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高畑充希主演『にじいろカルテ』に、優しく仕掛けられた「色」の謎って?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:PantherMedia/イメージマート)

高畑充希主演『にじいろカルテ』(木曜よる9時、テレビ朝日系)を、とても興味深く見ています。

舞台は山奥の村の診療所で、スーパードクターも超絶技巧の手術場面も出てこない、異色の医療ドラマです。

外科医の浅黄朔(あさぎ・さく 井浦新)と看護師の蒼山太陽(あおやま・たいよう 北村匠海)が守る「虹ノ村診療所」。

そこに内科医の紅野真空(くれの・まそら 高畑充希)が新メンバーとしてやって来ました。

しかし、真空自身が難病を抱えています。「他者を助ける」医師でありながら、同時に「他者の助けを必要とする」患者でもあるのです。

「支え合って生きる」ということ

それはヒロインの真空に限りません。たとえば、「にじいろ商店」の橙田雪乃(とうだ・ゆきの 安達祐実)は認知症を患っています。

彼女の記憶は、数カ月のサイクルで「リセット」されてしまう。自分のことや、周囲の人たちのことも分からなくなってしまいます。

一番混乱するのは本人です。いや、混乱というより恐怖を感じる。パニックに陥ります。

しかし、夫である橙田晴信(とうだ・はるのぶ 眞島秀和)は動じません。

当り前のように、その都度、雪乃にプロポーズするのです。これがとても素敵です。

そして、雪乃の友人である緑川嵐(みどりかわ・あらし 水野美紀)も、霧ヶ谷氷月(きりがや・ひづき 西田尚美)もすごい。

毎回、ゼロから雪乃に対して「自己紹介」をして、また友だちとして交際を始めるのです。

晴信も、嵐たちも、明るい「村のマドンナ」である雪乃に元気づけられ、助けられているから。

夫の晴信だけでなく、村のみんなも自然に雪乃を支えるし、雪乃も意識しないままに、みんなを支えているわけです。

そして認知症であることも含めた雪乃を好きだし、大切に思っている。

この村では、認知症も一つの「個性」なのです。これまた、かなり素敵じゃありませんか。

ということは、真空が抱えている難病も個性であり、そんな個性を持った真空が、医師としてみんなを支え、同時に患者としてみんなに支えられていく。

このドラマのポイントは、この「相互性」にあります。生きていくって「お互いさま」なんだよ、ということを伝えていると思うのです。

登場人物の「名前」の謎

いえ、「謎」ってオーバーかもしれませんが、脚本の岡田恵和さんの優しい「仕掛け」がうれしいので、あえて謎と呼んでみます。

この村の名前は「虹ノ村」。そして、虹は「七色の虹」といわれるように、(科学的に正確かどうかはともかく)7つの色で構成されています。

それが、赤・橙(だいだい)・黃・緑・青・藍・紫。

赤や黃色が単独で存在していても虹にはなりません。しかし、7色がそろって、互いに支え合えば美しい「虹」になる。

このドラマは、そう言っているのではないでしょうか。

ご存知のように、登場人物の名前の多くが、「色」に関係しています。

・紅野真空→赤

・浅黄朔→黄

・蒼山太陽→青

・橙田雪乃、晴信→橙色(オレンジ)

・緑川嵐→緑

・白倉博(しらくら・ひろし モト冬樹)→白

・筑紫次郎(ちくし・じろう 半海一晃)→紫

・桃井佐和子(ももい・さわこ 水野久美)→桃色(ピンク)

認知症の雪乃(橙色)も、難病の真空(赤)も、妻を亡くしトラウマに苦しむ浅黄(黄色)も、そこにいてくれるおかげで、「七色の虹」になる。

そう思って、名前を見直してみると、実は「藍」だけがありません。

これもまた、岡田恵和さんによる巧妙な仕掛けかと思いますが、考えられる展開は2つでしょう。

1つは、今後、「藍」の字が入った名前の人物が登場する。

たとえば「〇〇藍さん」とか、「藍川〇〇さん」とかですね。これ、可能性ありだと思います。

2つ目は、かなり妄想的ですが・・・

「藍」という色を説明する時、一番簡単なのが「濃い青色」という言い方です。

で、もう少し詳しく説明するなら、「ちょっと緑がかった濃い青色」。

この「緑がかった青」をヒントに想像すれば、「青」の蒼山太陽と「緑」である緑川嵐が合体、もしくは融合することで「藍」になる、ってのはどうでしょう。

もっと言えば、太陽くんと嵐さんの間に、女の子が産まれたりして、名前が「藍ちゃん」になるとか。これで「7色コンプリート」(笑)。

まあ、実際にどうなるのか分かりませんが、藍色も加わって、虹ノ村の空に「七色の虹」がかかるのを、ぜひ見たいと思っています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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