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北朝鮮の「対露派兵」に「反発」の韓国とウクライナ 「注視」の米国とNATO 「沈黙」の北朝鮮とロシア

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ウクライナ軍(SPRAVDI)が映像で公開した北朝鮮兵士ら(SPRAVDI配信)

 北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻支援のためウクライナの戦場に軍人を派遣しているとの情報が流れてから2週間以上が経過した。

 事の始まりは、10月4日にウクライナのメディアが軍情報筋の話として、ロシア側が支配するドネツク近郊地域に対してウクライナ軍が前日(3日)に行ったミサイル攻撃で「20人以上の兵士が死亡し、この中に北朝鮮将校6人が含まれていた」と伝えたことにある。ほぼ同じ頃にロシアのSNSに「ロシア軍が北朝鮮の将校らのために攻撃や防御のための訓練を実演している」との情報が載ったことから「北朝鮮兵士参戦」情報が拡散した。

 これら情報にいち早く反応したのが韓国である。

 金龍顕(キム・リョンヒョン)国防相は10月8日、国防に関する年次議会監査で「さまざまな状況を考えると、北朝鮮の将校や兵士がウクライナで死傷したという報道は事実の可能性が極めて大きい。今後、正規軍が派遣される可能性は非常に大きい」と断言していた。

 韓国国防省の発言から2日後の10月10日、「北朝鮮兵士死亡」説についてロシアのペスコフ大統領報道官が「デマである」と否定すると、ゼレンスキー大統領自らが乗り出し、10月13日にビデオ演説を行い、「武器にとどまらず、北朝鮮から占領軍への人の移送も行われている」と述べ、国際社会に向けてロシアと北朝鮮との軍事提携に警鐘を鳴らしていた。

 ゼレンスキー大統領は10月16日にも日本の国会にあたる最高会議で「我々の情報機関によると、北朝鮮からロシアに移送されているのは武器だけではない。人員も移送されている。こうした人員は戦争で死んだロシア人に代わってロシアの工場で働く作業員だ。そしてロシア軍のために働く人員だ。実際、ウクライナに対する戦争にもう1つの国がロシア側として参加していることになる」と、北朝鮮を「戦争の共犯者」「犯罪国」として糾弾していた。

 ウクライナの情報機関は大統領の発言の前日(15日)に西側メディアに「ロシア軍が最大3千人の北朝鮮兵を含む部隊を編成している」とか「北朝鮮兵士18人がロシア西部ブリャンスク、クルスク両州のウクライナとの国境付近で集団脱走した」などの情報をリークしていた。

 ウクライナ情報機関がもたらす情報に基づき、ゼレンスキ―大統領は10月17日、EU(欧州連合)首脳会議に出席した後の記者会見で再度、「北朝鮮が兵士1万人の派遣を準備している」と発言し、これに合わせるかのようにキリーロ・ブダノウ国防部情報総局長も米国の軍事メディア「ドワーゾーン(TWZ)」に「ウクライナが一部を掌握したロシアのクルスク地域に北朝鮮軍の先発隊2600人が来月投入される」との情報を流していた。

 この頃、韓国のキム・ソンホ国防次官はNATO(北大西洋条約機構)の国防相会合に出席するためブリュッセルに滞在していたが、金次官は韓国の「聯合ニュース」とのインタビューで北朝鮮の派兵疑惑について「我々は兵力ではなく、民間人の可能性もあるとみて注視している」と語っていた。

 北朝鮮がロシアに派遣している人材が軍人なのか、それとも労働者ら民間人なのか今一つ不明だったが、10月18日に韓国の情報機関「国情院」が幾つかの証拠を示し、「北朝鮮兵士の第1陣、約1500人がすでに10月8日から13日にかけて上陸艦4隻と護衛艦3隻でロシアに移送され、現在、極東地域のウラジオストク、ウスリースク、ハバロフスク、ブラゴヴェシチェンスクなどに分散し、ロシア軍部隊に駐留し、訓練中にある」との情報を公開したことで「北朝鮮の派兵」及び「北朝鮮の参戦」情報が世界に電波され、今ではほぼ既成事実化している。

 早速、ウクライナのアンドリー・シビハ外相はNATO諸国に「直ちに強い反応」を示すよう求め、また、ウクライナの戦略コミュニケーション・情報セキュリティーセンター(SPRAVDI)は外相を後押しするかのようにロシアの極東の沿海地方のセルギエフスキー訓練場で北朝鮮兵士らを撮ったものとする映像をX(ツイッター)で公表する一方、米CNNなどに訓練場で北朝鮮軍兵士がロシア軍の装備を受け取るためのロシア語と朝鮮語で書かれた申告書を証拠品として提供していた。

 ウクライナと韓国が次々と情報を公開しているにもかかわらず、米ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)報道官は10月18日(現地時間)「北朝鮮兵がロシア軍と共に戦っているとの報道は確認できていない」と述べ、また、NATOのルッテ事務総長も10月18日(現地時間)の記者会見で「北朝鮮兵士の参戦」に関する報道について「現時点で確認できていないというのが公式見解だ」と慎重な姿勢を示していた。

 

 米NSC報道官も「事実ならば、ウクライナに対するロシアの戦争で危険な展開となる」と述べ、またルッテ事務総長も「我々は韓国などのパートナー国と緊密に連絡を取り合っている。この見解は変わる可能性がある」と述べていたが、現時点では制裁など新たな対抗措置は取っていない。一連の情報が米国防総省やCIAなどの情報筋によるものでないことから慎重な姿勢を取っているようでもある。

 

 一方、北朝鮮とロシアはウクライナ発の情報や「国情院」の発表に沈黙したままで10月20日午後5時現在、公式反応はない。無視し続けるのか、あるいは「デマ」「でっちあげ」と応酬するのか、いずれにせよ、公式反応が待たれる。

(参考資料:北朝鮮軍がウクライナ戦争に参戦!? 韓国発の特殊部隊の「ロシア派兵説」を検証する!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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