キューブを選べば伊勢海老や和牛が食べられる!? 新スタイルの鉄板焼が誕生した理由
鉄板焼は高級なジャンル
鉄板焼は高級な日本料理のジャンル。その理由は、焼き手がゲストの目の前で、黒毛和牛を焼き上げてくれるからです。
和食の流れ、洋食の流れと大きくわけて、2つのスタイルがありますが、コースの流れはだいたい共通しています。オーソドックスな構成は、冷前菜、温前菜、魚料理、黒毛和牛、ガーリックライスなどのご飯、デザートといったところ。もちろん、ここにスープが入ったり、フォアグラが追加されたりと、様々なアレンジが施されることはあります。
ただ、どちらかといえば、鉄板焼のコース構成は、だいたいフォーマットが決まっているといってよいでしょう。
鉄板焼に新しいスタイルが登場
定番が多い鉄板焼のコースに、全く新しいスタイルが登場しました。
それは、帝国ホテル 東京の鉄板焼「嘉門」で2021年7月1日に開始された「The Cubes(ザ・キューブ)」(38,500円、サ別)です。
2020年1月からシェフを務めているのは紀野安彦氏。以前「嘉門」でスーシェフを務めてから、宴会の部署に携わり、戻ってきました。したがって「嘉門」をよく知っていながらも、鉄板焼以外の料理にも精通しています。
「The Cubes」はゲストと焼き手の会話で好みのコースを構成するという、カスタムメイドの鉄板焼。会話のきっかけとなるのが、特注品のキューブです。
メニューは次の通り。
The Cubes
・次のキューブから、4つの食材を選択。
キャヴィア/フォワグラ/本日の野菜/本日の魚/活伊勢海老/国産活鮑/本日の肉料理/特選和牛サーロイン/特選和牛フィレ
※特撰和牛を神戸牛ロースへ変更(+12,000円、サ別)
・サラダ
・ご飯(ガーリックライス または オリーブ麺に変更可能)、味噌椀、香の物
・デザート
・コーヒー
用意された9つのキューブには、日本語と英語が表記されています。この中から食べたい4つを選びますが、その時に焼き手や同行者との会話が生まれます。もちろん、迷って選べなければ、好みや気分を伝えるだけで、最適なものを焼き手に選んでもらえるので安心です。
キューブには食材しか記載されていないので、どのように調理するか、どのようなソースや付け合わせにするかなど、シェフとの会話で一品ずつ創り上げていくのも醍醐味です。
では、代表的なメニューを紹介していきましょう。
アミューズ
最初のアミューズでは、2品が提供されました。なめらかなパプリカのババロアには、パプリカのチュイールとナスタチウムがあしらわれています。レモン風味のマドレーヌは軽やかで心地よい酸味。
キャヴィア
甘味たっぷりの富山県産シロエビをタルタルにして、その上にオシェトラキャヴィアをのせました。茹でたアスパラガスとミルクのエキュームに、日向夏のアクセントを加えています。キャヴィアの存在感たっぷりの前菜で、ガラスの器が涼しげです。
活伊勢海老
焼かれることの多い伊勢海老をボイルしました。まるごと1尾をボイルしてから半身にしているので、身が縮んでおらず、ふっくらと仕上がっています。イタリアンパセリやピーテンドリルなどのスプラウトや、エディブルフラワーを散らして、美しい菜園風に。薬味は旨味が凝縮された海老マヨネーズとレモンです。
本日の魚
本日の魚はアマダイで、鱗焼きにしました。200度弱の鉄板でじっくりと揚げ焼きにしているので、カリカリっとした食感に。アマダイの骨からとったソースに、グリーンピースやインゲンといった豆をたっぷり付け合わせました。
国産活鮑
北海道のエゾアワビは、たっぷりのバターをかけながら焼いてあるので、表面が香ばしくなり、旨味も閉じ込められています。塩は特に加えておらず、素材が持つ滋味が引き出されていました。普段はなかなか食べる機会のない、コリっとした鮑のクチも提供。肝には風味のよい香草ガーリックバターソースが合わせられています。鰹出汁と海苔のソースとの相性も抜群です。
特選和牛サーロイン
特選和牛フィレ
フィレのキューブとサーロインのキューブを選べば、どちらとも味わえるのが嬉しいところ。宮城県の黒毛和牛で肉質等級はA5。美しいミディアムレアに焼き上げられており、ジューシーで妙妙たる味わいと和牛香を堪能できます。添えられた生の黒胡椒が、フレッシュな刺激。
ご飯 / 味噌椀 / 香の物
ご飯は、ガーリックライスやオリーブ麺に変更できます。小豆島のオリーブを用いたオリーブ麺はつるんとしてよい喉越しです。
ガーリックライスには、粘りの強さと飽きのこない甘味が特徴の新潟県「こしひかり」を使用。脂身を加えて、パラッと仕上げています。卵は入れず、シンプルに米の食味と牛肉の香りを楽しめます。
デザート
カクテルグラスで提供されていて、凛とした姿が美しいです。ミルクのアイスクリームに旬のチェリー、チョコレートムースにチョコレートのスポンジ生地という構成。
「The Cubes」の特長
キューブを通じてゲストの好みに合わせて創り上げる鉄板焼のコースは非常に新しい試みです。
その特長はやはり、好きなものを選べることでしょう。フィレとサーロインのどちらとも食べられたり、キャヴィア、鮑、伊勢海老、本日の魚と魚介尽くしにできたりします。
本日の肉料理では、あえて通常の鉄板焼では体験できないような料理を用意。イチボ肉のタタキやアキレス腱の煮込みなどを味わえる機会があるのも貴重なところ。
帝国ホテル 東京では、オリジナルワインを含めて、数々のワインが用意されています。どのような料理を選んだとしても、ソムリエで名誉唎酒師でもある松本隆氏をはじめとした、優秀なソムリエ陣が最適なワインをセレクトしてくれることでしょう。
誕生した背景
「The Cubes」はどのようにして誕生したのでしょうか。
シェフの紀野氏は答えます。
「『嘉門』の醍醐味は、焼き手が目の前で仕上げ、焼き手との会話を楽しめることです。この楽しみ方をもっと伝えられるプランができないかと検討したところ、キューブを通して選んでいただければ、お客様との会話がより弾むのではないかと考えました」
2021年1月に「The Cubes」の企画が持ち上がり、半年後の7月から提供が始まりました。コロナ禍で休業していたこともあり、準備が思うように進まなかったといいます。
食材が決められた理由
キューブの食材はどのようにして決められたのでしょうか。
「人気食材のフィレ、サーロイン、フォワグラ、鮑、伊勢海老を入れることにしました。これに加えて、旬の食材も取り入れるようにしています。国内に限らず、フランスなど海外の素晴らしい食材にもこだわっていますね」
提供開始当時は家族やカップルの利用が多かったといいます。しかし1年近くが経った今では、少しずつビジネス利用も増えてきているということです。
ゲストに寄り添える
「キューブを通してご要望に応じたメニューをご提供することによって、お客様に寄り添うことができます。今後も継続していく予定で、本日の魚、本日の野菜、本日のお肉料理は時季によって変わっていきますので、何度もお越しいただけると嬉しいです」
鉄板焼は焼き手と対面することもあり、一般的にハードルが高いといわれています。しかし、キューブを通して気軽に会話できる「The Cubes」は、その心理的なハードルを下げ、鉄板焼の醍醐味を多くの人に伝えられるのではないでしょうか。