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[プロ野球] 奥川恭伸(ヤクルト)の無四球イニングはどこまで伸びるか

楊順行スポーツライター
2019年夏、甲子園決勝での奥川恭伸(写真:アフロ)

 ここまで6勝3敗。プロ2年目のヤクルト・奥川恭伸が躍動している。出色なのは78回3分の2を投げて三振を72奪いながら、与四死球がわずか8、という抜群の制球力だ。9イニングに換算すると、0・92。つまり、完投しても与四死球は1個未満だ。なんでも、6月20日の中日戦以来、34回3分の2を連続無四死球というから、これも9回に換算すると3試合以上連続無四球ということになる。

 奥川はもともと、石川・星稜高時代からコントロールのよさが図抜けていた。試みに、公式戦での数字を羅列すると、

2018年秋    60.1回  82三振 5四死球

2019年センバツ 18回   27三振 3四死球

 夏石川大会 24回  40三振 3四死球

    選手権  41.1回  51三振 7四死球

 2年秋からの公式戦で合計143回3分の2を投げ、18四死球。これを9イニングでならすと、1試合1個強だからすごい。プロ2年目の今季は、それをも上回る精密機械ぶりというわけだ。

 高校時代で最速154キロをたたき出したから、奪三振が多いのは当然だが、ふつう三振を多く奪えば、四死球も多くなるもの。だが奥川は、18年秋の北信越大会では5回コールドで13三振を奪った試合が無四球だった。19年センバツ、履正社高(大阪)との1回戦も、17三振1四死球だし、各チームの打力が格段に上がる夏の甲子園でも、3回戦で強打線の智弁和歌山から延長14回、歴代2位タイの23三振を奪いながら四死球は3(うち死球が2)だ。

 この試合、2ボールとか3ボール1ストライクとか、ボールが2つ以上先行したのは、打者48人に対して4回しかなく、途中で3ボールになった打者もわずか2人だ(ひとつは四球)。つまり、ほぼ投手有利の状況で打者と対戦していたわけだ。付け加えれば夏の甲子園後、U18W杯のカナダ戦では、7回を投げ2安打1失点でなんと18三振、おまけに無四球の圧巻ぶり。球数制限を考慮して7回で降板したが、9回を投げたら三振は20には達していたのではないか。

田中将大のような雰囲気がある

「あれだけのスピード、切れ味のあるスライダーがあって、あれだけコントロールがいい投手というのは、プロでもなかなか見ません。楽天で投げていたころの田中(将大)のような雰囲気を感じさせるピッチャーで将来が楽しみ」

 というのは、この投球を見ていたある評論家である。もっとも奥川は高校時代、こう話してくれたことがある。

「確かにフォアボールは少ないですけど、ゾーンぎりぎりで勝負できるコントロールがほしい」

 確かに、プロではストライクゾーンがより厳密になるし、高校時代と違い甘いコースは確実に痛打される(8月27日のDeNA戦では、3者連続で被弾した)。それでも今季、与えた死球はゼロだから、厳しく内角を攻める精度は間違いなく向上しているといっていい。

 なんでも、NPBの連続無四球記録はヤクルトの先輩・安田猛の81回(1973年)だとか。当時よりは打者の技術が上がり、きわどいコースでもカットされる現在、奥川が無四球記録をどこまで伸ばすかに注目だ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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