合は相手の艦対空ミサイルの射程外から撃てる長射程の対艦ミサイルで攻撃するスタンド・オフ攻撃と呼ばれる戦い方を通常は選びます。鈍重な大型機にとって有力な対空兵器を持つ相手に接近した状態での襲撃飛行は自殺行為であり、やろうと考えもしないでしょう。
韓国駆逐艦レーダー照射事件でP-1哨戒機が韓国駆逐艦に対して高度150m距離500mで飛んだのは観測飛行が目的であり、ほぼ近い高度180m距離500mでまで接近し模擬襲撃飛行ではなかった2015年の黒海でのロシア攻撃機とイージス艦のケースで問題にしなかったアメリカ海軍なら、やはり問題にすることはないと思われます。