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常識は外交には通用しない 攻守所を変えれば、日本も北朝鮮も同じ立場

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

10月10日(木)

日本政府は、ブルネイで開かれているASEAN(=東南アジア諸国連合)首脳会議で安倍首相が朴槿恵大統領と言葉を交したと発表した。そう言えば、APECビジネス諮問委員会の会合に先立ち、中国の習近平国家主席とも握手を交わしたと公表していた。

両首脳に相手にされず、なかなか首脳会談が開けないわけだから挨拶を交わせただけでも良かったと思う気持ちはわからないわけではない。しかし、朴大統領からすれば、夕食会で隣同士になったわけだから外交儀礼に従ったまでのことである。安倍総理と控室で遭遇した習主席もその点は同じだ。自然現象の出来事を鬼の首でも取ったかのように殊更誇らしげに発表するのも実に変な話だ。

習主席からは、首脳会談を開きたかったら、領土問題が存在することを認めるか、棚上げに応じるか、どちらか一方を約束しろと言われ、朴槿恵大統領からも、従軍慰安婦など歴史認識の問題や、領土問題で誠意を示せと、条件を突き付けられる始末。日本の立場としてはどちらも簡単には飲める話ではない。両国の要求、条件を飲めば、保守安部政権のレゾンデートルが根底から揺らぎかねないからだ。

安倍政権に限らず、尖閣諸島の問題については中国との間に領土問題が存在しないというのが一貫した日本政府の立場であり、この一点においては譲歩の余地はないというのが日本の立場、原則である。また、竹島の問題についても、歴史的にも国際法的にも日本固有の領土であるので日本としてはこの問題でも妥協はできない。さらに、従軍慰安婦の問題も、「日韓条約で決着済」という立場を固守しており、日本政府として公式に償いをする意思がないことを再三にわたって言明している。

その一方で、中国との二国間関係はとても大事で、自由と民主主義の価値観を共有している隣国韓国との関係も重要であるというのが日本の立場。一体、中国と韓国の要求、条件を受け入れず、どうやってこれら隣国との善隣友好関係を築くのだろうか?

安部総理は口癖のように「対話のドアは常に開かれている」を連呼しているが、これまた両国がそう簡単にドアをノックして、入ってくるとも思えない。ここは安部総理の外交手腕が問われるところだが、今は徳川家康の「鳴くまで待とうホトトギス」の心境なのだろう。焦らず、熟した柿が落ちるのをひたすら待つ作戦のようだ。

攻守所を変えれば、今の中韓の立場は、6か国協議の無条件開催をひたすら求めている北朝鮮に対して「6か国協議を再開したければ、非核化に向け行動で誠意を示せ」と条件を付けた米韓の立場と酷似している。強いて言うなら、「拉致問題の解決なくして、国交正常化には応じない」との日本の立場とも相通じる。

対立し、いがみ合っている時こそ、首脳同士が対話を重ね、信頼関係を構築することが大事なことは言うまでもない。対話、交渉なくして、懸案は解決できない。しかし、この常識が外交の世界ではなかなか通用しない。それが、今の日本と中韓、北朝鮮と米韓関係ではなかろうか。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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