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世論調査からみた日本の政治の現状

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
岸田首相の外交政策は評価が高いようだ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 朝日新聞が5月21、22日に実施した全国世論調査の結果が、23日発表された(注1)。世論調査は、個々の結果にあまり意味はないと思う。だが、その結果の内容があまりにも矛盾(?)に満ちたものだったので、本記事で、筆者の所感を述べておきたい。

 同調査では、「今夏の参院選をきっかけに日本の政治が大きく変わってほしいか」について尋ねたところ、「大きく変わってほしい(52%)」が、「それほどでもない(44%)」を上回ったのである。それは、2019年5月に実施された前回参院選前の調査(「大きく変わってほしい」が47%、「それほどでもない」が43%)と比べても、「変化」への期待が高まってきていることを意味している。それは、前回の調査がコロナ禍以前の時期に実施されていることを考えると、政権のコロナ禍対策等への不満があると考えられる(注2)。

 そのような日本の政治への変化への期待にもかかわらず、岸田内閣への支持率は、「支持する」は59%であり、「支持しない」26%であり、4月の調査時よりも支持率を上げている。

 これに対して、「自民党に対抗する勢力として、いまの野党に期待できるか」という質問に対して、「期待できる」13%、「期待できない」80%と回答しているのである。

 以上のことを総合すると、今の政治には不満であり、変わってほしいが、いまの野党には期待できない、だから仕方なく現政権、特に不満の多かった前政権よりはよさそうな現政権にとりあえず、積極的ではないが支持しておこうと考えているということができるだろう。

 政治は、理想論も重要だとは思うが、現実の中にしか解がないことを考えれば、本来は、今の政治に不満で変わってほしいなら、野党を支持するしかない。だが、そうなっていないのだ。他方、現政権への支持率が高いにもかかわらず、「変わってほしい」という回答率が高いということは、現政権を支持してはいるが、実は積極的には支持していないということだろう。

 また同世論調査では、政策分野に関しても質問している。

 まず岸田首相の経済政策に対して、「期待できる」34%であるのに対して、「期待できない」56%であった。また物価が上がっていることに対する岸田首相の対応への評価は、「評価する」23%であるのに対して、「評価しない」66%であった。

要するに、岸田首相(内閣)の経済政策への評価がかなり低いということができるのである。

岸田首相の経済政策の評価は低い
岸田首相の経済政策の評価は低い提供:イメージマート

 他方、対外政策に関しては、次のような結果がでている。

 まずロシアによるウクライナ侵攻についての岸田首相の対応を、「評価する」62%で、「評価しない」27%という結果がでている。

 また岸田首相がロシア産石油の輸入を段階的にやめていくことを表明したことについては、「評価する」70%、「評価しない」21%という結果がでている。

 要は、岸田首相(内閣)の外交的対応は、それなりに評価されているということがわかる。

 以上のことと先述した高い内閣支持率からわかるのは、岸田首相(内閣)は、経済政策などは評価されていないが、国際関係における緊張感が高まるなか、外交政策を中心に評価され、内閣の支持を得ているということができるだろう。

 朝日新聞の別の記事「攻防本格化へ 工事まで1月切る」(2022年5月25日)では、来る参議院選挙に向けて、与党推薦や野党候補一本化などの動きについて伝えている。

 しかしながら、この世論調査によれば、次のような結果が出ている。

・質問「この夏の参議院選挙で、与党が議席を増やした方がよいと思いますか。野党が議席を増やした方がよいと思いますか。今とあまり変わらないままがよいと思いますか」

 *与党が議席を増やした方がいい  20%

 *野党が議席を増やした方がいい  32%

 *今とあまり変わらないままがよい 40%

・質問「この夏の参議院選挙で、野党は、自民党と公明党に対抗するために、野党同士で協力して、統一候補を立てるほうがよいと思いますか」

 *統一候補を立てるほうがよい   42%    

 *そうは思わない         46%

野党への評価は低い
野党への評価は低い写真:つのだよしお/アフロ

 参議院選挙は、政権政党が変わる政権交代が起きることのない選挙ではあるが、それに躓くと政権運営が行き詰まり、政権が変わることはこれまでも何度も起きている。そしてまた、先に述べたように、国民は、いまの野党には期待していないが、政治に変化を求めている。

