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アジア特別枠で来日した2人の若者、サーディ・ラベナとヤン・ジェミンが体感したBリーグとは

青木崇Basketball Writer
11月の大阪戦で18点を奪ったラベナ。来季の飛躍に期待  (C)B.LEAGUE

 Bリーグは今シーズン、競技力向上とビジネス的背景を理由にアジア特別枠を導入。B1のチームにやってきたのは、23歳のサーディ・ラベナ(三遠ネオフェニックス)と21歳のヤン・ジェミン(信州ブレイブウォリアーズ)という2人の若者だった。

 ラベナはフィリピンのアテネオ・デ・マニラ大の大黒柱としてUAAPと呼ばれる大学体育協会のチャンピオンシップ3連覇の原動力となり、MVPも3年連続で受賞したスター選手だ。高い身体能力を武器にしたオフェンス力が魅力であり、島根スサノオマジックとのデビュー戦では、3Pショットのフェイクからドライブに行ってダンクを決めるなど13点を記録。11月11日の大阪エヴェッサ戦でも18点を奪ったラベナは、三遠にとって期待の即戦力となるはずだった。

 ところが、新型コロナウィルス感染や右手の骨折で長期離脱を強いられるなど、日本で過ごしたプロ1年目は苦難の連続。低迷するチームにプレーで貢献できないことへのフラストレーションを抱えていたはずだが、ラベナはこの経験を今後に生かしたいという前向きな姿勢でシーズンを終えた。

「不幸とも言える状況に直面したことに加え、コロナウィルスの感染や故障(指の骨折)によって数多くの試合を欠場してしまったことは皆さんご存知だと思いますが、すごい経験をさせてもらいました。1年目でこのようなことができたのは、私にとって素晴らしいレッスンになりました。オンコートでもオフコートでも人間として成長できましたし、数多くの素晴らしい選手たちと競い合えました。この夏によりレベルアップできることを楽しみにしています」

 平均22.8分のプレータイムで9.1点、3.6リバウンド、1.6アシストと数字を残したラベナだが、故障せずにシーズンを過ごせていたら、得点で2ケタのアベレージを残した可能性は十分にあった。フィールドゴール成功率が35.8%と低かったこともあって、「この夏に向上したいと思っていることはミッドレンジのゲーム。このスポットからのショットは、今シーズン18本打って成功数が0本でした」と、課題を口にする。

 欠場中にベンチから試合を観察し続けたことは、ゲームの理解度を上げるという面でプラスに働いた。ラベナは身体能力の高さを生かしつつも、的確な状況判断をすることがいかに大事かを学べたのである。

「シーズン序盤の私は、何事も急いでやってしまうところがありました。自分のゲーム自体が速すぎたのです。(欠場中は)ベンチから状況をずっと見てきましたが、ディフェンスがどのような対応をするのかや傾向などをより理解する助けになりました。何が起こりそうかを気付くようになりましたし、手の故障から復帰して以降はBリーグでプレーしやすくなりました」

 ラベナのプロ1年目は、日本での生活に馴染むこと加え、過密スケジュールへの順応が苦労したことの一つ。取材中に“日本でやってみたいというフィリピンの選手にアドバイスするならば、どんなこと?”という質問をしたのだが、答えはどの選手にも当てはまるものだった。

「自分自身への準備をしておくことです。フィリピンでは週に1試合、2試合でも多いくらいなのです。まったく慣れていない中で60試合のシーズンを過ごすには、メンタル面でもフィジカルの面でもしっかり準備することが、Bリーグでプレーするうえで最善のアドバイスになるでしょう。8日間で5試合プレーするためには、いいコンディションを維持しなければなりません。特にアウェイゲームの連戦はとても大変です。Bリーグには外国籍選手が3人にいて、日本人も走れる選手がたくさんいますので、連戦でもいいプレーができるのです。

 ベストなアドバイスをするならば、“自分自身で準備しよう”ということです。自分のことを話すならば、準備できていると思っていたよりも準備できていませんでした。でも、今は物事がどのように進むかということに気付きましたし、ゲームに向けてどのように準備すべきかもわかりました。これはフィリピンの選手だけではなく、Bリーグでプレーしたいと思っているすべての選手に対してです。すごくタフなリーグですが、日本は住むのに素晴らしい場所だと思います」

