「エンドゲーム」ヒットの余波は続くか?これから来るハリウッドの夏映画
スーパーヒーローたちが、世界制覇を続けている。公開から10日ほどしか経たない「アベンジャーズ/エンドゲーム」は、すでに全世界で22億3,800 万ドルを売り上げ、「タイタニック」を抜いて世界興収史上2位に躍り出た。北米興収は6億3,200万ドルで、今のところ史上7位。史上1位の「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(北米興収9億3,600万ドル)にはまだ遠いが、同じく6億ドル台の4、5、6位(『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『タイタニック』『ジュラシック・ワールド』)は、まもなく追い越せそうである。
本格的に夏に入る前の4月末から5月頭の段階でこんな化け物映画が出てきたのは、ハリウッドにとって非常に良いニュースだ。ひと昔前なら、アメリカ人は毎週末のように映画館に足を向けたものだが、入場券の値段が上がり、ケーブルチャンネルやNetflixが質の高い作品をこれでもかというほど送り出す今、わざわざ外で何かを見る理由は減る一方である。そんな中で、「〜エンドゲーム」は、人を「これは今、絶対に見ておかないと」という気持ちにさせ、シネマスコア社の調べで「A+」を出すほど観客を満足させてみせたのだ。それがますます口コミ効果になっているわけだが、その余波はこの後のほかの映画にも及ぶことが期待できる。まめに映画館に行く習慣がなかった人が、「映画って楽しいね」「お金を払う価値がある」とその魅力を発見し、「じゃあ、次は、さっき予告編で見たあの映画に行こうか」と思ってくれるかもしれないからだ。
もちろん、その人たちが次に見る映画がつまらなかったら、効果もそこまでである。せっかくこのすばらしい勢いを得たのだから、このまま夏の終わりまで優れた映画が続き、その調子を貫いてほしいところだ。では、その可能性はいかなるものか。
「〜エンドゲーム」の影響を最も直接に受けてヒットしそうなのは、「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」(北米公開は7月2日、日本公開はひと足早い6月28日)だろう。アベンジャーズの中でも一番若いピーター・パーカーが、「〜エンドゲーム」で起こったことをどう乗り越えたのか、見届けたい人は多いに違いない。しかし、「〜エンドゲーム」のおかげですっかりスーパーヒーロー映画熱にうかされている人のためには、その前に「X-MEN: ダーク・フェニックス」がある(北米公開6月7日、日本公開6月21日)。ディズニーによるフォックスの買収で、今後マーベルの映画に合流していく方向でもあるし、フォックスが作る最後となる今作がどんなものかという意味でも、見ておきたい作品だ。ほかには、「〜エンドゲーム」のクリス・ヘムズワースとテッサ・トンプソンが再共演する「メン・イン・ブラック/インターナショナル」(6月14日、日米同時公開)が、恩恵を受けそうである。
まったく関係のないところでは、「ワイルド・スピード スーパーコンボ」(8月2日、日米同時公開)にも期待が集まる。このシリーズはすでに8作あり、9、10作目も製作されることが決まっているが、これはドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムのキャラクターを主人公にしたスピンオフで、これまでシリーズを見ていない人にも入って行きやすいものになっていると思われる。「今さら『ワイルド・スピード』には入っていけない」と言っている友達を連れて行くのに、これは最適かもしれない。
家族向け映画では、ディズニーが強力なラインナップを取り揃えている。近年、次々に古典アニメーションを実写化しているディズニーは、最近も「ダンボ」を公開したばかりだが、この夏もまた「アラジン」(北米公開5月24日、日本公開6月7日)と「ライオン・キング」(北米公開7月19日、日本公開8月9日)で成功を狙っている。さらに、ディズニーは、ピクサーの「トイ・ストーリー4」(北米公開6月21日、日本公開7月12日)という強力なカードも持つ。一方、ライバルのユニバーサルは、「ペット2」(北米公開7月7日、日本公開7月26日)で勝負に挑む。
「ボヘラプ」ファンの心をつかみそうな映画も
スーパーヒーローも、アクションも、アニメも、どうでもいい、という人たちにも、この夏は、楽しみにすべき作品がいくつかある。まずはエルトン・ジョンの伝記映画「ロケットマン」(北米公開5月31日、日本公開8月23日)。監督は、ブライアン・シンガーが撮影中に「ボヘミアン・ラプソディ」をクビになった後、引き継いで映画を完成させてみせたデクスター・フレッチャーだ。今作では「ボヘミアン〜」と違い、主演俳優タロン・エガートンが実際に歌っているというのも、期待ポイントである。音楽関係では、ほかに、ビートルズの曲を盛り込んだ「Yesterday(原題)」(北米公開6月23日、日本公開10月)もある。出演は「マンマ・ミーア! ヒア・ウィ・ゴー」で歌唱力を発揮したリリー・ジェームズや、シンガー・ソングライターのエド・シーランなど。監督はダニー・ボイル。
そして、タランティーノだ。10本で映画作りをやめると語っているクエンティン・タランティーノにとって、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(北米公開7月26日、日本公開8月30日)は、9本目にあたる。1969年を舞台にした、実在の人物が登場するストーリーではあるものの、伝記映画ではないという。出演はブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオ、マーゴット・ロビー、アル・パチーノ、ダコタ・ファニングなど、超豪華。典型的な夏映画のイメージではないが、この時期に公開されるのは、ロビーが演じるシャロン・テートの没後50年にあたるからだ。また、今作には、今年3月に急死したルーク・ペリーも出演しているし、昨年亡くなったバート・レイノルズも出演する予定だった。レイノルズが演じるはずだった役は、ブルース・ダーンが引き継いでいる。そんなさまざまなバックストーリーも、映画ファンの心を惹きつけるに十分だろう。
そんなふうに、これからの数ヶ月、映画館に行く理由は、まだまだたっぷりある。「〜エンドゲーム」のように最初の週末に12億ドルを売り上げるということにはそうそうお目にかかれないにしても、このほとんどがそれぞれにヒットをすれば、また別のマジックは起こりえるはずだ。みんなで力を合わせることの大切さは、そもそもアベンジャーズが教えてくれた大切なこと。ハリウッドには、ぜひ率先してその夢を達成していただきたい。