 それらのことを踏まえて、上記の質問への結果をみていくと、国民は、野党の力にはあまり期待せずに、現状の政治の枠組みのなかでの、政治の変化を求めていることになる。

 そして、それに、岸田首相(内閣)の政策への評価を加えると、国民は、現内閣には、強く支持はしないが、国内政策である経済政策を何とかしてほしいと、考えているということになるのだろう。

 このように、当該の全国世論調査は、国民の何ともいえない、複雑かつ矛盾した心情を表しているように感じられるのである。そこには、政治におけるいい意味での緊張感や競争あるいは対立状態は感じられない。

 しかしながら、筆者は、これまでの政治や政策関係の経験からすると、政治においては、ある意味の競争状態があることが、野党にとっても、また与党にとっても、良いことなのだと考えている。

 ところが、日本の政治は、2009年の政権交代およびその後の政権運営における稚拙さと失敗から生じた国民の政治における大きな変化への失望や虚脱感から誕生した2012年の第二次安倍政権以降は、ダイナミックな競争状態は失われてしまってきている。それは、国民自身の経験に基づく政治に対する期待感を持つことへの諦めであるともいえるだろう。

 だが、民主主義は、突然に良い社会と生み出すことのできる仕組みではない。むしろ失敗の経験も踏まえて、少しずつ改善、改良して、ベターなものを構築していく仕組みだ。

 そのような観点からすると、政治における野党の存在はやはり重要だ。だが、現在の日本において、野党は日本の政治にダイナミックな動きや変化をつくりだす競争性や対抗性を十分に備えているだろうか。

 筆者は、自民党関連の政策研究機関の立ち上げと運営にかかわったことがあるが、その時期は自民党が与党から野党に転落した時期にも重なっている。自民党が野党になった時には、政権を再獲得するための勉強会も開催されていた。その会ではあるときに、「英国などの労働党の事例のなどもみてもわかるように、政権は10年ぐらい戻ってこない。その覚悟で、政権再獲得の準備をすべきだ」などの議論もされていた。自民党内には、当時それぐらいの悲壮感と覚悟も生まれていたのである。

 果たして、いまの野党に同様の覚悟や意志はあるのだろうか。

政治や野党は、国民からの「信頼」の回復・構築が最重要事項
政治や野党は、国民からの「信頼」の回復・構築が最重要事項提供:イメージマート

 また、政治において、競争力、対抗力さらに政権交代力を持てるには、党の政策も重要であるが、それを支える国民・有権者の支持や思い・意志がより重要であると思う。現在の野党が、果たしてそのような国民・有権者の支持などを理解し、受け入れるための努力や機会を得るための努力をしているか大いに疑問だ。

 現在の野党は、2009年の政権交代・運営で失った国民の信頼を取り戻すための努力をしているように感じない。その信頼の回復のための努力と工夫のプロセスの中からしか、どんな言葉やどんな内容だろうと政党や政策への信頼は生まれてこない。現在の野党は、政策さえよければ、国民から信頼され、支持を得られると誤解している。

 その信頼を得るには、野党(どの野党か統一野党かは別の問題としてあるが)は、これから10年ぐらいかける覚悟をもち、国民との対話やヒアリングを地道にかつ確実に、日常的に積み重ねていく必要があるだろう。長い期間において、そのような負担と努力、そしてそれを維持・蓄積していくには、そのプロセスを、数字やデータとしても可視化するだけでなく、その都度のマイルストーンにおける成功体験を生む工夫などもしていくことなどが必要だ。

「信頼」構築には国民の声を聞くべきだ
「信頼」構築には国民の声を聞くべきだ写真:アフロ

 そのような野党が出てきたときこそ、国民・有権者の意識も変わるし、当然にいまの与党の意識も大きく変わるだろう。そうすれば、政権交代が起きるか否か、いつ起きるかはわからないが、日本の政治は確実に変わり、日本社会も確実に変わるだろう。

 日本の政治がそのような方向に進むことを、期待すると共に、微力ながらも貢献していきたい。

(注1)「参院選「政治変わって」52% 「野党に期待できる」13% 朝日新聞社世論調査」(朝日新聞 2022年5月23日)参照。

(注2)この点に関しては、拙記事「危機的状況における、政治家の情報発信について考えよう。」等参照のこと。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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