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『らんまん』東京編スタートで明かされた、万太郎の「思い」とは?

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

「東京編」がスタートした、NHK連続テレビ小説『らんまん』。

この一週間で、主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の「思い」がくっきりと描かれました。

万太郎と竹雄(志尊淳)は、東京の新橋駅に降り立ちます。

博物館を訪ねて、東大の植物学教室への紹介状を入手。

大量の植物標本のために難航する下宿探し。

特別な標本を入れたトランクの盗難。

その行方を追う中で出会ったのが、「十徳(じゅっとく)長屋」です。

十徳長屋で・・・

万太郎と竹雄(志尊淳)は、この長屋で暮らすことになるのですが、そこには様々な人が住んでいました。

その一人で、元彰義隊の生き残りである倉木隼人(大東駿介)は、万太郎のトランクを持ち去った張本人です。

万太郎は、標本を返してくれたら、お金を払うと言いました。

すると倉木が、逆切れしたように万太郎を問い詰めます。

「なぜ雑草に金を払う!?」

なぜなら、

「誰の目にも入らねえ。入ったとしても、疎(うと)まれ、踏みにじられ、踏みにじったことさえ、誰も覚えていねえ。雑草なんか、生えていてもしょうがねえだろうが」

「雑草という草はない」

万太郎は、こう答えました。

「雑草ゆう草はないき。必ず名がある。天から与えられ、もって生まれた唯一無二の名があるはずじゃ。まだ見つかっていない草花なら、わしが名付ける!」

雑草という草はない。

それは万太郎のモデルである、牧野富太郎の言葉です。

万太郎が続けます。

「草花に値打ちがないと、人が決めつけるな!」

「生きる理由、生きる意味」

そして、

「わしは楽しみじゃ。わしが出会おうたもんが、何もんかを知ることが。わしは信じちゅうき。どの草花にも必ずそこで生きる理由がある! この世に咲く意味が必ずある!」

長屋で暮らしているのは、貧しく名もなき市井の人々です。

しかし、草花がそうであるように、ヒトにも生きる理由、生きることの意味がある。

自分だけでなく、他者の人生をも大切にする、万太郎らしい「思い」です。

「一期一会」

万太郎は、よく草花と会話をしています。

もちろん、一方的に話しかけているように見えるのですが、万太郎にとってはヒトと会話するのと変わりません。

そんな様子を微笑ましく眺めていたのが、再会した寿恵子(浜辺美波)でした。

万太郎が寿恵子に言います。

「植物がどこにでもあると思うでしょ? けど、会えるがは一期一会です」

一期一会は、人間に対してだけではないんですね。

「植物には足がないき、一度根付いたら、そこで咲いて枯れます。ほんじゃき、その草花に会いたかったら、こちらから出向かないかん。でも、必ず会えるわけじゃない。お日さんや風の具合で咲かんこともある」

「同じものは二つとない」

さらに、

「ありふれた草花にも同じものは二つとない! わしにとっては、こうして出会えたことが、もう奇跡だがです。今、この時、この場所で、せっかく出会えたき。今を焼き付けとうて(たくて)、べらべら話しているんです」

草花に同じものはない。人間も同じです。出会えたことを喜び、その出会いを大切にする。

出会えたことの奇跡。

それは、万太郎の寿恵子に対する「思い」を表していました。

「花のような人」

帰り道、万太郎は竹雄(志尊淳)にその胸の内を語ります。

「寿恵子さんは、花のようじゃき。わしが見つけた、生きてきた中で一番瑞々しい、可愛らしい花じゃ!」

しかし、現状の自分が寿恵子にふさわしいかどうか。

万太郎は決意します。

「まだ、いかん。まだ、わしは何者でもない。けんど、もっとこの道を進んだら・・・」

そこには、ますます植物学に精進しようとする万太郎がいました。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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