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英国での日韓首脳会談は不発? 対話に「積極的な米韓」に「消極的な日朝」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
岸田文雄首相と文在寅大統領(岸田首相のHPと青瓦台のHPから筆者キャプチャー)

 「韓国政府は英国のグラスゴーでの日韓首脳会談を期待していたが、空振りに終わった」と韓国の一部メディアが報じていた。

 確かに韓国政府内には国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に合わせ首脳会談を期待する向きもあった。メディアも盛んに観測記事を流していた。しかし、何もなかったし、また起きなかった。

 韓国青瓦台(大統領府)の朴洙賢(パク・スヒョン)国民疎通首席秘書官は昨日(3日)出演したテレビ番組で、メディアが「韓日首脳会談が不発」と報じたことに「最初から予定していなかったわけだから不発との表現は正しくない」と不満を露わにしていたが、韓国側が事前に打診をしていた可能性は否定できない。働きかけたが、日本が乗らなかったのが実情ではないだろうか。朴秘書官が「今回、会談が実現すれば良かったが」と心境を吐露したことがそのことを示唆している。

(参考資料:日韓首脳電話会談の「ギャップ」と「温度差」 関係改善「熱望の韓国」に「冷淡な日本」)

 文在寅(ムン・ジェイン)政権は安倍元政権に対しても、菅前政権に対しても元慰安婦・元徴用工問題など懸案の外交解決、特に首脳会談での解決を呼び掛けてきた。最近では「対話の扉を常に開けている」、「会談が開かれれば、打開策が見出せる」と言い続けている。

 しかし、日本の原則、方針は一貫しており、韓国が先に解決策を示さない限り、即ち日本に賠償を命じた大法院(最高裁)の判決を「国際法違反」とみなして是正措置を講じない限り、外交交渉にも首脳会談にも応じられないというものだ。

 日本が前提条件としている「解決策」については韓国もそれなりに示していたようだ。

 韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官(外相)は先月21日、国会での答弁で初めて▲2015年の慰安婦合意により日本が和解・癒し財団に拠出した10億円に該当する金額を韓国政府の予算で日本に返還する案▲男女平等基金の名目で100億ウォンを集め、和解・癒し財団の残額56億ウォンと合わせて慰安婦被害者らのために使用する案▲日本が真の謝罪をした場合、韓国政府が被害者らに補償する案の3点を提示していたことを明らかにしていた。

 それでも日本が首を縦に振らず、依然として首脳会談に応じないのはどれもこれも日本が納得できる解決策ではないことに尽きる。「これならばよし」と納得するまで日本はひたすら待つ構えだ。現状では、韓国が次なる手、次善策を講じない限り、文大統領が退任する来年5月までの首脳会談は容易ではない。日本は2か月後の7月に参議院選挙を控えており、韓国に譲歩する可能性は極めて低いからだ。

 しかし、日韓の場合は米朝に比べればまだましなほうだ。短時間ではあるが、首脳同士の電話会談も、会談場は第三国ではあるが、外相会談も開かれており、また北朝鮮問題が議題ではあるが、外務省局長級協議が開かれているからである。

 日韓に比べて、米朝はどうか?

 米朝は2019年2月にハノイでの首脳会談が決裂して以来、2年9か月間、首脳レベルでも、実務レベルでも会談は一度も開かれていない。理由は北朝鮮が一貫して、対話を拒否していることにある。

 米国は▲北朝鮮には敵意を持っていない▲いつどこでも条件なしに会う用意があると言い続けている。懸案の核問題についても▲外交交渉で平和的に解決する用意がある▲北朝鮮の要求事項についても話し合う用意がある▲北朝鮮の肯定的な反応を待っているとのメッセージを発進し続けている。

 先月もホワイトハウスのサキ報道官は「米国は対話の準備が出来ている」ことを強調し、米国務省のソン・キム北朝鮮担当特別代表も先月末にソウルを訪問した際「我々は北朝鮮と条件なく会う準備ができており、北朝鮮に対していかなる敵対的な意図がないことも明確にしてきている。北朝鮮が(対話に)肯定的に応じることを望む」と強調していた。ソン・キム代表は「人道分野で北朝鮮と協力する準備をする」と北朝鮮への人道支援も口にしていた。

 米国は掛け声だけでなく、実際に北朝鮮に対して具体的な提案もしている。米国務省のプライス報道官は先月14日、米朝交渉再開のため北朝鮮にすでに具体的な提案をしたことを明らかにしていた。提案の中身は明らかにしなかったが、プライス報道官は「北朝鮮からの接触を待っている」と期待を表明していた。

 これに対して北朝鮮の対応も日本同様に一貫している。米国が対朝鮮敵視政策を撤回しない限り、対話には一切応じないというものだ。簡単な話が、「会談をしたければ、先に解決策を示せ」との日本同様に「対話をしたければ、先に敵視政策を撤回せよ」との姿勢だ。

 米国が示した「具体的な提案」についても日本同様に北朝鮮も興味を寄せていない。先月11日の国防発展展覧会での金正恩総書記の演説からもそのことは明らかだ。金総書記は「米国は最近、我々に敵対的ではないという信号を頻繁に発信しているが、敵対的ではないと信じられる行動的根拠は一つもない」と相手にしてなかった。

(参考資料:北朝鮮が米国との対話にも交渉に応じない理由 北朝鮮版「戦略的忍耐」)

 「韓国が先に納得できる解決策を示さない限り」「米国が先に敵視政策を撤回しない限り」は「交渉には応じない」の一点では奇妙なことに日朝はまるで同じだ。

 対話に積極的な米韓に消極的な日朝の構図は実に摩訶不思議だ。

(参考資料:岸田新総裁選出を韓国のメディアはどう伝えたのか? 速報で伝えた韓国メディアの「論調」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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