 三遠は5月10日、ラベナと来シーズンの契約を締結し、プロ2年目もB1でプレーすることが決まった。長期欠場でチームの勝利に貢献できなかった悔しさ、日本にやってきて学んだことを糧に、ラベナはオフのワークアウトにより力が入るに違いない。心身両面でしっかり準備できれば、2年目は日本でチャレンジすることが正しかったことを証明する絶好の機会になるだろう。

 2015年のU16アジア選手権で韓国を優勝に導いたのを見て以来、筆者にとってヤンはアジアで注目したい選手になった。翌年のU17ワールドカップでは、フランス相手に32点を奪って世界を驚かせた勝利の原動力になっている。ポストアップでもドライブでもアウトサイドでも得点できるスキルを持ち、ハンドリングもできる201cmのオールラウンダーという印象は、当時から変わっていない。

 2020年の春、ヤンはレンジャー・カレッジからネブラスカ大に進む富永啓生のように、ジュニアカレッジ経由でNCAAディビジョン1の大学からスカラシップ選手としてのオファーを受けていた。しかし、新型コロナウィルス感染拡大による事態急変でNCAAを断念。アジア特別枠のあるBリーグやオーストラリアのNBLに自身の映像を送った中から、ヤンは勝久マイケルコーチが積極的にコミュニケーションを図ってきた信州への入団を決意したのである。

19点を記録した北海道戦でヤンはB1で活躍できることを示した (C)B.LEAGUE
19点を記録した北海道戦でヤンはB1で活躍できることを示した (C)B.LEAGUE

 アンダーカテゴリーの韓国代表で抜群の実績を持ち、NCAAディビジョン1を目指してアメリカの地で奮闘してきたヤンだが、信州で即戦力というわけにはいかなかった。勝久コーチは厳しいディフェンスを信条とする指揮官であり、システムを理解して遂行できるようになるためには、どの選手でも時間が必要となってくる。新加入のヤンも例外ではなく、「個人的にはディフェンスです。いろいろなことに取り組んで向上しなければなりませんでしたし、それが自分にとって最大のチャレンジでした」と話す。

 出場メンバーに登録されながらプレータイム0分が8度あるなど、ヤンはプロ1年目の大半をローテーション外の選手として過ごした。しかし、3月になってから出場機会が徐々に増え、4月4日のレバンガ北海道戦では、3本の3Pショットを含む19点、7リバウンド、3アシストというオールラウンドな活躍で勝利に貢献する。

「北海道戦ではポストゲームもアウトサイドゲームもできました。それが私のバスケットボール・スタイルであり、そういったインサイドとアウトサイドのプレーに取り組み続けています。そうすることによって、チームの勝利に貢献できると思っています」

 出場機会が得られない状況であっても、勝久コーチの信頼を勝ち取るためにハードワークを継続できたことは、ヤンにとって一番の収穫だったと言えるのではないか。また、10代でスペインとアメリカで生活した経験が、日本の環境に慣れるうえで助けになったという。B1のレベルと信州のシステムに順応するまで時間がかかったとはいえ、北海道戦以降の試合で13分以上の出場時間を得ていた。日本でのプロ1年目について聞いてみると、ヤンは次のように返答する。

「今シーズンを振り返ってみると、この夏にレベルアップに取り組まなければならないことがたくさんあると思いました。もちろん、シーズンの最初に比べたら成長したところもあります」

 アジア特別枠が導入された最初のシーズンをプレーしたラベナとは、5月5日の試合前にようやく親交を深める機会があり、来シーズンの対戦でマッチアップできることを楽しみにしている。ただし、現時点でヤンが来シーズンも信州でプレーするか未定だ。

「Bリーグにやってくるまで、彼(ラベナ)のことは知りませんでした。彼がいい選手というだけではなく、すごくいい人だと聞いていました。フィリピンではスーパースターです。今日の試合前に話をしましたが、ケガをしていてプレーできませんでした。彼は来シーズン戻ってくると思いますので、私もここに戻ってくることになれば、一度は対戦できますね」

 2人のマッチアップが実現した時、Bリーグが目指すアジア市場拡大は、大きな一歩を踏み出すに違いない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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