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ロケットとミサイルに違いは無い? 北朝鮮による衛星打ち上げと各国の報道比較

JSF軍事/生き物ライター
(写真:ロイター/アフロ)

 7日、北朝鮮は宇宙ロケットを用いて人工衛星を打ち上げて軌道に乗せることに成功しました。これは長距離弾道ミサイル技術を用いているため、北朝鮮に核実験とミサイル発射を禁じた国連安保理決議違反となり、各国が非難を行っています。

 日本では「北朝鮮の人工衛星打ち上げ用ロケットと称する事実上の長距離弾道ミサイル」という奇妙に長い言い回しの報道ばかりで、宇宙ロケットによる衛星打ち上げと報じている大手メディアは全くありません。

 しかし国連安保理決議は北朝鮮に対して宇宙ロケットだろうとも長距離弾道ミサイル技術を使う全ての発射を禁止しているので、ロケットと表記しても問題は無いはずです。他の国が宇宙ロケットを打ち上げるのは自由なのに北朝鮮が禁止されている理由は、核兵器の開発とセットだからです。もしも北朝鮮が一度も核開発を行っていなければ宇宙ロケットは何も制限されていなかったでしょう。

 ロケットなのかミサイルなのかという論争には全く意味がありません。宇宙ロケットも長距離弾道ミサイルも技術的には同じものであり、北朝鮮に対してはロケット打ち上げも含めて全て禁止されているからです。北朝鮮が使用したのは弾道ミサイル「テポドン」です。そして人工衛星を軌道に乗せた以上、今回は宇宙ロケット「銀河」として使われました。しかしながら各国の立場や文化の違いによって、北朝鮮の行為を非難する姿勢は同じなのに報道に差が生じています。

国連:DPRKによるミサイル発射

Following a missile launch by the Democratic People's Republic of Korea (DPRK), United Nations Secretary-General Ban Ki-moon is calling on the country's Government “to halt its provocative actions and return to compliance with its international obligations.”

出典:UN chief calls on DPR Korea to halt 'provocative actions' following missile launch | United Nations Security Council

アメリカ:D.P.R.K. による本日のミサイル発射

The United States strongly condemns today’s missile launch by the D.P.R.K.-- a flagrant violation of UN Security Council Resolutions related to the D.P.R.K. use of ballistic missile technology.

出典:D.P.R.K. Missile Launch | U.S. Department of State

 国際連合とアメリカ国務省は公式発表で北朝鮮によるミサイル発射と言い切っています。「事実上の」すら付けていません。しかし英語圏のメディアではロケット発射と報道する例が多く見られます。但し勿論、ロケット発射はミサイル技術テストであり国連決議に違反していることも説明した上でです。(※DPRKやD.P.R.K. とは朝鮮民主主義人民共和国の英語略称)

 韓国では政府公式見解は「ミサイル発射」であり、朝鮮日報や中央日報など主要メディアも同様の表記をしています。ハンギョレ新聞など一部メディアは「ロケット発射」としていますが、北朝鮮を擁護しているわけではなく、国連決議に違反していることも説明した上で非難しています。

 中国は外交部の記者会見で華春瑩報道官が記者の質問に答える形で「国連安保理決議は北朝鮮にミサイル技術を用いた発射を制限している」と、ロケット発射が禁止されている事を指摘し遺憾の意を表明しました。中国の報道では「火箭(ロケット)」と「導弾(ミサイル)」の両方が混在しています。しかし中国軍自身が弾道ミサイルを扱う「火箭軍(ロケット軍)」を昨年末に新設したことからも分かる通り、中国ではそもそもロケット=平和利用というイメージが定着していません。火箭という言葉は本来は中国の古代の戦に使われていた兵器の事だったからでしょう、兵器としてのイメージが強いのです。

 ロシアでは、ロシア語自体がロケットとミサイルを区別せずに一纏めにして「ラケータ(Ракета:英語でいうロケット)」と呼んでいるために、そもそも使い分けの問題が生じていません。ロシア政府は北朝鮮の国連決議違反を強く非難しています。

 そして当事者である北朝鮮はロシアから技術用語を導入したため、言葉としてロケットもミサイルも区別されていません。ロケットかミサイルかという論争は北朝鮮からすれば理解できない話になるでしょう。(追記:2016年当時はこの通りでしたが、2021~2022年以降から北朝鮮はロケットとミサイルを言葉として使い分けるようになります。)

 日本では政府公式見解は「事実上のミサイル発射」であり、ほぼ全ての主要メディアが政府見解に沿った表記をしています。日本と韓国は報道の状況が似通っていますが、これはミサイルとロケットという外来語をそのまま導入して使うようになった文化的経緯が似ていますし、地理的に北朝鮮が目の前で近いという危機意識の高さも共通しています。アメリカではメディアが政府公式見解をあまり気にせずロケット発射と表記していますが、これはメディアの独立性の高さもあるでしょうが、そもそも遠い国の出来事で危機意識が日韓より低いせいがあるかもしれません。

※2022年4月9日追記

北朝鮮の軍事用語は主にロシア式を採用(ロケット・ミサイルを中心に解説)※追記あり

 北朝鮮のミサイル関連の用語は従来はロシア式だったのですが、2021年1月9日発表の党大会報告で言及された「中長距離巡航ミサイル」から用語が切り替わり始めて、2022年1月31日、火星12を「弾道ミサイル」と公式に呼称。これまで使用していた呼称「弾道ロケット」からの大きな転換を行いました。

 北朝鮮はミサイルのことをミサイルと呼ぶようになり、ロシア式を止めてしまったのです。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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