ひとり旅の宿は「総部屋数8室以下」がベスト。ソロ温泉の達人が宿選びで重視する条件
筆者が提唱するソロ温泉(=ひとりでの温泉旅)では、忙しない日常から解き放たれた「空白の時間」を愉しむのが目的である。
仕事や人間関係の「スイッチ」を切るのではなく、「ブレーカー」ごと落とすイメージだ。だからこそ、ひとりきりで静かに湯浴みの時間を過ごしたい。
では、ひとりの時間を満喫するために、どんな温泉地の、どんな宿を選べばよいだろうか。
草津温泉より沢渡温泉
一人の時間に集中し、思考を深めたいのであれば、遊興施設がなく、人が少ない温泉地を選ぶびたい。
たとえば、日本を代表する温泉地である草津温泉は、源泉の自然湧出量が日本一で、基本的にすべての湯船が源泉かけ流し。源泉のパワーは全国トップクラスである。温泉に興味があるなら、ぜひ一度は訪ねてもらいたい温泉地である。
草津は観光地としてもトップレベルのポテンシャルを有する。源泉が大量に湧き出す様子が見られる湯畑やお土産屋さんなど見どころもたくさんある。街歩きが楽しく、興味を引かれる入浴施設もたくさんある。冬は目の前にスキー場がオープンする。その分、観光客も多い。平日でもあれほど人でにぎわう温泉地はめずらしい。
そうした環境を考えると、空白の時間を愉しむにはあまり向いていない。思考をめぐらせる目的で訪ねるには、少々にぎやかすぎるのである。
だから、ソロ温泉に出かけるなら、草津温泉よりも、近くにある沢渡温泉のほうが適している。
沢渡温泉は、強酸性の草津温泉で荒れた肌を整える効果があるとされ、「草津温泉の仕上げ湯」として知られる。その美肌効果から「一浴玉の肌」とも称される名湯だ。数軒の宿と共同浴場が並ぶ小さな温泉地で、遊興的な施設はゼロ。ソロ温泉には最適の温泉地だ。
ともにすばらしい温泉だが、旅の目的によって使い分けることが大切である。
多くても「15部屋以下」の宿
ひとりになる時間を大事にするなら、人が少なく、鄙びた温泉地を選ぶべきである。そういう意味では、滞在する宿も小さいほうがいい。
100部屋もあるような大きな宿に泊まると、館内で必ず人と遭遇することになる。キャパシティーが大きい分、温泉も大浴場になるため、ひとりで湯船を独占するのはむずかしい。湯船が大きくなれば、循環ろ過をせざるをえず、肝心の湯の質も落ちてしまう。
もちろん、部屋にこもればひとりになれるわけだが、それでははるばる温泉地に来た意味が薄れてしまう。
だから、大資本の宿ではなく、家族中心で経営しているような小規模な宿がいい。私の感覚では、8部屋以下の小さな宿がおすすめである。多くても15部屋以下の宿を選びたい。
キャパシティーが小さければ当然、館内で他の客と顔を合わせることも少ないし、かなりの可能性で湯船を独占できる。大きな湯船にひとりでつかる「独泉」は、ソロ温泉の醍醐味である。
いい具合に放っておかれる
小さな宿であれば、お世話をしてくれる仲居さんもいない。誰かといっしょに贅沢をする旅であれば仲居さんの存在も意味はあるが、ソロ温泉では必要な要素とはいえない。
何かと部屋に入ってこられるとリラックスできないし、こちらも「何か話しかけないと」などと余計な気を遣ってしまう。対人関係のストレスをなくすのがソロ温泉のねらいのひとつであるから、本末転倒だろう。
家族経営の規模の宿だと、いい具合に放っておいてもらえる。宿の立場になれば手が回らないだけであるが、ソロ温泉にはちょうどいい塩梅になることが多い。反対に、困ったことがあれば親身になって対応してもらえるのも家族経営の宿のいいところである。
せっかく非日常の空間に身を置く旅なのだから、静かな温泉地の、静かな宿でゆっくり時間を過ごしてはいかがだろうか。ぜひ、ひとり旅の宿選びの参考にしてもらいたい。